あとは数mmという所で情けなくも
お地毛づいた俺は彼の顔面に渾身の
一撃を放ってしまった。


これは昨日の話。

そして本日、今朝から目も合わせて
貰えず彼の背中ばかりが視界に入り
部活にも集中出来ないのだから手に終えない。

そんな俺を見兼ねてか、赤髪よりも
バックに背負った禍々しいオーラが
目立つ我等がキャプテンより、当然の如く
外周30周を贈呈されてしまった。


息を切らしながら、歩を進めようやく半分。

流石に体力の限界を感じながらも
走っている間は彼の事を考えている
余裕なんて無かった為、走り続けるのも
悪くないなんて考えた。

(コレがランナーズハイってやつッスかねー…)

多分違うなんて事は解ってたけど
今はそれで良しとした。


空が赤紫に染まる頃、残り半分を
ようやく走り終え息を切らしながらも
体育館へ向かうとほぼ全員が帰っている
様だったが、ただ一人いつも最後まで
残ってボールに触れている彼がいた。

きっと彼が生きてきた概ね全ての時間の中に
バスケットボールというのは存在し、彼の中に
深く深く根付いていったのだと思う。

そんな中に自分という存在が住みついて
しまっていいのか、怖くなってしまったのだ。


俺は彼からも自分からも逃げた。


意識は明後日の方向にあっても視線は
彼を捉えていたので、当然の如く目が合う。

彼の瞳は逸らされる事はなく俺を見据える。
慌てふためく俺はさぞ滑稽に見えただろう。

瞳は逸らしたくなかった。
喉からは声にもならない音ばかりが漏れ
終いには涙しか溢れなかった。


(あぁ、情けない。恥ずかしい。)

彼に会ってから自分はいつもこうだ。
モデルなんて華やかな肩書きは脆くも崩れ去る。
彼の前では自分が自分では無い様な
錯覚にさえ陥ってしまう。

(今だってゴメンの一言すら言えない。)


逃げる様にその場に蹲って全てから目を背けた。

「…ったく、お前は…」

彼独特のため息が聞こえる
その音域は皮肉にも安堵感さえ
覚えるものだった。

「っんとに、泣き虫だよなぁ」

「…うる、さいっスよ」

目を逸らしてしまったけれども膝頭に
顎を乗せて涙が喉に詰まった声で
精一杯の抵抗を見せる。


おい、って呼ばれデコピンされ
抗議の声をあげようとした瞬間、
触れた。

一瞬で離されたけれども、
それは確実に自分の唇に重ねられた。

「んな顔してっと、モデルも台無しだな」

イタズラに口角をあげ、すくりと立ち上がる。

帰っぞ、と声を掛けられるが
突然の出来事に思考が停止する。
状況の整理が追いつかない。


動悸が激しい。
息苦しいのも、顔が熱いのも、
外周のせいじゃないという事だけは明確だった。



(俺はあんたの世界と同化したいと切望してるんスよ…)

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