口に含んだ飴玉をころころと転がす様に舐める。
口内の熱に溶かされる飴玉からは甘酸っぱいレモン味が広がる

常に何種類もののお菓子を所持している
紫の髪がふわりと揺れる長身の友人から
貰ったものだ。
自分も長身の部類に入る方だが、
2m越えの彼には敵わない。

しかし、2m以上の男が両腕いっぱいに
お菓子を抱えながら咀嚼する姿は本来は
珍妙な光景だとは思うが、彼が醸し出す
ふんわりと柔らかな存在感が違和感を
掻き消しているようだ。
流石お菓子の妖精と言われるだけある。

普段お菓子はあまり口にしない自分も彼を見ていると、
どうしてか食べたくなってくるのだから、更に不思議だ。
そうして、黄瀬ちんにもあげる、と手渡された
何種類かのお菓子の中から、今は飴玉を
咀嚼しているというわけだ。

先程までは、自分と彼ともう一人、
水色の髪に色白の肌伏せ目勝ちな瞳を有した、
いかにも文学少年の様に線の細い彼がいた。

色素い薄いせいか陽があたると輪郭線が
やんわりと掠れ目を細めなければ彼を捉えられない。
背負った光に飲み込まれてしまいそうな儚さを纏っている。

そうして男3人で机の上に広げられた
お菓子をつまみながら他愛もない話をする。
部活の話しや、学校の話し、新発売のお菓子の話しなど
自分達を取り巻く日常の話題は尽きることなく広がっていく。

気付けば時計の針は既に6時を回り赤紫色に染まっていた空は
いつの間にか黒く染まる準備を始めていた。

紫から暗い青へのグラデーションがキレイで思わず見蕩れた。
それは自分だけではなく彼等2人も同じだった様で、
3人で窓際に駆け寄る。
窓を開けるとぴゅう、と風邪が吹き鼻を掠める。
うぅ、寒い。と長身の彼が身を縮こまらせ
一番身長の低い彼の後ろに隠れる様に外を眺める。

それ意味ないじゃないッスか、って笑いながら
自分も彼等の傍に身を寄せる。触れた部分が暖かくて、
鼻がツンとする感覚に自然と目頭が熱くなる。

2人と目が合いお互い鼻が赤くなっている
事がおかしくてまた、笑ってしまった。


2人はそろそろ帰宅します、と鞄を持ち上げる。
一緒に帰りますか、と誘われたがもう少し残ってると、
手を振り教室を出て行く彼等の背中を見つめる。

窓際に目をやるとさっきまでの情景がまるで嘘の様に
殺風景な教室の風景が窓に反射していた。

6時30分を回っても変わらないのならばこの場所にいても
何も変わらないだろう。
そう見切りをつけて、彼等から貰ったお菓子を制服の
ポッケトに突っ込み、鞄を持って教室を後にした。

教室を出て右側に進めば昇降口なのだが、
左側へと足を向け使われない旧校舎側へと
進んでいった。

ほの暗い廊下を進んでいくと"立入禁止"と書かれた
看板が置かれる、屋上に続く階段まで辿り着く。
最初は正面を向くように置かれていたのであろう
その看板は今は斜めを向いている。
先入者の仕業であろう事は一目瞭然だ。

呆れる様なため息を零すも、
予感が当たった安堵感が押し寄せる。

重い上に少し錆びてきているドアノブに力を込める。
風圧が身体全身を多い先程の窓を開けた時とは比べ物に
ならない位の冷気が流れ込む。

寒さに身を縮めながらも先入者が
居るであろう場所を特定する。


とは言え、先入者である彼は常に同じ場所に居るのだから
特定は早かった。白い鉄格子に手を掛けると
冷たさに一瞬怯むも、はぁー、と息を吹きかけ
熱を取り戻した手で再度鉄格子を握る。

彼の名前を呼びひょっこりと顔を
覗かせればマフラーをぐるぐるに巻き、
隣にはホットの缶コーヒーをお供に
星を眺める彼が居た。

何してんスか、って問いかけながら隣に座れば
気付いたら星が見える時間になってた、
と空を見上げながら返された。

さっきは夕焼けもきれいだった事を伝えても
聞いているのか解らない空返事だけが返ってくる。

どんなに話しかけても彼はコチラを振り向く事はない
自分ばかりが見上げる事に胸が痛くなる。
下を向く事なく空ばかり見上げる彼の瞳には
一体何が映っているのか・・・。
その瞳に自分を映すことが出来ず冷えたコンクリートへ
視線を落とす。

先程貰ったお菓子をポケットから取り出す。
またレモン味の飴。黄瀬ちんは黄色いから、と
そんな理由で多く手渡された味だった。

食べるかと彼に聞いても返事は返ってこないので
不貞腐れて飴玉を口の中に放り込む。

ころころと口の中を転がる
溶ける様に染み込んでくるその味は
さっきよりも酸っぱくってじわじわと
熱に、溶けた。



(君の瞳にはきっとこの星空でさえ光を灯していないのだろう)

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -