うだる暑さから季節が秋に変わり
過ごし易い日が続くなとばかり思っていたのに、
気がつけば早朝の寒さがこたえる季節へと移り変わっていた。

秀徳高校バスケ部の朝は早い。
7時半には集合し早朝練習を開始する。
高尾の家からさほど遠くないとはいえ、
真っ直ぐに学校へ向かう訳ではないので
その時間も見積もって家を出なければならない。

暖かい布団の温もりを惜しみながら
身体を起こし学校へ行く支度を始める。

跳ねた寝癖を直し、学ランに袖を通せば準備は完了。
専用の乗り物に跨り、彼を迎えに行くためにペダルを
漕ぐ足に力を込める。

吹き抜ける風の冷たさが肌に染みる。
マフラーを巻いているとはいえ、短髪に前髪は
真ん中で分ける髪型のせいで、晒される額と耳が痛い。

明日はイヤーマフも必要かなー・・・なんて事を
考えている間に目的の彼の家に着く。

ただでさえ規格外の乗り物が通行人の邪魔にならない様
出来るだけ端に寄せて彼の家のインターホンを押す。

何時見ても大きい家だなぁ、と思いながら
少しカーテンが開いている彼の部屋の窓を見上げる。
彼の母親の声が機械越しに聞こえたので迎えに来た事を
告げると、少し待っていてね、と柔和な声が耳に響く。

ふと窓に目をやると少し開いていたカーテンの隙間から
彼が顔を覗かせていた。見上げた窓に大きく手を振ってやり、
おはよう、と口の形だけで伝える。
一瞥する様に見た後カーテンを閉められたが、ばかめ、と
言う様に口を開いていた事を見逃すわけがなかった。

お待たせ、という母親の後に彼が玄関から出てくる。
早くしないと遅刻すんぜ、って言うとわかっているのだよ、と
堂々と後部座席へ座る。

半年以上経過するこの光景を見慣れた彼の母親は
気を止めるわけでもなく、気をつけてね、と
俺たちの背中を見送った後家の中へと戻っていった。

この乗り物に乗るときのルールも決めたハズだが
既にあってない様なものだが、自然な流れで常に
俺が運転手となるのが定着してしまった。

後ろで今日のラッキーアイテムである狐のぬいぐるみを
抱きしめ、尻尾の辺りを頬に宛がっている。
珍しい光景ではあるのだが、恐らく寒さゆえだろう。
その証拠に鼻の先が真っ赤だ。

自分より20cmも身長の高い男が鼻を真っ赤にさせながら
狐のぬいぐるみを抱いている姿を可愛いなんて思うのは
恐らく彼を思う俺の気持ちが末期だからだろう。

学校に着くまでの時間彼にただ寒い思いをさせる
俺ではないのだよ。と、彼の口癖を心中真似しながら
制服のポケットに手を突っ込み彼の愛飲している
お汁粉の缶を投げ渡してやる。

驚いたようにコチラを見ているが、運転中の為
チラリとしか目をやれないのが悔やまれる。

行く前に買っておいたんだー、って笑うと、
少しの間の後に、少し冷めてしまっているのだよ、
と文句を言いながらも、静かに目を細め繊細な
手つきでゆっくりと頬に寄せ熱を感じている。

口では素直じゃない彼だけれども
行動と伴っていないところが非常に愛おしい。
自然と胸の奥からぽかぽかしてくる。

つい、口に出してしまいそうになるところで
赤信号で止まる。赤い光は警告の印。

忘れてはならない。彼は彼であるのと同時に
我が部の愛しのエース様なのだ。
口には出せない想いをを吐く息の白さに
乗せて伝えられたらと、願い、振り向く。

「真ちゃん」

瞳があった君に、笑顔。



冬の日
(きみを好きです。)

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