その兆し以前から既にソコに確立されていたのだと思う。

「あの・・・高尾くん・・・・。えと。今ちょっと平気かな・・・?」

お昼休み。
教室の窓際一番後ろの席で向かい合いながら
昼食を2人で取っている時の話しだ。

高尾に話しかけたその女生徒の顔は耳まで高潮させ
押し殺した様な震える声で、合わない視線を地面に
落としていた。

ちらりとコチラに視線を向ける高尾に
構わんと言わんばかりの視線を返す。

「わりぃー、真ちゃん。ちょっと行って来るわ!」

がたん、と椅子を鳴らし女生徒を姿を消す高尾の背中を
目の端で捕らえながら、目の前のお弁当を静かに口に運ぶ事にした。


高尾は人気がある
それは先刻の女生徒の様な好意を向ける者の他
男子生徒、教師、先輩、と老若男女隔たりなく
彼は様々な人間から好かれる。

あいつの周りからはいつも笑い声が絶えず聞こえてくる。
周りの意識を汲み取り自身の役割を把握し、ムードメーカーとして
溶け込むその技術には脱帽する。

(俺にはあんな事出来んからな・・・)

人見知りが激しいせいか、他者への警戒心は人一倍強く、
唯我独尊且つ頑ななまでに自身の意思を貫く俺の周りには
いつも気付いたら人がいない。

それを良しとしてくれる旧友等は他校へ行き、
それぞれ別々の道を歩んだ。
俺達に与えられた一つの繋がりだけは切れる事なく
変わらずに在ると信じているが、実際は何時だって
不安に駆られている。

だからこそ、ここに来て唯一俺を理解してくれた
あいつとの関係は出来れば大切にしたいと、思っている。

しかし事あるごとに俺のそばに来るので、たまに心配になる・・・・。

高尾は優しい。だからこそ、俺の性格故に
あいつに気を使わせてしまっていないだろうか。
(俺は高尾を独占してしまっている・・・)


「真ちゃん、ただいまなのだよー!」
「真似をするなと言っているのだよ。」
「そう言うなって、俺と真ちゃんの仲でしょーw」
「ふん、死ね。」

真ちゃんつれない!和成泣いちゃう!!なんて阿呆な茶番は
高尾との会話では日常茶飯事になりつつある。

先程の話題に触れることなく、自然とまた食事に戻る。
本当は何か言ってやりたいが、掛ける言葉が見つからず
口に含んだ卵焼きと共に胃に流し込んだ。



風の噂であの日高尾はあの女生徒に
告白されていたらしい事を耳にした。
まぁ、見るに明らだったので然したる驚きなどは無い。

俺にはよく解らないが、学年でも名高いとされる
女生徒から好意を持たれたこともあるというが
やはり断っていたらしい。

受ける告白を何故断るかを聞いた事があったが
その時高尾はいつもの調子で今はそれどころじゃねーし!
と笑顔と一緒に返されたのは記憶に新しいと思う。

だが、その返答が来る前の一瞬の眼光を俺は忘れない。

(睨まれたと思った。何故・・・・?)

目力というのは偉大だ。
その結論に留め、他の事に思考を移した。


部活の自主練も追え片付けを始めようとしたところに
高尾がタオルとドリンクを持ってきてくれていた。

最後まで一緒にいてくれる事に安堵感を覚え始めている。
こいつとならば、一緒に強くなれる。そう思える。
口には絶対に出さないが・・・。

「ほいよ、真ちゃん。お疲れさん!」
「ふん」
「先にシャワー浴びて来いよ。
この程度なら俺一人で片付けられるし。」
「コレは俺がやったものだ。
お前一人にやらせる道理はないのだよ。」

エースさまは素直じゃねぇな、ってまた笑う。
眩しくて思わず顔を背けてしまい、
自分の不甲斐なさに多少の後悔をする。

「真ちゃんは本当可愛いな!
じゃあさっさと済ませちまおうぜ!」

ポンと肩を叩かれ高尾は掃除を始める。
腑に落ちない台詞を言われ、眉間に皺が寄る

「可愛い、とは何なのだよ、高尾。」
「へ?」
190cm近くある俺に対して可愛いなどと高尾の視力を疑う。
ホークアイの副作用だろうか?

「俺は男でしかも身長もお前より高い。
そんな奴に対して可愛いとはどう言う事だ、
と聞いているのだよ。」
「ん?あぁ、そういう事か。
いや、俺の素直な感想だけど?」

なにかおかしかった?と更に疑問で返される。

「いや・・・、おかしいだろ・・・お前・・・」
「身長がどうとか関係ねーよ。
俺は緑間真太郎個人を可愛いと思ってるんだからさ。」

高尾の言葉に遮られ次の言葉を続けられなくなった。
胸が詰まるような感覚に眩暈がする。
つまらない奴といわれる事は良くある事だった。
自分もそう思うので否定はしない
バスケがあれば俺にはそれで充分だったから。

「真ちゃん」
普段と違う低い声で名前を呼ばれる。
そんな声で呼ばないで欲しい
正体の分からない感情はより一層
鼓動を速める。
言われ慣れない言葉を前に、零れる言葉は
まるで、嗚咽を漏らす様に落ちていく。


「迷惑だった?」
ゴメンね、と耳元で囁かれる。
無意識のうちに腰を落としていたらしく
目の前には高尾の心配そうな顔が覗く。
なんとも情けない姿を見られてしまった。
速くなる鼓動をどうにか鎮めようと、精一杯声を振り絞る。

「ふ…ん、勝手な、はん…断はやめるの、だよ…っ。
迷惑、とは…思わない、が…。」

視線は床を見つめていた。
高尾の顔をまともに見る事なんてとうに出来ない。

意識すればする程に歯切れが悪くなる。
高尾は、うん、とか、ゆっくりでいいよ、と
言いながら俺の手を包み静かに耳を傾けてくれる。

「め…、いわくではない、のだよ。
ただ、その…困るのだよ」
「なんで?」
「お前に…そんな事を言われては…他の者が…」
「他の奴が何か関係者あるの?」
「いや…。ただ、お前は色々な奴から、
好意を寄せられるのだから、そういうのは俺に言うのでは無く…」
「真ちゃん、俺が誰にでもそう言う事言うと思ってるの?」
「いや、そうでは無くだな、俺には言わずとも…」
「俺は真ちゃんだから言うんだよ!」

無理やり顔を上げさせられ高尾の瞳に捉えられる。
深く色づくその瞳の奥に縛られる自分の姿を見た様な、
そんな気がした。

(何故…)
そんなに俺の事に必死になるのだよ。

「いーわ、なんか。
真ちゃんやっぱすげー鈍いし、もぅ言うわ。」

何を言われるのか、説教をするつもりならば
受けてたつのだが…

「俺ね、真ちゃんの事好きなんだよ?」

予想の斜め上を行く言葉に思考の整理が追いつかず、
理解出来た時には俺の顔は一気に紅潮し
思考は停止していた。

「真ちゃんが俺の事そんな風に思ってないのはわかってる。
もぅ少し様子見てみるつもりだったんだけどさ、」

高尾が喋っている中、俺はと言うとあまりの衝撃に、
何も言えずに高尾の瞳を見ている事しか出来なかった。

「真ちゃんの態度見てたら、なんか阿保らしくなっちゃった。」

握られた手が頬に移動する
紅潮した頬に高尾の手が触れる。
そこだけがまた熱くなるのを感じる。


「くはっ、真ちゃんも俺の事好きっしょ!」

高尾の笑顔。
安堵感を、与えてくれる魔法の笑顔。
いつもと違うのは、高尾も頬を染めているからだろう。


この感情が高尾を「好き」という
概念のもと成り立っているかは、
まだ分からない。

それでも、静まらない動悸や
触れられる度に紅潮する頬、
笑顔をくれる度に胸が詰まる様な
そんな感情を言葉にするなら…

「お前が居ると、泣きたくなる」

「うん、それでも真ちゃんは笑っていて。
俺はその為に生きるよ」

溢れた感情は涙となり床に落ちる
高尾の額が重なる位まで近くなる
眼鏡を外し、瞳にキスをくれた
はにかみながら笑う高尾の瞳が
暖かくて、また一つ涙を落とした。



(その初恋、未成熟につき)
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