鉢屋をおとす

パチ、 パチン、 

5枚の用紙をひたすらホッチキスでとめていく。右から用紙を手に取ってホッチキスで留めて左に積んでいく。ipod忘れなきゃよかった、単調な作業は眠くなる。


「早川」
「んー」
「悪い、遅くなった」
「大丈夫だよ。もうちょっとで終わるけど」


鉢屋は鞄を近くの机に放り投げて私の正面の席に座る。
左から用紙を取る。ホッチキスで留める。できた冊子を右に置く。


「鉢屋ー」
「なんだ?」
「今日も断ってきたの?」
「…、そうだよ」


鉢屋は手を止めない。ちらりと右を見る。作業はもうすぐ終わると思ったのにな。
パチ、パチ、という音が二つに増えてがらんとした教室内に響く。


「モテる人は大変だね」
「……」
「鉢屋って」
「早川、手止まってる」
「告白を断った後いつもより少しだけ目が、」

バチッ


一際大きな音がして、気が付けば鉢屋と目が合っていた。鉢屋の手元の用紙の右上にはぐしゃりと潰れたホッチキスが鈍く光っている。
止めていた手を再び動かしながら、鉢屋に向けていた視線をおとす。


「私は分かったようなことを言われるのが嫌いだ」
「そうなんだ。手が止まってるよ鉢屋」
「何か言いたいことでもあるのか」
「言ってもいいけど言いたくないな」
「無意味に茶化すな」


鉢屋はなにが気にくわないんだか私を睨む。
彼はすっかり手を動かす気が無いようで持っていた出来損ないの冊子をばさりと置いた。


「鉢屋はいつも人を挑発するような目をしてる」
「気のせいだ」
「そうかもね」


私が何を言わんとしているのかいまいち掴めないようで鉢屋は黙り込む。


「人から好意を寄せられるのが苦手なの?」
「別に。応える気が無いだけで好意を持たれることに関しては何も思わない」
「その目が好き」
「はあ?」
「はは」

鉢屋のこんな表情は初めて見た。普段は飄々としている鉢屋のむかつく顔が今はなんだかかわいく見えた。訝しげに眉をひそめる鉢屋の顔を見てなんだか満足した。
パチ、パチ、単調な音が続く。


「早川って頭おかしいのか」
「鉢屋ほどいかれてないと思うけど」
「私は誰も好きになったことが無い」
「へー。不破くんたちは例外なのか」
「まあ…そうだ」
「それは残念」
「心にも無いことを」
「失礼だなぁ、恥ずかしいけど勇気を出して言ったのに」


私の声を最後に再び教室内が静まりかえる。
もう少しでこの単調なホッチキスマシンから女子高生に戻れる。何も言わない鉢屋が気になって顔をあげようとした。

ガタ、と椅子の動く音がして顔をあげたら鉢屋の唇が私の唇に触れた。

私は手にホッチキス持ったままだし、鉢屋は机に手をついて机の向こう側から私にキスしてるしなんだかおかしい。

ほんの数秒もしないうちに鉢屋は何事も無かったみたいにまた椅子に座った。
さっき失敗したホッチキスの芯をはずして、新たに留め直す。

「私ファーストキスなんだけど」
「私もだよ」
「鉢屋って好きな人いないんじゃなかったの?」


パチ、パチ、と素早い手つきでホッチキスを留めていく鉢屋はちらりと私の顔を見てまた目線を手元に戻した。心なしか笑ってる気がする。


「ついさっき好きになった」
「誰を」
「早川」
「変なの」
「そうか」


はい終わり、
鉢屋が最後の冊子を右側に高々と積まれた山に乗せた。
なんだこいつ、こんなに早くできるなら最初から来いよと思ったけどなんとなく言うのをやめた。

マフラーを巻いて鞄を手に取ってから彼はこちらを向いた。


「ずっとそこに座ってるのか」
「んな訳無いじゃん。帰るよ」
「ん。帰るぞ」


当たり前みたいに私に手を差し出す鉢屋。その手を取って一緒に帰るのもいいかもしれない。もしかして明日から一緒に帰れるのかな、自分でもびっくりするくらい浮き足だってることに気がついて少しだけ顔が熱くなった。






***
なんだか考えてた話と違う上によく分からなくなった

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