「花巻」

そう話しかけてきた藤くんに、吃驚しながら会釈する。と、通り過ぎていくのかと思えば、私の目の前でピタリと止まる。うへえっ!?なんで!?と考えながら、じいと見つめてくる藤くんを見つめる私。時が止まったように私たちは動かない。なにか言ったほうがいいのかなと脳みそだけは動いているのに。

「なあ、」

藤くんは言って、私の頬に左手をするりと押さえた。びく、と体が跳ねる。それに構わず、藤くんは言葉を続けた。

「ノート、写させてくれねえ?」
「ふえっ?」

変な言葉がでたが、あわててコクコク首を縦に振る。あ、私の字、汚いけれど大丈夫かしら…。

「サンキュー」
「…っ!」

へにゃりと微笑んだ藤くんは、とても可愛らしくて、頬が一気に熱くなった。


鹿


20110615
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