じい、と目の前にいる藤くんを見つめてみる。藤くんは、別な方向を見ていて気がつくことはないらしい。 私の憧れである藤くんは、いつもいろんな人に囲まれていて、格好良いし、申し分ない遠い存在。それでも、私のことを覚えていてくれるというだけで幸せなのに。 私はそれ以上の何かを、求めてしまっている。 見つめていても、私を見てくれない藤くんに手を伸ばしてしまいそうになる。届かないと解っているのに、私は馬鹿だ。 手に持っているピンクチェックのノートを落としても構わないから、藤くんに触れたい。そして、満たされたい。 「あ、花巻」 びくりと肩が、全身が跳ねた。藤くんが、私の名前を呼んでくれた。気がついてくれた。胸の中にじわじわと水のようにしみこんでくる何かを感じる。それは、私が求めていたものに近い。 「ふ、ふふじくん…っ!」 「? なんだ?」 「え、あああっ!あのっ!そ、その…っ」 言葉がでてこない。そもそも、何を言おうとしていたのかも、私には解らない。けれど、勇気を出すのよ。体が、脳みそが求めている、何かを、吐き出すのよ! 20110615 |