甘楽ちゃんは、ずっとずっとシズちゃんが好きだったけれど、シズちゃんは甘楽ちゃんのことがずっとずっと嫌いだったらしくて。ガラスなハートがボロボロに砕け散る感覚を味わいながらも、私が嫌いなシズちゃんにちょくちょくちょっかいをかけていた。アタックあるのみ。とか、いつかは報われるとか、そんなことは微塵にも思っていない。ただ、私はシズちゃんが好きだから、そんな気持ちでいっぱいだった。
シズちゃんはみんなに嫌われているのであれば、私が愛し続ければきっと、シズちゃんが悲しまないだろう。なんて幼い心は捨てた。シズちゃんは、もう、沢山の人に愛されている。罪歌は人じゃあないが、シズちゃんを愛してくれるのであれば、私はなんだっていい。ただ、シズちゃんを自由自在に操ろうとしているのならば、別だけど。
私はシズちゃんを愛している。昔だったら、嫌がられても意地でついていったりしていたが、今は、ヴァローナやトムさん、帝人くんに杏里ちゃんに正臣くんたちがいる。だから、私の居場所はなくなった。

「ばいばい」

誰かに届くわけないのに、口に出してみた。余計に虚しくなったが、これでもう、二度とここへ戻ってこれない。新宿も、池袋も良いところだったなあ。って思い出に使ってみる。昔のイザくんから始まって、今のシズちゃんで終わる。そんな私たちは、永久不滅だったらよかったのに。誰にも知らせない、私がこの街から消えること。イザくんに伝えてもよかったが、愛想笑いで「邪魔者がいなくなってせいせいする」とか言われたら、甘楽ちゃんへこんじゃうから。今日は、電車に乗ってぶらり旅。どうせならば、沖縄とかに行ってのんびり暮らすのもいいが、しばらくは放浪生活をしてみよう。お金なら、ある。愛はないけど、なんて痛いこと言ってみたり。思わず苦笑いをした。

「行くかな…」

私は座っていたベンチから立ち上がり、横に置いていた荷物がはいっている大きめな鞄を掴み、歩き出す。涙なんて流さない。そんなみっともないことなんか、しない。


20110405


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