放課後、終わった授業に掃除。サボっていた藤はのんきな顔をしているが、花巻は疲れているようだった。
教室にはほとんど人は残っておらず、藤と花巻が二人きりになるまではそんな時間はかからなかった。
最後の一人が帰った後、藤は自分の席に座っている花巻を呼んで、藤の前の席の机をくっつけて向かい合わせに座るよう要求し、その通りに花巻が座ると。
「花巻、歌え」
「え!?っと…じゃあ…森のクマさんを歌います…」
「どんなチョイスだ、それ」



     唄     



呆れ顔で花巻を見るめる藤に、涙目でごめんなさいと繰り返す花巻。
そんな花巻の方をつかみ、「もういい」と素っ気なく言った藤を誤解したのか涙がボロボロ溢れ出した。
「ごめ、なさ…っ」
ヒックヒックとしゃっくり交じりに謝る花巻が、ウサギのようにか弱く思えてきた藤はため息つきそうになったのを耐え、ポケットにいれっぱなしだった苺ミルク味のキャンディを取り出した。
「泣き止め」
ぐい、と無理やり持たせるように渡した苺ミルク飴を、花巻は涙が出続けてながら見ていたが、それが飴と知ると嬉しそうに恥ずかしそうに俯いた。
「早く、なきやめ」
焦っているように言った藤に少々びっくりしつつ、飴を持ちながら征服の裾で涙を拭く。そして、顔をあげてとびきりの笑顔で花巻は
「ありがとう」
声は震えていたが、それでもはっきりと聞こえた。藤は照れくさそうにそっぽを向いた。
「花巻、歌え」
「…はいっ」
花巻の歌声は、とても透き通っていてきれいなソプラノ。それにあわせるかのように、藤は低い声で小さく森のクマさんを歌い始める。
まるでお似合いのカップルだな、と思わせる二人を、忘れ物をして教室に戻りに来たのはいいものの、いい雰囲気で中に入れない明日葉は思った。


20110108

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