自殺。


煙草臭い。

制服には、あいつの吸う銘柄の煙草の臭いが染み着いていた。やだ、もう、なんかあいつが私の特別になったみたいで、悔しい。抗がわない自分を知ってるから、余計に。
昨日のことを思い起こすだけで顔が熱くなるのを自覚する。いや、恥ずかしい。
渡り廊下と廊下の境目、ロッカーの陰。在り来たりなようで意外と見つからないここで、私は一人でしゃがみ込んで赤くなっていた。

かたん、物音に振り返る。端正なその姿を見つけて、体が震えた。

「……そんなにおびえないでくださいよ」

彼は、石凪先輩は苦笑した。そんなこと言われたって。

「昨日はすいませんでした。制御が利かなくて」
「そんな、……そんなことで、私を」

そこから先を口に出すには、少し勇気が足りなかった。再び膝に顔を埋める。襲ったんですか、なんて。言えない。
別にそういうことしたわけじゃない。でも、初キス奪われた、し。その……でぃ、ディープのほう、だった、し。

「初めてだったんですもん……」
「知ってます」
「中学生のうちはしないって決めてたのに」
「、ごめんなさい」

因みにすごくうまかった。なんでよう、中3のくせに。涙が溢れる。

「なんで石凪先輩なんかに……っ」
「……そんなに、嫌でしたか?」

ひく、肩が揺れる。本当に悲しそうな声で言うものだから、私はどうしようもなくなる。

私は、石凪先輩が好きじゃない。
でもキスは嫌じゃなかった。

「……、だって」

言い訳する前に、ふわりと真正面から包み込むように抱きしめられる。酷い人だ、こんなことされて、心が揺らがないわけがない。

「僕は本気なんです」
「……いしなぎ、せんぱい」
「萌太」

顎をゆるりと持ち上げられて、優しく微笑する彼を目鼻の先に確認する。

「萌太と呼んでください」
「……」
「あなたは僕が嫌いですか?」
「、嫌いじゃない」
「なら」



3秒後、私たちの唇が再び出会う。







自殺。

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