家出兄妹と万屋シリーズ
「家出? ふうん」
……。
北海道から家出してきて、とにかく遠くへと辿り着いたのがここだった。
京都。裏の裏の裏の裏の、そのまた裏の裏ぐらいの路地裏。路地裏と呼んでいいのかわからないくらい、細い細い道の目立たない場所に、その店はあった。
ある人は八万屋と慕い。
ある人は情報屋と忌み。
ある人は地獄への入り口と恐れ。
ある人は楽園への抜け道と崇める。
それがここだった。
ここに来るまでに噂で聞いたそこに、僕らが住める物件を探しに来たわけだが。
この店主、どう考えてもやる気ありませんよね……
「北海道からねえ、こんないたいけな小学生二人が京都まで、ねえ。ふうんへーあーそう。お疲れ様」
「……あの、ですね」
「あー物件ね、はいはい。で、金は?」
「それ、なんですが」
崩子が申し訳なさそうに俯く。
僕は困り顔になりつつも笑顔を保ち、再び口を開いた。
「ここまで来るのに、結構使ってしまいまして」
「だろうねー。君たち見たところこっちの人間みたいだし」
「……、…………は、い?」
「石凪と闇口? 容姿からするとそうだけど、そんな兄妹いたかなー、お、もしかして我樹丸の子供? あいつ大厄島に帰ったんだってね、聞いたよ。あーだから逃げてきたのねーなるほどなるほど。じゃああんまり公になんないほうがいいのかなー。まああんまりあからさまなのもよくないかもね」
店主の女性はぺらぺらと実に饒舌にそこまで言うと、棚からファイルを取り出し、無駄に大きな付箋を貼ったページを開いた。
「あ、あの」
「ん? あー此処此処、人呼んで骨董アパート。美少女と美少年をこんなとこに住ませるのは気が進まないけど、君たちにとって一番都合がいい物件なんじゃないかなあ」
「あー、とですね」
「ありえません」
あ。崩子がきっぱりと言って立ち上がる。
むっとした顔で店主を睨む。これはよろしくない展開だ。
「私たちのことをそこまで知ってる人間を警戒しない理由なんてありません。信用できません、他を当たります」
「、崩子」
崩子は僕の腕を掴んで店を出ようとする。
「やだなあ美少女ちゃん。脳ある鷹は爪を隠すんだよ。僕はそんなにアホじゃないから、君を騙そうと思ったらわざと警戒されるようなことしないよー」
「しかし、」
「安心して、僕はただのしがない情報屋なんだから」
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7秒目で崩子は椅子に戻った。
納得してくれたようだ、よかったよかった。
「じゃあとりあえず此処紹介するねー」
店主さんはにへ、と笑いファイルを片づけ、別のファイルを取り出した。笑うとなかなか可愛い。
こんな感じで僕らはファーストコンタクトをとったのだった。
それで?
(シリーズ『疑問付。』始まり始まり)
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