強迫観念症候群


 運命とか、神様とか、そんなものがあるならば、それらは酷く残酷だと。私は制服のスカートの裾を握った。

好きですツキアッテクダサイ

 単純すぎる文字列は、私に宛てられたものでも私が発したものでもない。彼に宛てられた、可愛くて優しい女の子が発した、言葉。数分前の彼女が言った、此処で待ってて、黙って聞いてての意味をやっと今理解する。
 彼女はOKを貰える絶対の自信があったのだ。待ってての意味は、なんとも酷なものだった。

(にげ、たい)

 土を踏む足が震え、力がうまく入らない。

 近付きたい理由も並びたい理由も結局はそんな、青い夢の中にあったんだ。もう消え失せた、夢の中に。吐き気のようなものと一緒に涙がこみ上げる。落ちた滴は芝の上で跳ねて、土の色を変えるだけで、彼には届かない。意味のない涙ばかりがこぼれて、揺蕩う声など鼓膜に触れもしない。

(なんで)
「な、なんで!」

 びく、と肩が揺れる。ヒステリックとも言えるあの子の声。

「なんで……なんでよ、なんで私、じゃ、ないの? 石凪くん、だって前好きな人いるって言ってたじゃない」
「まあ、確かにそんなこと言いましたけどねえ」 苦笑混じりの彼の声。全てが反転する。

「嘘、うそよ……全部……そんな」
「申し訳ないですが、僕は今そこで健気に貴方の言うことをきいていた方にしかそういう感情を持てないんです」
「、は」
「暗くなる前に帰った方がいいのでは?」

 世界から音がログアウトする。目の前をあの子が走っていく。それを呆然と見送ってからしばらくして、彼の声が世界に溢れた。

「もっとかっこいい告白したかったんですがね」

 なんて言いながらも、彼はいつもどおりの柔和な笑みを浮かべている。目の前に立ってる彼は私の目元を指先でなぞった。

「腫れてる」
「あ、え」
「泣いてくれたんですか? 僕を想って」

 自意識過剰じゃないから、綺麗なだけ。わけもなく、意味のある涙がまた流れる。

「あ、貴方が、あんな人、と、付き合うの、悔しかったから」
「……」
「私だって、好き、だもん」
「僕もです」

 私を包む彼の体温が優しすぎて、

 涙は止まらないけどもう





強迫観念症候群(過去形)

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