彼は、ずるい。
いつの間にか見えない鎖を用意して、気づかれないようにそっちへ誘って、雁字搦めにしていく。私は、彼の側から離れられない。いつの間に私はこんなにも、彼を愛していたのだろうか。
「だから言ったのに」
心配するような言葉とは裏腹に、嘲るような声色。それさえ愛しいと思ってしまう私は、もう。
「此処にいなよ、どうせ何処にも行けないんでしょ?」
否定する要素なんてない。彼の思惑どおり、私は彼のものになるのだ。彼によってではなく、自ら。
「ね、愛してるよ」
嬉しい。それが妬ましくもあるが、今はそんなことどうでもよかった。
ペテン師が笑う頃に
(題by 梨本うい)
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