神様、私はこんなとこで運を使い果たしたくありません。


「駅までっすよね」
「は、はい」

遊馬崎さんはにへ、と笑いながら傘を持ち直した。ああ、そんな顔で笑われたら私の心臓が保たない。どくどく左胸の奥が波打って、顔に熱が集まる。あからさまに赤面しちゃって、バカみたい、冷静になろうとするけど無理なんだ。そんなこと知ってる。

「相合い傘なんて久しぶりっすねー」
「な……相合い傘、なんて」
「だってそうでしょ?」

そうだけど。なんだか、期待してしまうような含みのある言い方をするものだから、けして暖かいとはいえない気温に反比例して体温が上昇する。溶けて、しまいそうだ。

「天気予報も酷いっすねえ、今日は晴天って言ってたのに」
「そういえば、そうですよね」

まあそのお陰で相合い傘ができたわけだけど。なんて、言えない。
それからも本当に他愛ない、当たり障りのない会話をしながら池袋の雑踏を進んでいく。これでいいのかと頭の片隅で考えるけど、告白なんてできるわけもなく。でも、池袋まで来ることなんてなかなかないのに。

「……どうしたんすか?」
「え、」

あ。
どうやら、遊馬崎さんの服の裾を掴んでいたらしい。無意識とはいえ、よくそんな恥ずかしいことができたものだ。私は急いで手を放す。

「す、すいません」
「いや、いいんすけど。……あの」
「はい、?」

視界が暗転。暖かい、手のようなものが視界を覆って。
ちゅ、と。
唇に何かが触れて、音をたてて離れる。そして、視界が、白く。

「着きましたよ」
「え、あ」
「また来てくださいね、楽しみにしてますから」

遊馬崎さんはにへ、と笑って自分の折り畳み傘を開いて駅を去った。ていうか、傘持ってたんだ。溶けてしまいそうな脳で、そんなことを考えながら電車の走る騒音をシャットアウトした。








メルト
(題by ryo)





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