「……見つけた」

 墨より黒い空から無数の糸が垂れるように、銀色の滴が線を描きながら地面へと吸い込まれていく。水が物体を打つ喧噪の間を縫って、呆れたような、ほっとしたような、曖昧な振動が身体に到達、浸透する。震源地を求めて視線を顔ごと揺らすと、頬の赤に透明な空からの贈り物が染みて痛い、と感じた。
 震源地には愛しい人が立っていた。街のうるさい光を、丁度彼が遮っている。地面にべったりついたスカートに水分が進入して酷く冷たいように思う。そんなことより足に張り付いた布が、立ち上がるのに、あの人の側に行くのに、邪魔だと感じるのが先で、

 嗚呼、愛しい

「帝人だ」
「心配したんだから……」
「ふふ、あったかい。帝人は優しいね」
「違うよ、愛しいだけ。好きじゃなきゃ、見つけられない」
「あのね! 私ね、泣きたくなったら帝人のこと呼ぶんだよ。そしたらね、何処にいても帝人が来てくれるの、凄いね! 帝人ヒーローみたい」
「そう、かな? でも、大切な彼女が泣きそうになってるのは僕も悲しいから、助けなきゃ」

 彼の、日を浴びたことないような乳白色の肌に少し赤みが差しているのは、冷たい雨のせいか、それとも。

「好きだよ」
「へへ……知ってる」

 知ってるよ。全部、嘘だってこと、ぐらい。
 虐められてる私に手を差し伸べたのも偽善だってことぐらい。すぐ来てくれるのもただ盗聴機付けれてるだけってことぐらい。全部わかってるよ。

「もう、傷つかないで……ね?」
「……うん、ごめんね」

 ……嘘、だよ。
 本当は想ってくれてるって信じたい。だから、私はもう何も考えないことにした。ねえ、大好き。好きだよ! ……ねえ。

「帝人」
「うん」
「ぎゅー」
「……よしよし」

 全然つらくない。しあわせだよー。





恋するミュータント
(題by ピノキオP)





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