THANX & LOVES


 

「死ぬかもしれない…」

パートナーが2週間前、泣きながら実家に帰ってしまった。今までに築いた私達の信頼はなんだったんだ。
留年は嫌だったし、曲を書くことが自分の生きがいであるから無謀でも新しいパートナーを探した
先生には「自分で歌えばいいじゃない」と言われたが自信もなけりゃそんな歌唱力あるわけがない
だから作る側を志望したのによ

しかしそう簡単にパートナーが見つかるわけもなく、卒業まであと3ヶ月のところまできていた
せめて曲だけでもと考えれば考える程、気持ちは焦る。お陰でメロディどころかアイデアすら浮かばないでいた

「あじこちゃん、リラックス」
「分かってるけど」
「初心に戻るのも良いことだよ?」

なっちゃんの笑顔で癒されて、その日の放課後ピアノと向き合うことにした。
そういえばパソコンと睨めっこでピアノにすら触れていなかった…それじゃ煮詰まるのも当たり前か


一音一音が身に沁みる。そうだよ、この感じ。
自然と奏でられた、指がビックリするほど滑らかで心がムズムズする。でも楽しいから歌いたい。そう、今は素直に歌いたいと…


「…あじの?」
「………あ、聖川様」

教室のドアを中途半端に開けて聖川が突っ立っていた
間の抜けた顔なのに崩れないから驚きだ。私の顔のが間抜けなんじゃないか…?

「もしかして…聴いた?」
「ああ」
「やだー!!忘れて!!今すぐ忘れて!!」
「……無理だな」
「う…」

聖川は意地悪く笑う。こういう時だけは豊かな子だ。腹は立つが、微笑ましいから許せてしまう。
気持ちも楽になったので帰り支度を始めると聖川に「待て」と止められた。
少し時間が停まったようにシーンと耳に無音が響いた。聖川は一向に口を開こうとしない

「…何?」
「確かパートナーがいないんだよな?」
「うん」
「では、俺のパートナーになってくれ」


まさかの誘いにふわり宙に浮きそうになる
いや、しかし…聖川クラスともなると優勝を目指すのは当たり前。こちらとしてもそんな曲を作れるのは光栄だ。
だが時間がない。満足いく曲が作れる自信がない。
私のせいで聖川の足を引っ張るのは嫌だ。聖川じゃなくてもだけど…

「自信がない…それはなしだ」
「なしって」
「一人だからそう思うんだ、二人なら大丈夫」

「ふたり」その言葉が全身に響いた。嬉しい?そんな言葉じゃ足りない。簡単に言えば救われた。
パートナーの話でなく、自信と言う言葉に縛られていた私だ


「泣くな」
「嬉し泣き」
「そうか」
「聖川…本当ありがとう」


この気持ちだけで充分
これさえあれば最高の一曲が出来上がる
笑ってみせれば、優しい笑顔が返ってくる


「因みに自信というのは何かをやり遂げてから言うものだ」
「う…厳しいお言葉どうも」



 
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