陸.最後の夏祭り

 祭囃子が響く。人々の楽しげな声と足音が響く。提灯が夜の道を照らす。
二人は鳥居の前で本殿へ向かう人々を見つめていた。

「ねえ、兄様。今日もたくさんの人が来てるわ」
「とてもいいことだ」

毎年行われる夏祭りで人に化けたモノが混ざったり、ポケモンに混ざったりと人知れず楽しむモノたちがいる。
人にイタズラしないよう見張るのも二人の役割。

「とうさん、見て!あのキュウコンの像が微笑んでる!」
「!」
「おや、本当だね。きっと皆が楽しんでることが嬉しいんだよ」
「そうなんだ!よかった!」

仲良く話す青髪の親子が浴衣を着て鳥居をくぐった。
少年の言葉に驚いた彼女は目を見開いたまま。

「あの子、見えたの?」
「うーん。はっきりとは見えてないかな。彼は"キュウコンの像"と言ったから」
「それでも微笑んでるとわかったのよ。やっぱり子供は感じやすいわね」

多くの人が参拝して、あめりんごや綿飴を片手に神社を去っていくのを見てたら、さっきの少年が一人でいるのが見えた。

「あら?どうしたのかしら」
「人形焼きに目を奪われて、父とはぐれたようだ」
「まあ、よくあるわね」
「行ってきなよ。あの少年が気になってるならついでに助けてやればいい」
「いいの?」
「見守りは一人でもできる」
「じゃ、お言葉に甘えるわね」

土台から静かに降りて、半顔の面を袖口から取り出した。
面をつけ、少年と同い年くらいの子供の姿をして近づいた。

「ねえ?一人?」
「あ──。うん。とうさんとはぐれちゃったんだ」
「一緒に探そ?こっちこっち」

不安そうな顔をする少年を手招きして、人混みが少ない道を歩いた。
露店と露店の間を通って、奥へと進む。

「ねえ、きみのなまえは?」
「名前?……何て呼ばれてたかな?好きに呼んでいいわよ」

いろんな名前で呼ばれているし、自分の名前に興味関心があまりなかった。

「おれはハヤト。じゃあ……赤髪にキュウコンのめんをつけてるから"セキコ"だ!」
「セキコ……いいわね。ハヤト、お祭りは楽しい?」
「うん!すっごく楽しい!この日だけとうさんがゆっくり過ごせるから嬉しいんだ!」

ハヤトは自慢の父親の話をして、セキコは相槌を打ったり、気になることを聞いたりした。
会話をしてるうちにハヤトの父親の姿が見えた。

「あ!とうさん!」
「ハヤト!探したぞ」
「ごめんなさい」
「それにしても、よく父さんを見つけれたな?」
「うん!セキコがいたから──」

大丈夫。と言おうと、後ろを振り返ったら少女の姿がなかった。

「あれ?さっきまでいたのに…」
「誰かと一緒にいたのかい?」
「うん!キュウコンの面をつけた子がいたんだ。……とうさんに会わせたかったし、花火を一緒に見たかったな…」
「それは残念だね。でも、花火は神社にいたらどこでも見れるよ。そばに居なくても、見てる空は同じだからね」

キキョウの空に打ち上がった花火。
本数は多くなくても人々の心に響かせ、綺麗に咲いた花に心を奪う。

「もう戻ってきたのかい?」
「ええ、花火を見るならここが一番好きだもの」

面を取って、夜空を彩る花火を見る。
あの少年も同じ花火を見てると思うと、何だか嬉しい。

「いいことあったかな?」
「そうね。いい名前をつけてもらったからかしら」
「名前か。君が気にいるなんて余程なことだ。どんな名前だい?」
「セキコ。私はこれからこの名前で名乗るわ。いい名前でしょ?」
「ああ、いい名前だ。大切にするんだよ」
「当然よ。あの子が忘れてしまっても、私はずっと覚えてるわ」

また"来年"も来てくれたら──

同い年くらいの少女の姿で現れよう。
たとえ同じ時を生きれなくても、成長する姿を見守り、悪いことから退けようと思った。



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