弍.夕暮れの戯れ

 夕暮れ前に笛の音が響く。
町の人は誰かが吹いてるのを聞き──
「綺麗な音色だね」
「何だか懐かしい気持ちになる」
と話題になっていた。
その奏者を知るハヤトは、聞こえてきた方角へ向かっていた。

「セキコ!」
「あら、ハヤトじゃない」

人気のない路地の近くでセキコを見つけた。
演奏を終えて、龍笛を筒に戻しているところだった。

「今日は荒々しいというか…勢いのある曲だったな」
「ええ。父を猛獣によって噛み殺された息子が仇を討って、喜んで山道を駆け下りるありさまを舞にしたという説がある曲よ」
「いい曲なのか言い難いな」

その曲を演奏した理由は、ゴースたちが縄張り争いに勝って喜んでいたからだった。
昂りすぎた気持ちを抑えて、周りに迷惑かけないよう伝えたという。
それら経緯を話した時にセキコは両手を叩いた。

「そうだった。協力してほしいことを言ってなかったわね」
「言おうとしたところで、いきなり消えたからな」
「あの時はあまり時間がなかったのよ。それで、貴方に協力してほしいことは一つ。この町の神社で行っていた夏祭りを復興してほしいの」
「神社の夏祭り?」
「そうよ。もう十年近くはやってないわ。私はそこの神社の娘だけど、私一人の力じゃできない。でも、この町のジムリーダーである貴方の協力があれば可能なはずよ」
「流石に俺一人だけでできるかわからない。町全体の話だから、町の人達の協力もいるだろう」
「ええ。町の人達に思い出してほしいの。この町にあった神社と、その夏祭りを」

面で表情はわからないが、声がいつもより寂しげな感じだった。

「……協力、してくれるかしら?」
「そうだな。できることをやってみよう!」
「ありがとう。それじゃ、また今度」
「ああ」

セキコはそのまま路地裏へ走って、暗闇の中に溶け込んでいった。

「……神社の娘?待てよ、この町にある神社は──」

ハヤトはこの町に神社があったかうろ覚えだった。
幼い頃の記憶の中で、父が住民と話す姿を思い出す。
神社の神主が亡くなってから管理しているのは近所の住民達だけ。
その住民も高齢になって、管理を引き継ぐ者がいないと言っていた。
朧げな記憶を頼りに、その神社へ向かおうと思ったが、日が暮れそうになっていたからやめた。

「……神主に、娘がいたのだろうか?」

いたら管理は彼女が引き継ぐはず。
セキコと名乗り、神社の夏祭りを復興を目的としている彼女は本当に何者なのか──

「このこともマツバに相談しよう」

この手のことは彼に聞くのが早い。
自分が見ている少女が、奏でる曲も全て幻ではないことを祈った。



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