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アクション・コメディ
 イッシュ地方にある娯楽都市ライモンシティ。
街の中にあるテーマパークでポケモンGメンのヒロコがマニューラと一緒に行動しており、何らかの事件の捜査かと思いきや−

「マニューラ!次のボールを!!」

『マニャ!』

マニューラからボールを受け取ったヒロコはモーションに入って狙いを定めた。

「ッ!」

勢いのあるストレートの球は8番のパネルを抜いた。残るボールは3つ、パネルは7番と9番で残り秒数が表示されたボードを見てから構えた。

「……(焦らず端を狙うだけ!)」

上段の1番と3番と同じように狙えばパーフェクトが達成できて豪華景品をゲットできる。今日のヒロコは仕事がオフの日で、パークの新アトラクションにあったストラックアウトを楽しんでいたのだ。

『ニャ!』

「これで、終わりよっ!!」

パネルが残り1枚になったものの、投げた最後のスライダーは7番と8番の間にあるフレームに当たって跳ね返されてしまった。

「そんな!?」

『マニャァーッ!?』

「お姉さん惜しかったですね…。投げ方も良かったからパーフェクト達成すると思ったのですが……」

「悔しいわね…」『ニャァ…』

「こちら抜いたパネル数に応じた景品のスイーツ引換券です。系列店でしたら全国使えますので、機会があれば是非ご利用くださいっ」

「えぇ!またチャレンジするわ」

「お待ちしております!」

グローブを返却して景品の引換券を受け取ったヒロコは、久々にボールを投げたから肩を回して歩いていた。

「久しぶりの投げ込みは悪くないわね」

軽い運動して次はどのアトラクションを楽しんでみようか周りを見渡していたら2人の男が近づいてきた。

「お姉さん1人?」

「オレ達とアトラクション楽しまない?」

「マニューラがいるから1人じゃないわ」

「そうつれない事を言わずにさ〜?」

ナンパか、面倒だなと思ったヒロコは男達の間を通って無理矢理突破しようと考えていたら、逆に男達の間に割り込んでくる人が現れた。

「はいはい、兄ちゃんらそこ邪魔やから通らせてな〜」

「あ、ちょっ」「何すんだよ!」

「ほな、行こか」

「えっ」

割り込んできた人が通り際にヒロコの手を掴んでそのまま歩き始めたから男達が叫んだ。

「お前、いきなり割り込んで何するんだ!」

「何するって、この子うちの連れやけど自分ら何か用あるんか?ないやろ?ケガしたくなかったら、さっさと他んとこ行きや」

『フーッ』『ニャーッ』

ブラッキーとマニューラが2人に威嚇をして今にも噛みついたり、引っ掻いてきそうなオーラを全力で出した。

「チッ」「可愛くねえ」

男達は舌打ちをしながら去っていったのを見て掴んでいた手を離した。

「ヒロコにナンパするなんて100万年早いわ!」

「リシア!」

「ヒロコ!久しぶりやなーっこんなとこで会えると思わんかったわ」

「あたしも。どうしてイッシュに?」

「あー、ちょっとな…。立ち話もなんやし喫茶店に行かへん?」

「いいわよ」

テーマパーク内にある喫茶店でケーキセットを注文した2人は席に着いた。相変わらず袖を捲ったままでいるリシアに半袖を着ないのかと聞いたら、袖を捲らないと落ち着かないと答えた。

「今日オフやってんな!ええ時に会えたわ」

「そうよ。丁度新アトラクションができて、ポケモンと一緒に遊べるものがあったから色々行ってみたの。それでリシアは?」

「実は"また"地元から逃げてきてんな…」

「逃げてきたって…何かあったの?」

「制作依頼でドラゴンをイメージしたサンキャッチャーが欲しいって言われたから、どのドラゴンタイプのポケモンがええんかなーって着想を得る為にフスベジムに挑んだんよ」

「それで?」

「ジムをまた破壊してもうた」

「は…?」

「前は壁をぶち抜いてんけど、今度は天井をぶち抜いてもうてな……。いやぁ、山奥にある町やから空気が澄んでて空が綺麗やったわ」

「ちょっと、リシア。詳しく事情を聞かせてくれる?」

「え?」

向かい席にいるヒロコの表情はさっきまでと違って真面目なもので、リシアは猫背気味だった姿勢を正して慌て出した。

「あ、ちょっと待って。ジム2回も破壊したの怒ってる?まさかGメンやから器物破損でうちを取り締まるん!?」

「………」

「……詳しく話すから…御用、せんとってな……?アメちゃん、いる?」

「今はいいわ」

「話終わったら渡すわ!んーどっから説明したらええかな…。2回目破壊した理由がわかるよう1回目の話をするな?」

「えぇ」

1回目の事件を話してから昨日起きた2回目の事件について話し始めた。
数年前、ワタルから受け取ったライジングバッジを一旦イブキに返却して再戦を申し込んだ。結果はリシアの圧勝で終わって同じリザードンなのに何が違うのか理解できず、不服そうにバッジを投げ渡したのが原因だった。
怒りつつも一から十まで丁寧に説明をしたリシアは、そのままの勢いでリザードンをメガシンカしてブラストバーンを放ったら火柱が天井をぶち抜いてしまった。当然、騒動になって偶然フスベにいたワタルがジムに来てしまい、マズいと思って以前と同じように高飛びしようとした。

「それで、アサギ発の船に乗ってイッシュ行きのチケット買おうとトレーナーカードを掲示したら買われへんかってん。受付の人が電話してるのが見えたからヤバい!指名手配されたし、ここにおるのワタルさんに知らされる!と思ったわけや。それでジョウトから離れてネットで売ってたクチバ発の格安チケット買ってイッシュまで逃げてきてん………はい」

仕事モードのヒロコに目を合わせるのが気まずく、ポケットからアメを2個取り出して話は終わったという意味で彼女のグラスの横にソッと置いた。

「−という訳やねんけど……やっぱアカン?逮捕されるなら先にワタルさんだけ謝ってジムの修理代払うで…?」

「フフッ逮捕なんて冗談よ。ジムの修理代も気にしなくていいわ。バトル中にジムが破損するなんてよくある話だし、リシアが怒る気持ちもわかる」

「ホンマ!?わーっおおきにー!!」

ヒロコはワタル対して色々意識しているところがあると思いながらレモンティーを飲んだ。グラスの横に置かれたレモン味とサイコソーダ味のアメをポケットに入れてこの件の話は終わりという形で落ち着いた。
グラスに残った氷が溶けてカランッと音が鳴った時に、リシアは何か思い出したかのような反応して上着のポケットに入れてた物を取り出した。

「ヒロコはこの後用事ある?」

「特にないけど?」

「これ、ストラックアウトの景品で貰ってんけど一緒に観に行かへん?」

手に持っていたのはタチワキシティで使える映画のペアチケットだった。

「ストラックアウトの景品ってリシアもあのアトラクションで遊んでたの?」

「せやで。アサギでチケット買えなかった憂さ晴らしにやってん!」

「あたしは8枚抜いてデザートの引換券貰ったけど、映画のチケットって何枚目の景品?」

「そら映画のチケットやで?パーフェクト賞や!」

「パーフェクトの景品が映画のチケットだったなんて…!」

「時間制限と球数的に妥当な景品やな。球種は自由って言うてくれたからカーブとストレートでちょちょいのちょいやったわ!でも、ヒロコのスライダーが凄いもんやから羨ましかったわ…」

「え、ちょっと!いつから見てたの!?」

「実はテーマパーク内で一緒に観てくれそうな人探しとったら投球してるヒロコを見つけてな。おっしゃ、ええとこにおるやん!と思って、終わった後に話しかけようとしたら先越されたし、ヒロコが迷惑そうな顔しとったから割り込んだってんっ」

「そうだったのね!あの時は無理矢理2人の間を突破しようとしてたから助かったわ。まさか男達の後ろから割り込んでくるなんて思わなかったけど」

「コガネではアレできへんとタイムセールには勝たれへん。今回は2人だけで突破は簡単やったけど本場は人の壁を越えなあかんからな…」

少し遠い目をしながら珈琲を飲んだリシアはチケットをポケットにしまって微笑んだ。

「それで、デートのお誘いは受けてくれるん?」

「もちろんよ!」

「やった!!そうと決まったら早速タチワキシティへ行こうや」

「えぇ!」

アーケオスとエアームドが主人を乗せてライモンからタチワキまでひとっ飛びしてる最中に映画を観終わったらランチへ行く予定を決めた。
タチワキの北側にあるポケウッドに入るとカップルや家族連れが多く見かけた。

「ポケウッドで上映されてる一覧が増えたらしくって結構前の作品も上映してるんやってさ」

「へぇ…確かに種類が多いわね」

公開されている映画一覧を見ていたらヒロコが1枚のポスターを見つけた。

「あ、ハチクマンシリーズの新作公開されてるやん!この悪役が結構好きやねんなーって、ヒロコ?」

「………」

それは少し前の年代に公開されたアクション映画で銃を片手に持つ女性とバシャーモがメインビジュアルだった。タイトルは"トレジャーハンター 真の財宝"で目線がそのポスターのバシャーモに集中しているのに気づいたリシアは密かに笑みを浮かべた。

「…その映画にしよか!」

「えっいいの?」

「ええよ!バトルの演出が凄いらしいし、そのバシャーモが気になるやろ?」

「うっ…」

「観る映画決まったし売店でポップコーンとジュース買ってかんとな!」

ペアチケットを交換して売店のメニュー表を見ながら何にするか2人は悩んでいて、ポテトも欲しいけどやっぱり映画を観るならポップコーンかと話し合った。

「ポップコーンの味が塩とキャラメルがあるけど、どっちにする?」

「ヒロコの食べる量考えたら両方Lサイズ買っとこうや。絶対足りひんで」

「そうね」

「否定せえへんのかーい!」

ツッコミを入れながらポップコーンLサイズを2種類とジュースを買って館内の席に座った。
館内が暗くなってスクリーンにピカチュウが上映中の案内や注意事項を説明する映像が流れるこの時が1番ワクワクする、とリシアは思いながらポップコーンを食べ始めた。

「「………」」

映画の内容はトレジャーハンターのヒロインとパートナーのバシャーモが遺跡で盗賊団と財宝を巡るバトルを繰り広げる。アクションシーンや効果音がド派手で振動が椅子に伝わってきたり、ヒロインのパンチは演技ではなく、本気で殴っているから臨場感があった。ラストはヒロインとバシャーモのラブシーンで終わり、スタッフロールが流れて撮影場所がカロス地方と書かれていた。
The ENDのテロップが流れると館内が明るくなってポケウッドを出た2人は身体を伸ばした。

「あーっおもろかったな!」

「えぇ!ヒロインのピンチに助けにきたバシャーモの勇ましい姿がカッコよくて凄い演技力ね!」

「ド派手なアクションから最後にラブシーンで幕を閉じるのはええ演出やな!」

感想を話しながらタチワキシティからヒウンシティに移動して、焼きたてパン食べ放題のレストランで食事をする事にした。

「ヒロインのアクションシーンと鞭で武器を奪い取るシーンが演出じゃなくて本当にやってるの驚いたわ。この映画の為に鞭捌きと武術の特訓をこなしたのかしら…?それとバシャーモと息の合ったバトルは本物ね」

「そらトレーナーとして実力を積んでる元スタントウーマンの人が演技したらド派手なアクションになるで。逆にやられすぎないよう盗賊団役の人らが鍛え直したらしいし」

「詳しいわね?」

随分と詳しい舞台話にその映画のパンフレットをいつのまにか読んだのかなとヒロコは思っていたが−

「母さんが主演の映画おもろかったやろ?」

「えぇっ!?」

ヒロコが驚いてデザートで食べていたヒウンアイスが少し傾いて、バニプッチの表情が歪んでホラー映画のような雰囲気になった。

「うちの母さんはもう女優を辞めて作家に転職してんけどな。その映画がこっちで上映されてるのは驚いたわ」

「って事はあのバシャーモはリシアのお母さんのポケモン?」

「せやで!ヒロコと同じメガバシャーモにメガシンカしよるで。ホンマ強いしカッコええし、スターの名に恥じないポケモンやわ」

「お母さんは実力派なのね」

「そうやないと飯食っていかれへんしな。……母さんのバシャーモ見てたらヒロコのバシャーモを思い浮かぶわ。あの事件で一緒に戦って助けてくれたメガバシャーモ……うん!」

「?」

「ヒロコ!バトルしようや!!もちろん戦いたいのはバシャーモやけどなっ」

満面の笑顔だったが、その目は透き通った空色なのに炎が燃えているような錯覚を感じた。リシアが2匹同時のメガシンカを使いこなすトレーナーである事を知ってるのと、この熱い目をしている以上断る理由はない。

「じゃあ、あたしも共闘したデンリュウと戦ってみたいわ。メタグロスも悩んだけどね」

「大サービスで2匹相手してもええんやで?」

「電磁砲のようなスピードで突進するギガインパクトは受けたくないわ…」

あの絶大な威力を目の当たりにしたからこそメガシンカのダブルバトルは遠慮したくなる。

「冗談や!冗談!こういう時は1対1やっ」

「よかった。ところで、どこでバトルするの?」

「あそこの波止場でええやろ。人少ないし、一本道やから邪魔はあらへんと思うで」

レストランの窓から見える波止場があって、丁度船が出航したからしばらくは来ないと思った。

「ほな、熱りが冷める前に行こか!」

「えぇ!!」

会計を済ませた後、2人は波止場で向き合って指名されたポケモンを出した。
デンリュウとバシャーモがお互いを見つめ、波の音を静かに聞いてたリシアは右手に付けたメガブレスレットをヒロコは左手に付けたメガクロスにあるキーストーンに触れて同時に動いた。

「雷を纏い、新たな力は竜となりてその姿を現せ!」

「さぁ、さらなる高みへ!」

「「メガシンカ!!」」

それぞれのキーストーンとメガストーンが共鳴して七色の光が2匹を包み込む。

「リシア!あたし達の速さについてこれるかしら!?」

「ならばうちらはその速さに迎え撃つまでや!!」

絆の力はトレーナーとポケモンをさらに進化させて無限の可能性を引き出す。七色の光が周囲に弾けてメガシンカした2匹は大きな声で鳴いた。

「バシャーモ!フレアドライブ!!」

「ご挨拶やで、デンリュウ!10まんボルトや!!」

炎の鎧を纏ったメガバシャーモが突進してきたのをまともに受けながらも、獲物を捕まえたという顔で全身から強い電撃を浴びさせた。すぐにメガバシャーモはメガデンリュウから距離を取って次の出方を伺った。

「やっぱりビクともしないわね…!」

メガシンカでドラゴンタイプが追加されたから技の威力が半減しても素早さはこっちが優位。手数の多さで勝負するとヒロコは考えた。

「自慢の速さでも逃げれんよう吹っ飛ばしたれ!りゅうのはどう!」

「まもる!」

もの凄い勢いの衝撃波が襲いかかるのを見たメガバシャーモは腕をクロスに構えて身を守り、後方にいたヒロコのコートと髪を強くなびかせた。

「流石に守りよったか」

「広範囲すぎるわよ!ブレイズキック!」

「ほのおのパンチや!」

「そのまま連続でブレイズキックよ!」

助走をつけて足蹴りしてきたから1発目は右手で払い、2発目は左手で防ぐも何度も繰り返されると防ぎれない攻撃が何回もあった。それでもメガデンリュウはムキになってほのおのパンチで対抗していたが10発目の前にリシアは大きな声で叫んだ。

「10まんボルトやっ!!」

『パルーッ』

さっきよりも強く、自分の身を守るように電撃を放出させてメガバシャーモを離れさせた。

「ったく、力試ししたいのはわかるけどその様子見の仕方してええのは仕事の時だけや!」

「ずっと対抗してくるから何か狙いがあると思ったわ」

「強いて言うなら相手の体力消耗狙いや。……まぁ、悪かない結果やな」

「………」

何度も繰り返したブレイズキックは技の素早さは変わらずだが、少しずつ威力が落ちていた事にヒロコ自身気づいていた。使える技を潰すのも1つの戦術ではあるが耐久に自信がないと到底できるものではない。

「まだ技はあるわよ!とびひざげり!」

「飛び込むのは波動の中やで!!」

『!!』

放たれたりゅうのはどうの中に押し返されそうになりつつも、そのままメガデンリュウの頭に膝蹴りをした。

『グッ!!』

「うわっ思いっきり頭ぶつけよった!!デンリュウいけるかーっ!?」

「今のは流石に痛そうね…」

メガシンカは解けてないものの、メガデンリュウがぶつけた衝撃で目を回しながらフラついていたからメガバシャーモが額にある赤い玉をつついた。

『パッ!?』

『バシャッ』

メガデンリュウは頭を振って気を取り戻したが、まともに受けたダメージが大きく体力に余裕がなくなっていた。それは体力を消費する技を使ったメガバシャーモも同じ状態だった。

「……(バシャーモの速さを考えれば、とびひざげりが外れる可能性は低い。とはいえ、体力消費するフレアドライブで攻め続けるのは賭けね)」

「……(あの速さ相手に遠距離から攻撃を当てるのはキツい。せやから確実に当てれる状況にせんと先に蹴っ飛ばされるわ」

お互い状態異常になっていないからこの状況で火傷や麻痺になるか一撃が入れば勝負はつく。そして、先に動いたのはヒロコ達だった。

「バシャーモ!ブレイズキック!」

「10まんボルトや!」

ブレイズキックで攻めきたと思いきや、目の前で真上に飛び避けて素早くメガデンリュウの背後へ回り込んだ。

「しもた、後ろや…っ!!」

「フレアドライブ!」

『ッ!!』

「デンリュウ!」

メガデンリュウがまた10まんボルトを放つ前にフレアドライブで突撃して見事命中させた。地面に転がったメガデンリュウのメガシンカが解けて戦闘不能となった。

「やっぱ速さにやられてもうたか…。お疲れ様、デンリュウ」

『パルゥー…』

「バシャーモ、お疲れ様!」

『シャッ』

「ええバトルやったな!」

「えぇ!ここまで持久戦にされるなんて思わなかったわ」

「もうちょっと粘りたかったけど、バシャーモの速さには敵わんわ。……うちらは要塞のように敵を迎え撃つ戦い方をようするんやけど、何匹かヒロコみたいに攻める戦い方もするねんな」

「そうなの?」

バトルで見た事があるのはデンリュウ、メタグロス、ブラッキーだったから物理か特殊が高い耐久型の印象があった。リシアはポケットから取り出した回復の薬とヒメリの実をヒロコに投げ渡して、腰にあるボールを掴んだ。

「回復の薬と木の実?」

「すぐ使いや!やっぱり、そのバシャーモはうちの心に火を点けよったわ!!」

空高く投げたボールから出てきたのは、翼を大きく翻して地に舞い降りたリザードンだった。ヒロコはリシアの目を見た時に感じたものは錯覚じゃなかったと確信した。

「リザードン…!」

「もう一戦や!」

「いいわよ!バシャーモ。回復したけどまだ戦えるかしら?」

『シャモッ』

「2人ともおおきに!業火の炎を操りし青き瞳の竜よ、全てを焼き尽くせ。メガシンカ!!」

メガシンカしたメガリザードンYと対峙するメガバシャーモ。日照りが2匹のボルテージを上げて炎と炎の勝負が始まりそうになった瞬間、ヒロコの表情が固まった。

「あ…」

「ん?ヒロコどない−」

それを見たリシアは何かあったのかと聞こうとしたら左肩に手を置かれた。背後から伝わる威圧感にぎこちなく後ろを振り返ったらドラゴンのような厳つい表情をするワタルがいた。

「やっぱりイッシュ地方に来ていたか」

「げっ!?」

「やはり良いリザードンだな」

「……うちのリザードンを褒めても何も出えへんで。炎出るだけやで」

『グゥ』

左肩に置かれた手を振り払ってリシアはワタルから離れた。その警戒する眼差しを見てリザードンも戦闘体勢を崩さずに彼の様子を窺った。

「ヒロコ!リシアを捕まえろ。今度は逃すわけにはいかない」

「……ヒロコ、知り合いなん?」

「えぇ。でも、あたしはリシアを捕まえない。ここにいる事情を知っているし、今日はオフだから断るわ」

「ほう」「!!」

「リシア!ワタルの足止めをするから今のうちに−」

「ヒロコ!その先は言わんでええ!さっきの言葉だけで充分やっ」

「待て!!」

リシアはすぐにメガリザードンYの背中に飛び乗り、ヒロコはバシャーモをボールに戻して彼女が離脱するのを見届けようと空を見上げたら身体が浮かんだ。

「えぇっ!?」

あっという間にワタルの姿が小さく見えるくらい飛んでいってヒロコは慌てて後ろを見上げた。

「せっかく2度も庇ってくれたヒロコをほって逃げるわけないやん。バトルは中断されてもうたけど、まだデートの途中やで?」

「そうだけど…まさか連れ去られると思わなかったわ」

「狙ったお宝は逃さない。トレジャーハンターリシア、ここに見参!…なーんてなっ」

「あはは!じゃあ、お宝は大人しくしてた方がいいわね?」

「しばらくはな!ポケウッドドリームライドより怖くないやろ?」

「そうね」

気づけばさっきよりも空高く飛んでいて宙ぶらりんのままではあったが、メガリザードンがしっかりと抱えているから安心できた。

「こうも安全運転できるのはカイリューが追いかけてくるまでやな」

「あー……」

「その時は一旦ヒロコをリザードンの背中に移すけど…何か巻き込んでもうたな。ゴメンな?」

「気にしなくていいわよ」

今度会ったら何言われるか想像つくけど。と思いながら着信音が鳴り止まない端末の電源を少しの間切った。
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