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時を超えた奇跡2
 ロータは波導の勇者の伝説が残る街。そして、大昔にアーロンとシャインが命をかけて守り抜いた国。
自分達が散った後、ロータの平和が続いて現代でもその街が残っていることに喜びと、残してしまった子達が無事に世代を築いたことに安心した。

「………」

ただ、ツァイトとの関係がはっきりと思い出せないのが心残りで少しモヤモヤとした。

「波導使いの伝説が残る街で、アイリーン様が街とそこに住む人々を見守っています。3日ほどロータに里帰りをしてさっき帰ってきたばかりです」

「私も波導の勇者の伝説は知ってるわ。ツァイトちゃんはその街の出身なのね!」

「はい。"今も昔と変わらない"街並みでオルドラン城も綺麗なままです」

「………(今も昔と変わらない…)」

「レイン!」

「デンジ君!」

「起きたら家にいなかったから−」

普段着と違ったラフな格好のデンジがレインの元へ駆けつけた。その声が聞こえて、ツァイトは偶然伝わってきた波導に長話をしてしまったと思った。

「すみません。同じ波導使いと話せたからつい、話し込んでしまいました。それではー」

「待って!またお話したい時はどうしたらいいの?」

「レイン?誰と話してるんだ…?」

「……お互いの波導を知っていますし、結晶根がなくても連絡が取り合えるほどの力を秘めた波導石と結晶体を持っているのはボクらぐらいかと思います。レインさんは波導石に波導を込めて、ボクを思い浮かべて呼びかけたらボクの持つ結晶体を施した杖に届くはずです」

「ありがとう。ツァイトちゃん、またね」

「また、いつか」

「………」

波導石から反応がなくなって僅かに輝いてたのが消えていた。ただただ愛しく、その波導石を大切そうに胸に抱いた。

「レイン?」

「心配させてごめんなさい」

「さっき話してたツァイトって…テレパシーが使えるルカリオを連れた小柄のヤツか?にしても、あの時より随分と落ち着いたというか高い声だったが……」

「え?デンジ君、ツァイトちゃんに会ったことがあるの?それはいつ頃なの?」

さっき初めて話した雰囲気ではないのを感じ取ったデンジは、レインの頬に残った涙の跡に触れた。この様子は前世の記憶が関わっていると直感した。

「レインが旅立ってしばらくしてからだな。連日で停電続いてた時にジムにやってきて、街に住む人々を守る役割をしてる人が街の人を困らせてどうする!って怒られた」

「ふふふっ」

「いや、笑うなよ…」

そう言いながら着ていた上着を脱いでレインの肩にかけた。

「ありがとう」

「あぁ。それと」

「ん?」

「喧嘩して負けた」

「えっ?喧嘩?バトルじゃなくて?」

「ポケモンバトルじゃなくて普通に喧嘩して負けた」

一体何があったのかレインは聞こうとしたけど、デンジの顔を見て相当ショックだったのがわかって聞かないことにした。

 結晶体から波導の反応がなくなったのを確認したツァイトは帽子の鍔を掴んで俯いた。

「……シャイン、さん」

『その波導は彼女のだったか』

「あぁ。……生まれ変わって今はレインという名で生きている。幸せそうでよかった。それに、彼女を想う人が側にいるみたいだ」

『そのようだな』

「また、連絡してくれるから楽しみだ」

懐かしさをしみじみと感じながら結晶体の杖を持ちなおした。
帰宅して昼食を摂った後、図書館へ向かってる途中でゲンに会って今朝帰ってきた時の出来事を話した。

「ミオから離れた所にいる波導使い……。レインちゃんのことかい?」

「知ってるのか?」

「うん。結構前にね。ツァイトと出会う前から知ってるよ。偶然とはいえ、彼女が波導石を拾ったのは何かの縁かもね」

「ボクもそうだと思う。そうだ。晩御飯はグラタンにするからよかったら食べないか?」

「猫舌なのにグラタン?」

「猫舌を克服しようと思って……」

「火傷しないようにね」

熱い食べ物を慎重に食べる様子を何回か見ているけど、何かあった日は決まって火傷していた。

 あれから繋がりに不安定な時もあったけど、2人は波導を介してミオの喫茶店にある新作のお菓子が美味しかった、また停電したけど復旧が早くなったといろんな話をしていた。

「ツァイトちゃん、今日は予定あるかしら?」

「いえ、特にありませんが……?」

「良かったらだけど、家に来る?クッキーを作ったからツァイトちゃんに食べてほしいの」

「クッキー……!よろしいのですか!?」

クッキーと聞いて喜びを隠せない声を聞いてレインは微笑んだ。その時、遠い記憶で幼い頃のツァイトがクッキーを美味しそうに食べてる光景を思い出した。

「えぇ!波導石で会話してるけど、直接会ってツァイトちゃんとお話ししたいから」

「ありがとうございます。ボクもレインさんと会って話したかったです。クッキーを用意してくださってるので、紅茶の茶葉を持って行きます!」

「ありがとう。私の家はナギサジムの近くだから着いたら連絡してね」

「わかりました!すぐ用意して出発しますっ」

スッと波導が薄れて会話が終わったから今頃ツァイトは準備してすぐに出発すると思った。波導石をエプロンのポケットに入れて、クッキーを渡す人数を数えた。

「……もうちょっと追加で焼いておこうかしら?」

よく食べる子だったような、と微かな記憶を頼りにキッチンへ戻って追加分を作り始めた。

 会話が終わって、ツァイトは台所の棚から茶葉の缶をいくつか取り出して小さな鞄に入れた。他に何がいるか外套を片手に考えていたら、ルカリオにそう慌てるなと背中を叩かれた。

「だって、レインさんからお茶会に誘われたんだ。準備を怠るわけにはいかないじゃないか」

『だからといってカップは持って行かなくてもいいだろう…。流石に彼女の家に2つくらいはあるはずだ。あとジャムもだ』

「え」

茶葉の缶の他にジャムの瓶も入れてるとこを見られて、ツァイトはソッと入れた瓶をテーブルに戻した。とりあえず焼菓子に合う茶葉だけ持ってナギサシティへ向かった。

 渡す人用に小分け袋に入れ終えたら波導石に反応があった。

「もしもし?ツァイトちゃん?」

「レインさん!今、ナギサジムの方面へ向かってます。待ち合わせ場所はどうしますか?」

「じゃあ、ナギサジムの前で待っててくれる?私も向かうわ」

「わかりました!」

波導石の反応がなくなって、レインはエプロンを脱いだ。

「ちょっと緊張するわ…」

改めて会うとどんな感じなのかわからないし、当時の記憶が思い出すかもしれない。
いろんな想いを胸にレインはナギサジムへ向かうと、ルカリオとウインディを連れた子が見えた。紺色の帽子と外套、波導石と同じ色の石が施されたステッキを持っているから紳士のような印象だった。

「ツァイトちゃん?」

「!」

「あ−」

名前を呼ばれてツァイトが帽子のつばを上げると、金と赤の瞳に"あの子"で間違いないと確信した。

『わぁ、懐かしいな!』

わふっと小さく吠えたウインディは尻尾を大きく振った。

「え?私、能力使ってないのにウインディの声が……」

「こら、ウインディ。いきなり話しかけたら驚くだろ?」

『だってよー』

「ウインディは人の言葉を話せます。確かこの時代ではテレパシー、というものでしたね。驚きました?」

「えぇ!ルカリオやエスパータイプ、とても強い能力を持つポケモン達以外にテレパシーを使うポケモンは初めてよ」

『オレはツァイトの波導と炎の石の力が合わさって話せるようになったんだぜ』

「そうなのね!ツァイトちゃんもポケモンの声がわかるの?」

「はい。人と話すのと同じようにわかります」

柔らかく微笑むからあの頃より成長した姿はこうなるのか、と見ることが叶わなかった想いに涙が出そうになった。服装といい、短髪になってるからパッと見た感じだと男の子に見える。

「立ち話はここまでにして、続きは家でね?」

「そうですね。手ぶらで来るわけにはいかなかったので、焼菓子に合う茶葉を持ってきました」

『あとツァイトの好きなジャムも1種類持ってきている』

「ルカリオ?!いつ見たんだ?!」

『そのくらい波導でわかる』

「ふふふ!ありがとね、ツァイトちゃん。クッキー食べる前にいれるわね」

「その役はボクがやります。ご自宅にお邪魔しますし、レインさんに美味しい紅茶をいただいて欲しいので」

「じゃあ、お願いするね」

「はいっ」

家に入る時にウインディだけボールに戻して、ツァイトとルカリオは家に上がった。早速、紅茶をいれる準備をして立ち話の続きをしてると、昔の記憶と重なる部分があった。

「……(現世でも同じことが起きたのかしら)」

「レインさんは砂糖と他に何か入れますか?」

「最初はストレートでいただくわ。その後はミルクを入れていい?」

「もちろんです!」

いれたての紅茶と焼き立てのクッキーをテーブルに並べてお茶会が始まった。クッキーを食べて喜ぶツァイトを見て、微笑ましく思っているとチャイムの音が鳴った。

「……?ちょっと、席を外すね」

「どうぞ」

『………』

レインが玄関のドアを開けたら2人の配達員が大きな段ボールを届けに来ていた。

「……?(デンジ君、何か買ったの?)」

「デンジさんのお宅で間違いないですか?」

「えぇ、合ってるわ」

「では−」

「オレ達について来てもらおうか」

「え…っ!!」

配達員を装った男に銃を突きつけられて、驚いたレインは一歩下がった。

「レインさん!」

「中にもう1人いたか!」

波導に異変を感じたツァイトはすぐに玄関に来て、レインの腕を掴んで自分の後ろへ引き込んだ。

「ツァイトちゃん!相手は銃を持ってるわっ」

「銃?」

「おぉ?拐われそうになった姫を助ける王子様ってか?」

「彼女にはもう王子様がいるからボクは彼女の騎士だな!!」

『ツァイト、手加減は』

「なしだ!!」

「この野郎!」

「させるかっ」

銃を向けてきた男が引き金を引く前にルカリオが蹴り飛ばした。すかさずツァイトが波導弾をもう1人の男に放った。

「グハ…ッ」

1発で気絶させたツァイトは服についた土埃を払った。

「もう大丈夫です。レインさん、お怪我はありませんか?」

「私は大丈夫よ。それにしてもツァイトちゃん強いわね!大人を1発で倒すなんてすごいわ」

「このくらいできなかったら護衛は務まりません」

『……(素直に喜んだらいいのに)』

「ジョーイさんに通報しなきゃ」

レインの通報ですぐにジョーイさんが駆けつけ、最近噂になっていた誘拐犯は御用となった。
その後、デンジが慌てて帰宅したのとジョーイさんから後日改めて事情を聞きに来ることになった。お茶会は一旦お開きにしてまた日を改めてする約束をした。

「助かった」

「またね。ツァイトちゃん」

「今度はボクも焼菓子を用意してきます。それでは」

ピジョットに乗ったツァイトとルカリオは見えなくなるまで手を振っている2人に大きく手を振り返した。

「……また会いましょう。シャインさん……いや、レインさん」

『誘拐犯から守れてよかったな』

「あぁ。あの時、2人を守れなかったのをずっと悔やんでいた。また会えるのなら今度はボクが守ると決めていたけど、この時代で生きている彼女にはもう守ってくれる人がいるから−」

 気になった本を抱えて、ツァイトは目を輝かせながらシャインの元へ来た。

「シャインさん!本を読んでくれませんか?」

「えぇ、いいわ!」

育て親でもあるシャインをツァイトは心から大切な人だと思っていた。いろんな花や本を教えてくれた日々をまた思い出して空を見上げた。

「これからは、友として」

時を超えて出会えたのは奇跡に近い。この出会いに感謝を込め、ツァイトは右手を胸に教えてもらった"おまじない"の言葉を呟いた。
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