私は周りが見えない真っ暗闇の中、冷たくも暖かくもない虚無な空間を1人でさ迷っていた。自分の名前しかわからないし、何故ここにいるのかもわからない。ずっと歩き続けて途方にくれそうになっていたら淡い光が見えてきた。
「これは…何?」
近づいてみると小さな炎が静かに浮いていた。触れたら熱いのだろうか?と思いながら手を近づけるとほのかに暖かさを感じた。
「何だか心が温まるような懐かしい感じがする…何でだろう?」
何だか心地いいと感じていると、光が揺らめいて炎の中に何かが見えてきた。
「あれ、誰だろ……。知ってるはずなのに…」
そこには誰かと一緒に笑っている幼い頃のものだった。必死にそこにいる"彼ら"のことを思い出そうとしたらと炎から声が聞こえた。
"君の名前は?―ぼくはレッド"
"オレはグリーン!マサラタウンに住んでる!"
「……?」
その名前と声に聞き覚えがある。レッドとグリーン…マサラタウン………旅。
名前を聞いた途端、何かを思い出すかのように次々と単語が出てくる。
「約束…リーグでまた会おう」
空っぽだった私の中を少しずつ色鮮やかになっていく。
"ぼくがジムのバッチ8こ集めてリーグに挑戦して、チャンピオンになったら…"
夕陽のあの場所で−
"ぼくと付き合って"
想いを寄せていた彼に告白された。
「レッド!!」
旅や3人で約束したこと、レッドのことを思い出した瞬間、炎は光輝いて周りの真っ暗闇を払うかのように広がった。白く明るい世界になって、今まで旅をした出来事を全て思い出した。
「そうだ…!!私は、旅をしていた!約束のリーグ制覇する為に!レッド達とまた会う為に!そして、故郷を滅ぼした組織を見つける…!あいつらに…ロケット団に負けてたまるかぁぁぁあっ!!」
炎は私の声を応えるように強く燃えて、あの時と同じように私を包んだ。左手に懐かしい温もりを感じながら目を閉じた。
「………」
目が覚めるとポケセンの天井が見えた。何回か瞬きをしてあの世界から戻ってきたんだと思っていたら全身痛みだした。
「うっ!い、痛たた…。至るところ包帯で巻かれてるってどんな怪我をしたんだ、ろ……?」
首を動かして真っ先に見えたのが両腕が包帯で巻かれていた。そして、左手を掴まれてる感覚があって左側を見ると…座りながら寝ているレッドがいた。
「え、レッド……?!」
まさかレッドが隣にいるとは思いもしなかった。起こすのも悪いと思って左手をできる限り動かさないよう身体を起こした。
「……本当にレッドだ。最後に会った時と服装は変わらないけど身長かなり伸びた、よね?」
少し大きめだった上着が今ではサイズが合ってる感じがする。トレードマークとも言える赤い帽子は横の机に置いてあった。
「あ、リンゴ。後で食べようかな」
帽子の隣に置いてある真っ赤で新鮮そうなリンゴを見た後、レッドの顔をまじまじ見ていると…目が覚めた彼と目が合った。
「ジルチ……?」
「レッド、おはよ?」
私の声を聞いた途端、レッドは少し泣きそうな顔していきなり抱きついきた。
「よかった…!無事に目が覚めてよかったっ!!」
「ちょっと、レッド苦しい…」
ぎゅうぎゅうに抱きしめられて嬉しいけど身体がすごく痛い。
「っ!嬉しくてつい。身体、大丈夫?」
「ちょっと痛むかな…。それと、ここはどこのポケセン?」
「フスベシティ。グリーン達と一緒にチョウジタウンからここまで運んできた」
「チョウジタウンから…ってロケット団は!?私、意識を失ってからの記憶がないのだけど!!」
ランスに投薬されてから記憶がないし、この怪我の原因がわからなかった。
「僕は途中から合流したから詳しい状況はわからないけど…心を閉ざされてロケット団の道具になったジルチを止める為にワタルのカイリュー、グリーンのウインディと戦ってた。その後は僕のピカチュウも参戦してジルチを止めた」
「え、私…3人に攻撃したの?」
「うん。僕らも止める為に攻撃した」
「そんな…!!」
ロケット団の道具にされた挙句、皆に襲いかかったことが衝撃的すぎて罪悪感に襲われた。
「ジルチは気にしなくていいよ」
「でも…!!」
「無事に目を覚ましたんだ。それだけでも僕らは充分だ」
落ち込んでいると昔のように頭を撫でてくれた。レッドがそう言うなら…と渋々納得したのを見て彼は何度も頷いた。
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