外伝.鳥と幽霊の宅急便
 ―エンジュシティ
ホウオウの件が無事に終わってしばらく経ったある日、ジルチちゃんが得体の知れない赤黒い何かに飲まれてしまう光景を千里眼で見た。彼女の不気味に光る瞳に冷や汗が流れ、そのことがずっと気になっていると最近になってまた彼女が見えた。
ワタルさんにトキワジムのグリーン君とヒビキ君が一緒にいて、赤い帽子を被った少年が傷だらけのジルチちゃんを抱えてフスベシティへ向かう光景だった。

「どうやら事は最悪な方向にならなかったみたいだね。とはいえ、重傷のジルチちゃん大丈夫かな…炎の加護があっても僕は心配だよ」

『ゲゲーン!』

ゲンガーがいきなり襖を開けたと思ったらハヤトが来た。

「邪魔するよ。頼まれたリンゴを持ってきたがどうする気だ?」

「ありがとう。フスベにいるジルチちゃんに送ろうと思ってね。ハヤトも手紙を書くか?」

「もうフスベに……いや、チョウジタウンの件はどうなったんだ?ジルチはチョウジジムに挑まずフスベへ向かったとは思えないんだが」

流石、ジルチちゃんのお兄ちゃん代表。チョウジタウンを避けてフスベシティに向かったとは思わなかったか。

「炎の加護のおかげで一命を取り留めた感じかな。それとリンゴを届ける為にピジョットを貸してくれないか?」

「一命を取り留めたってまた無茶をしたのか!?」

「無茶をさせられた、が正しいよ。あの子は罠にハメられたようなものだから。はい、紙と筆」

「………」

ハヤトは少し唸りながら紙と筆を受け取って手紙を書いてくれた。あの様子だと今度ジルチちゃんに会ったら説教しそうだ。

「…あの時に授かった炎の加護って一体何なんだ?傷を癒した不思議な炎だったが……」

「ホウオウから授かった炎の加護は命の炎。三聖獣を蘇らせたと云われている力だ。例え邪悪なものに呑まれて消えそうになっても、蘇るかのように燃え上がるだろう」

「……そうか。彼女は強いからその加護で何度でも立ち上がれるよな。だが、その加護があるからといっても……」

ハヤトは筆置いて手紙を綺麗に折りたたんだ。今回ばかりは不安が募るばかりでその表情は曇っている。

「母親の死を乗り越えて旅に出たのに、ずっと困難ばかりでいつか躓いてしまうんじゃないかって思うんだ。手紙に説教を書こうか悩んだが1枚じゃ足りないかもしれないから忠告だけにした」

時間があったら彼はフスベへ向かうかもしれないが、ジムのことがあるから遠出はできない。きっと心の中で葛藤してるだろうと思いながら手紙を受け取った。

「ありがとう。じゃあゲンガーとピジョット、フスベまでよろしく頼むよ」

『ゲン!』『ポー!』

ゲンガーにリンゴと手紙を入れた籠を渡してピジョットの背中に乗った。

「気をつけていくんだよー」

空へ羽ばたいて小さくなっていく彼らを見て、ゲンガーにリンゴをつまみ食いしないように注意するのを忘れていた。

「マツバ。これからのジルチは大丈夫なのか?」

「もう彼がそばにいるから大丈夫」

「彼?」

赤い帽子を被った少年。彼がそばにいる間は大丈夫だと思う。そして、ジルチちゃんの旅路に光がありますように。
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