外伝.ドラゴン使いと水の護神
 俺がシズクとサフィラスと知り合い、その娘のジルチを頼まれたのは5年ぐらい前のことだ。
息抜きでリーグの外へ出た時にサフィラスと名乗る妙な男が「ドラゴン使いのチャンピオンでポケモンGメンでもある君に頼みがある」と言われた。

「君はポケモンと人の間に産まれた子供がいると聞いて信じるかい?」

「何…?」

「僕の妻と娘がホウエンからカントーへ引っ越すのだけど2人に何かあったら悪い組織から守ってほしいんだ」

「話が随分と唐突だな?仮にポケモンと人の間に産まれたという証拠は?それに悪い組織とはロケット団のことか?」

本当に唐突で信じがたい話だ。この男が何者かわからない以上行動に移せないし、悪い組織と言われてもカントーにはポケモンマフィアと呼ばれるロケット団くらいしか思いつかない。

「……」

警戒しているとサフィラスは胸ポケットから1枚の写真を取り出した。

「これ、僕の家族写真。この子が娘のジルチ。ちなみにロケット団も含めてだよ」

「………」

見せてもらったが、いたって普通の家族写真だ。写真に写っている女の子と女性を見比べると娘なのがよくわかる。しかしサフィラスは目の前にいるのと同じ姿でポケモンとは思えない。

「今、僕の姿が人間だから疑ったでしょ?信じてもらう為に本当の姿を見せてあげよう」

「!!」

サフィラスが光ったと思えば赤い瞳で青色の翼が生えたポケモンになった。まさかポケモンが人の姿に変身できるとは思わなかったが、目の前にいるポケモンが事実を証明している。

「本当にポケモンだったのか…。わかった。君の話を信じよう」

『そう言ってもらえると助かるよ。カントーでは生息しないポケモンだからこの姿でうろつけないんだ。ラティオスというポケモンを知ってる?』

また光ったと思えば人の姿に戻っていた。しかし、よく見れば服装が現代には似つかわしくない独特の感じがした。

「あぁ、ホウエンに生息する珍しいポケモンだったか?あまり詳しく知らないが…」

「まぁそんなとこだね。シズクの連絡先はこれだからよろしく頼むね。僕はもうホウエンに帰るよ」

小さく折り畳まれた紙を受け取ると一瞬で姿を消した。メモを見ると"マサラタウン オーキド博士研究所。僕らの身に何かがあって、ジルチが1人になった時は君に託す。もし君でよければ娘を貰ってくれて構わないから"と書いてあった。

「いくらなんでも娘をやると言わなくても…。とりあえず母親のシズクと連絡を取ってみるか」

その後、シズクと何回か手紙でやり取りをして直接会ってみた。初めて会った時、彼女の雰囲気はどことなくサフィラスと似た不思議な感じがあった。
"今度、ジョウトのワカバタウンへ引っ越します"と連絡が届いてから手紙が途絶えた。

 彼女が亡くなったのを知ったのはワカバタウンにロケット団が襲撃、研究員1人死亡と書かれた新聞を見た時だった。俺は慌ててリーグから出て、ワカバタウンにあるウツギ博士研究所に訪れた。

「失礼する!!」

「チャンピオンのワタルさん!?」

いきなり自分が訪問してウツギ博士が驚くのもわかるが、それより娘のジルチが見当たらないから焦っていた。

「シズクが亡くなったと聞いて来たのだが…娘のジルチはどこに?」

「ワタルさんはシズク君と知り合いだったんだね…。ジルチちゃんはさっき旅に出たところだよ」

「そう、か…。彼女の父親に頼まれて様子を見に来たのだが写真はあるか?幼い頃の写真なら見たことはあるが、あれから成長したジルチの姿がわからなくてな」

「それならジルチちゃんの部屋にある写真を見るかい?案内するよ」

「助かる」

2階にあるジルチの部屋へ案内された。女の子らしいさはなく、かなりシンプルな部屋だった。ポケモンの本や木の実の本、バトルの知識といった参考本がたくさんあった。

「………」

机にある3つの写真立てを見ると、オーキド博士研究所の前で撮った写真があった。レッドとグリーンも写ってて彼らとは幼馴染だったなと思い出した。

「ウツギ博士ありがとうございます」

「いいよ。ジルチちゃんはリーグに行く事を目標に旅をしてるからそのうちワタルさんの所に来るかもね」

「その時を楽しみしている!失礼した」

ウツギ博士から場所を聞いてシズクの墓参りをしてからワカバタウンを去った。
リーグへ戻ってから数時間後、キキョウシティのハヤトからジムに女の子を狙ってロケット団が襲撃してきたとの連絡をもらった時は頭を抱えた。

「これは厄介な事件になるかもしれない…」

ロケット団の活動といい、ジルチの旅立ちといい、どう対処していくか考える為にしばらくハヤトの元に預けてもらおうと思った。
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