連絡で聞いた地下アジトへ着くと、グリーンのウインディが壁に吹き飛ばされて何事かと思って、中へ入ろうとしたら10万ボルトより威力のありそうな電撃が襲いかかろうとしていた。
『ピカッ』
すぐにピカチュウが飛び出したから僕はこの威力に対抗できる技で指示を出した。
「10万ボルト!!」
お互いの10万ボルトとぶつかって爆発が生じたけど、グリーン達は無事みたいだったからよかった。一体誰が放ったんだと思って、煙が晴れた部屋の真ん中を見ると赤黒いオーラを放出して明らかに様子がおかしいジルチがいた。
「…ジルチ?」
「レッド!助かったぜ…!!ジルチはロケット団の手によって、記憶を消された上に心を閉ざされて道具にされちまった……」
ウインディをボールに戻しながらグリーンが悔しそうに話しかけてきた。状況が上手く飲み込めず、彼女の記憶喪失に心を閉ざされたってどういうことなんだと困惑した。
「貴方がレッドですか。薬でジルチが心を閉ざす前にレッド助けてと言ってましたよ。それと残念ながら副作用が強すぎて私の命令を聞かなくなりました。貴方達を全員倒すまで戦うか副作用で倒れるかのどちらかになりました」
ジルチの後ろに見慣れた服装を着た男がいた。こいつが大切な子を拐ってこんな目に遭わせた張本人かと思うと両手の拳に力が入った。
「ジルチがそう言ったなら僕は絶対に助けるよ。そしてロケット団、お前達を許さない。もう1度潰す!!」
「できるならやってみなさい!」
それが合図だったのかジルチが赤黒いオーラの刃を放った。追尾しないならピカチュウの速さで避けれるものだ。
「ピカチュウ!ボルテッカー!!」
飛んでくる攻撃を避けてジルチに近づいたけどリフレクターで塞がれた。流石に動きが読めないから下手には動けない。
「グリーン、ジルチはどんな技を使って攻撃をしてきた?」
「10万ボルトとサイコキネシス。あと普通に殴ってきたり、防御はひかりのかべとリフレクターだ。あのオーラの量が増える度に威力が増していってカイリューとウインディがやられた。それに動きがそこそこ速い」
「わかった」
「レッド、ジルチを…止めてくれ。あいつの身体は限界を越えているのに無理に戦ってるんだ」
「あとは僕達に任せて。行くぞ、ピカチュウ!」
『ピカァ!』
攻撃力と防御力もあるバトルは随分と久しぶりだったから、次から次へと繰り出される技を避けては攻撃を仕掛けた。
かわされるのもわかっているから焦らず、隙を探して攻防戦をしていたピカチュウがジルチの後ろに回ってボルテッカーをした。
「グリーン達と戦ってたからかなり体力を消耗してる。ジルチ、痛いだろうけど我慢してね」
「……」
それからピカチュウのでんこうせっかで少しずつ追い詰めていくと、ジルチの動きが鈍くなってきた。
「レッドのピカチュウ…オレとリーグで戦った時より強くなっている」
「シロガネ山に籠ってただけあるよな……」
ワタルとグリーンが会話をしているのを聞き流しながらジルチの動きを観察をした。足元がフラついてて今にでも倒れてしまいそうだった。正直助ける為とはいえ、攻撃することに心が痛む。
「…ピカチュウ、10万ボルトだ」
この一撃で、ジルチを止める―
その想いを込めて出した10万ボルトを防ごうとひかりのかべを広げた。
「ッ!!」
ひかりのかべと10万ボルトがぶつかって、もの凄い音が部屋中に響いた。
「ピカチュウ、頑張れ!!」
『ピッカッ!!』
威力を増してヒビが入ったひかりのかべが遂に割れてジルチは10万ボルトの電撃を浴びた。
「……ッ!」
灰色の翼が消えて赤黒いオーラが霧散した途端、不気味な色した眼は金色に戻り、気を失って倒れそうになった。
「ジルチ!!」
床に倒れる前に駆け寄ってジルチの身体を受け止めた。病衣はズタボロで身体中傷だらけになってるから見てるだけでも痛かった。弱々しく息をする彼女を抱えているとロケット団のしたっぱが話しかけてきた。
「貴方のことを思い出しましたよ。3年前、サカキ様を倒してロケット団を1人で壊滅させた少年ですね」
「…サカキは?」
僕はロケット団のしたっぱを睨んだ。ロケット団が復活したならサカキがいると思った。
「サカキ様の行方はまだわかりませんがいずれ戻ってきます。手放すのは惜しいですがジルチはお返しします。もっと改良を重ね、万全な状態になったらまた迎えに行きます」
「ジルチは絶対に渡さない」
「ククク…では、また会いましょう」
「待て!!」
ワタルが捕まえようと近づいたら、したっぱはドガースを出してえんまくを放った。えんまくが消えた頃にはしたっぱの姿はなかった。
「ロケット団は相変わらず逃げるのが速いな…。レッド、ジルチは大丈夫か?」
「…呼吸はちゃんとしてるけど出血が酷い」
僕が来る前にカイリューとウインディの2匹を相手にしていたから病衣が所々血で汚れていた 。
「兎に角、急いでフスベヘ向かおう。治療に専念しやすい環境で安全だからな。ヒビキ君も来てくれるかい?」
「もちろんです!イーブイ、あの状況でよく立ち向かっていったね。本当にスゴいよ」
『ブイ』
「ヒビキ君!フスベまで俺のカイリューに乗せて行くからここから出よう!」
「はい!」
ヒビキという少年はワタルと一緒に部屋を出ていった。イーブイはその子について行かずにゆっくりとジルチに近づいた。
「このイーブイはジルチのだぜ」
「まだ進化させてないの?」
「いや、あの時のイーブイはシャワーズに進化してる。こいつはまた違うイーブイだってよ」
よく見たら顔つきが違うのに気づいた。何に進化させるのか気になるけど、この子の様子があまりにも悲しげだったからソッと頭を撫でた。
「大丈夫。ジルチが目を覚ましたら僕達やイーブイのことを思い出すよ。ずっと旅をしてきた思い出はそう簡単に消えたりしない」
僕はリュックをグリーンに渡してジルチを背負った。思ったより軽いからちゃんと食べてるのか心配になった。
「にしてもオレ達、変な再会になっちまったな」
リーグでまた会おう。それが僕達3人の約束だったけど結局、僕はシロガネ山でグリーンはトキワジムにいる。
「そうだね。こんな形で再会するとは思わなかった。」
「無事に目を覚ましてくれたらいいよな。さて、オレらも行こうぜ」
「うん」
ワタル達が機能を停止させたロケット団アジトを出て僕らはフスベシティへ向かった。
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