ランスは投薬後の副作用で呼吸混乱、記憶が消えるのは人体実験で確認済みだった。その過程で吐血をして意識を失ったジルチをしばらく観察をしていた。
「ふむ、意識が戻らないとわかりませんがここまでは順調ですね」
ジルチの顎を持って口元に流れた血を舐め取り、顔をまじまじ見ると意外と色白で年相応の可愛らしい顔立ちであることに気づいた。初めて会ったヤドンの井戸では薄暗くてよく観察ができなかったと思いながら頬を撫でた。
「さぁ、早く起きてください。我々の敵が来ますよ」
軽く頬を叩くと反応があったからジルチは死んでないようで安心した。しばらくして彼女が目を開けると、緑色の瞳から不気味さを感じる赤みを帯びた金色と赤黒い色のオッドアイに変わっていた。
「おはようございます。具合はどうですか?」
「……」
ジルチは返事もなく虚ろな目で見てきたのに対してランスは小さくため息をついた。
「…心を閉ざすと無口で会話ができないとありましたがやはり困りますね。それなら心を閉ざすより善がわからなくなるくらい悪に染める方がよかった気もします」
「……」
虚ろな目は動かせない両腕を見上げてジルチは首を傾げた。
「そうですね。動けないのは嫌でしょうし、暴走はしてないようなので拘束を解除しましょう」
リモコンで操作をして拘束を解くと、裸足で少し歩いてからランスを見上げた。薬品の効果が順調なのを再確認してると廊下が騒がしくなってきた。
「おや…」
ジルチを救出しようと駆けつけた3人組が怪電波発生装置を止めてこの部屋に向かって来ていた。時間があればいろんなことを試そうとしていたのにと思いながら笑みを浮かべた。
「ジルチ、もうすぐ出番ですよ。活躍したら褒めてあげましょう」
「……」
ジルチはジッとランスを見た後、扉に目線を移すとカイリューが扉を蹴飛ばしてワタル、グリーン、ヒビキの順に入ってきた。
「ジルチ!無事か!?」
「ようこそ、ロケット団アジトへ。ジルチは無事ですよ。…我々の道具としてね」
「道具だと?」
「てめぇ!ジルチに触れるんじゃねぇ!!」
ジルチの肩を持って微笑んでいるとグリーンが舌打ちをして暴言を吐いたの聞いたランスは不愉快そうな顔をした。彼からすればロケット団の道具に触れてるだけだという気持ちだった。
「ジルチさん!助けに来ましたから何か言ってくださいよ!!」
「無駄ですよ。薬の効果で記憶をなくし、心を閉ざしてますから貴方達が何を言ってもジルチには届きません。」
「何だと!?」
「そ、そんな…!俺達やイーブイのことを忘れたんですかっ!?」
「嘘だろ?ジルチっそんなのに屈するような奴じゃねぇだろ!?おい、しっかりしろよ!!」
「……」
3人が必死にジルチに声を掛けるも、記憶がないからただジッと見てるだけだった。記憶をなくし、心を閉ざされて道具にされてしまった事実が彼らに衝撃を与えた。
「ジルチ…っ昔に見た時は綺麗な金色の眼だったのに…!あんな不気味に感じる眼じゃなかっただろっ!」
「ククク…。そういえば、彼女が意識がなくなる前にレッド助けてと言ってましたがその方はいないようですねぇ?さて、ジルチ。あの3人は我々の敵です。追い払ってくれませんか?」
「……」
ジルチはランスの言葉を理解したのか背中に灰色の翼を出して戦闘の体勢に入った。
「彼女に攻撃することに抵抗あるが仕方ない!!バトルで目を覚まさせるぐらいしか方法がない!」
「チッ…すまねぇ、ジルチ!!」
2人はカイリューとウインディを出し、ジルチと対峙してバトルが始まろうとした。
「俺も戦います!!」『ブイ!』
「ダメだ!君達は攻撃の流れ弾が当たらない場所に避難してくれっ!もし、怪我をしたら1番悲しむのは彼女だ…!」
「うっ…わかりました!!」
ワタルの気迫に押されてヒビキとイーブイはワタル達から離れた。禍々しい雰囲気を出すジルチを見て信じられない気持ちでいっぱいだった。
「……(さぁて、どれだけの力が備わっているか楽しみですね)」
ランスも流れ弾に当たらないよう離れてジルチの能力をじっくり観察し始めた。
「カイリューでんじは!」
「ウインディ、かえんほうしゃ!」
先に動いた2匹の攻撃がジルチに当たったと思えば赤黒いオーラを放出して全部打ち消した。反撃で手から10万ボルトらしき電撃がカイリューに向けて放たれた。
「カイリュー、大丈夫か!?」
「ただの10万ボルトなんかじゃない…威力が桁違いだ!!」
ジルチの放った一撃がカイリューに相当のダメージを与えたの見たランスは両手を叩いて喜んだ。
「素晴らしい…!!さぁ、もっと攻撃してその力を見せてください!!」
ランスの声に応えるように赤黒いオーラを放出しながらウインディに近づいた。
「次はこっちってか。ウインディ!りゅうのはどう!」
凄まじい威力を放つりゅうのはどうに当たりながら、ウインディの懐まで入って赤黒いオーラを溜めた右手で殴った。
『!!』
「動きが速いっ!」
「カイリューはかいこうせん!!」
「!」
ウインディに集中していた隙を狙って放ったはかいこうせんは、ひかりのかべで威力を軽減させて粉々に砕けた。その衝撃でジルチは軽く吹き飛ばされたが、翼を広げて体勢を整えた。
「カイリューのはかいこうせんを耐えるか…!」
予想を上回る強さに油断をすれば返り討ちに遭うという緊迫な空気が漂っていた。どう仕掛けるか、どう迎え撃つか考えていると、ジルチの周りに放出された赤黒いオーラが増えた瞬間、膝をついて吐血をした。
「ゴホッ…ゴホッ」
「ジルチ大丈夫か!?」
「あらあら…(ダークポケモンでいうハイパー状態ですか。力が溢れすぎて思った以上に自身にダメージを受けてますね…。このままでは身体が耐えきれず倒れてしまいます)」
「……」
ジルチは手で口元を拭ってからサイコキネシスでカイリューとウインディを壁へ吹き飛ばした。
「くっ…彼女自身、攻撃以外でダメージを受けている状態だというのにまだ戦うのか!」
「やるしかねぇ!ウインディ、フレアドライブ!」
ウインディは炎をまとって突進したが、簡単に受け止められたからすぐにジルチから離れた。
「……」
「あの2人相手にここまで戦えるなら充分でしょう。ジルチ、撤退しますよ。副作用を抑えるよう薬を調整しようと思います」
「……」
「何をしているのです?ここから脱出しますよ?」
ジルチはランスの声に耳を傾けず、2匹に警戒したまま動かなかった。
「カイリュー!ジルチを連れて行かすな!でんじは!!」
麻痺状態にされた彼女は動きが鈍くなってもウインディとカイリューに攻撃をしかけた。
「…私の命令を聞けないのなら無理矢理連れて行きますよ」
ランスは近くに置いてた機械を取ってジルチに向かって投げた。それはもしもの時に用意していたポケモン用の拘束する機械だったが、彼女の念力で動きを止められて最後は電撃で破壊された。
「なっ…」
「……。……っ!」
黒焦げにした機械を静かに見ていたジルチは発作を起こして膝を床についた。
「ジルチっ!!もうやめろ!」
「……」
ジルチはゆっくりと立ち上がって更に赤黒いオーラを放出した。オーラの量が増える度に技の威力が上がるが、その分ジルチの身体は傷だらけになっていた。
「カイリューはかいこうせん!!」
ひかりのかべの耐久力も上がって、はかいこうせんを受けてもヒビが入る程度になっていた。そろそろ本格的に不利な状況になりかねないと思ったワタルは攻めて体力を削るしかないと焦った。
「ジルチの能力が上がっている!カイリュー、ドラコンダイブ!」
カイリューとジルチは同時に攻撃をしてお互いに技の威力で後方へ飛ばされた。
ジルチは受け身をとって、すぐに10万ボルトをカイリューに放ち、次はウインディにサイコキネシスを放った。
「カイリュー!!」
「しまった!ウインディ!」
ウインディがサイコキネシスで扉の向こう側まで飛ばされ、カイリューも力尽きて倒れた。2人が次のポケモンを出す前にジルチが10万ボルトを放っていた。
「間に合わなー」
ヒビキの腕から飛び出したイーブイがシャドーボールを放ったが10万ボルトに消され、攻撃が当たるのを覚悟した瞬間。
「10万ボルト!!」
後ろから飛び出したピカチュウが2人の前に出て、お互いの10万ボルトが相殺し合った。
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