40.暗く深い闇へ
 ―怪電波発生装置・地下実験室
薬品の独特の臭いがしてぼんやりと意識が戻ってきた。霞んだ視界で何も映し出されていないモニターと扉の確認はできた。

「……?」

チョウジジムを出て…後ろからランスに妙なスプレーをかけられた後、自分の帽子を託したイーブイをその場から逃がして意識を失ったのを思い出した。
あの時、ジムバッジを手に入れて完全に浮かれていたことに悔やんだ。

「ここは…?」

妙に肌寒くて身体が動かないと思えば、服が病衣になっていて手足が機械で拘束されていることに気づいた。あまりにもマズい状況に一気に目が覚めた。

「っ!?」

腕を動かしてみてもビクともしなくて念力といった能力が発動できなかった。昔に拘束された機械と同じ物か強化された物かもしれない。どうにかしてここから逃げ出さなきゃと考えた。

「片手さえ外せたら…っ」

「おや、お目覚めですか」

「!!」

両腕を上げた姿勢で拘束されているから真横があまり見えなくてランスの存在に気づかなかった。

「ランス……!!」

「初めて会った時もそうでしたが口が悪いですね。歳上には敬語を使うものですよ」

「うるさい!」

ロケット団なんかに敬語や普通に喋るつもりはない。それよりも何故病衣を着させられてるのか、手持ちのポケモン達の安否が気になった。私の視線で察したのかランスは笑みを浮かべた。

「安心してください。女性の団員に着替えさせましたし、手持ちと荷物は別の所に保管させてます」

「そういう問題じゃない!!」

「私が着替えさせた方がよかったですか?」

「……!!」

ランスの言葉に絶句して「こいつ、変態だ!!ロケット団の中で最も冷酷じゃなくて変態じゃないか!」と心の中で叫んだ。

「そんな冗談はさておき、これから貴女に実験をしようと思いまして」

「どうせ命を粗末に扱うような実験でしょ?!」

「死にはしないと思います。ポケモンや使えないしたっぱに前以って実験をしましたから」

人体実験を既にしているなんて…と思っているとランスは話を続けた。

「ダークポケモンを知ってますか?海外である組織が開発した道具によって、ポケモンの心を閉ざして戦闘マシーンにさせるのですが」

「知らない」

ダークポケモン…初めて聞いた。お母さんの研究資料を一通り目を通したけど、そのような単語は1つもなかった。ポケモンを戦闘マシーンにして暴れたら大事件だ。

「まぁ悪の組織の間では有名な話です。その組織に潜入してた団員からその道具の仕組みを盗み、我々はその資料を元に装置や薬品開発を進めてました。…全てはサカキ様の野望の為に」

ランスは私の前を通りすぎて机に置いてある箱を手に取った。

「3年前、サカキ様はポケモンを悪巧みに使って金儲けをしつつ、世界征服を目論んでいました。しかし…様々な計画や実験をされてましたが結局失敗に終わりました。再びロケット団として集結した私は、当時の成果や資料を調べていた時に目をつけたのが貴女達の家族でした」

「野望の為に私達を巻き込んでお母さんを殺したって言うの…!!」

「あれは私としては予想外の事故でした。殺すつもりはなかったのですがね…。以前の失敗を考え、感情をなくせばいいのでは?という結論が出ました。先ほどお話した通り、大型の装置ではなく薬品開発を進め…まだ試作品ではありますが薬品ができました」

ランスは手に持っていた箱から不気味な色の液体が入った注射器を取り出した。それを見た途端、嫌な予感がして冷や汗がドッと出た。

「……まさか、試作品を投薬する気?」

「その、まさかですよ。そうそう、このアジトを嗅ぎつけて面白い方々が来てるのですよ?」

ランスはポケットからリモコンを取り出して目の前にあるモニターの電源を付けた。そこにはマントの男の人、ヒビキ君と一緒に行動をしてるグリーンの姿が写っていた。

「グリーン!?」

「おや、トキワジムリーダーのグリーンを知っているのですか」

「お前には関係ないっ!」

「そうですねぇ」

ランスは注射器を持ちながらモニターを見て何か考え事をしているのを横目に、グリーンがヒビキ君と一緒にいることに驚いた。

「……(私が捕まったのを知っているのはヒビキ君ぐらいだと思っていたけど…彼が呼んだとは考えにくいし、偶然会ったにしても…)」

モニターを見ていると3人は何らかの装置がある部屋に入った。

「チャンピオンのワタルにトキワジムリーダーのグリーン。貴女のイーブイと一緒にいる子供はヒビキ…でしたか?おや、彼は貴女の荷物を見つけていたのですね」

ワタル…確かお母さんの手紙にその名前があった気がする。同一人物かは知らないけど、チャンピオンならグリーンと知り合いでもおかしくない。それでも2人とヒビキ君との接点がわからないままだった。
3人のことを考えているとランスが目の前にいるのに気づくのが遅れた。

「!!」

「遅かれ早かれ貴女を助けにここへ来るでしょう。ですが、その前に貴女には黒に染まってロケット団の道具になってもらいますよ!」

「痛…!!」

いきなり注射器を二の腕に刺されて一気に薬品を注入された。

「さぁて、どうなるか楽しみですねぇ。結果次第じゃたっぷり可愛がってあげますよ、ジルチ」

「何を言って……うっ!!」

何かモヤモヤとしたものが身体の中に渦巻きだして急に息苦しくなった。

「はぁ…はぁっ…!」

突然のことで困惑していると頭の中で今までの出来事が走馬灯のように流れ出した。

"君の名前は?"
"潔く地に降りるよ"
"それを持っていろ"
"アイアンテール!"

その出来事が流れたと思えば黒く塗り潰されていって、記憶が抜け落ちるような感覚に陥った。

「ひィ…(やめ、て…)」

"レッド、てめぇ!"
"ゲゲン!!"
"いいか?無茶はするな"
"ハヤト兄ちゃんが心配しちゃうからね"
"わはははっ!"

「アァァァッ!!」

"お母さん安心したわ"
"まだ泣くんじゃねーぞ?泣くのは再会のバトルでオレに負けたときだ!"

「ヤ…ッ(大切な思い出を…全部、黒く塗りつぶさないで…!!)」

"ジルチのこと好きだから"

「レッド…助け、て…ッ!!!」

大切な思い出や今まで経験した旅の記憶を全てを黒く塗り潰された瞬間、絶望感に襲われて意識が途切れた。
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