39.ロケット団地下基地
 階段を下りてしばらく歩くと、鬼の形相をしたワタルがしたっぱの胸ぐらを掴んでいた。ヒビキの存在に気づいた途端、掴んでいた手を離して笑顔を見せた。

「ヒビキ君!この人が親切に教えてくれたよ」

「ジルチさんの居場所をですか?!」

「いや…ジルチの居場所はわからなかったが、怪電波発生装置の部屋のロックを解除するにはある人物の声を入力しなければならない。その人物とは…ロケット団幹部のラムダ!奴はボスの部屋に隠れているという事をつきとめたぞ!だけど…ボスの部屋にもパスワードが仕掛けてあるらしいんだ……」

ワタルは小さな声で「めんどくさいからはかいこうせんで穴を開けるか…」と言っていたのを聞いたヒビキは気にしないでおこうと思った。

「ヒビキ君!まずはボスの部屋のパスワードを探しに行ってみよう!」

「はい!」

ワタルが先に行こうとした時、ヒビキの足元にいるイーブイを見た。ワタルと目が合った途端、イーブイの目つきが鋭くなった。

『…ブイッ』

「大丈夫かい?だいぶ傷ついてるな…。俺の薬を分けてやるよ」

「ありがとうございます。イーブイがしたっぱを見つけたらすぐ襲いかかるんですよ。多分、犯人を探してるようで…」

「……」

今は怒りに満ちた瞳でもワタルはイーブイの本来の眼を見抜いた。持ち主のジルチ、母のシズクと同じように希望に満ち溢れたものだと。

「いい瞳をしてるな。君はジルチが心配なのはわかるが、居場所がわからない以上無茶をしても意味がない。いざという時に動けないとダメだ」

『ブィ…』

「今はヒビキ君と共に怪電波を止めるのと、襲いかかってくるロケット団から彼を守ってあげるんだ。ジルチの居場所がわかれば俺がすぐ助ける。いいね?」

『ブイ!!』

イーブイは少し考えて、隣にいるヒビキを見て強く頷いた。

「よし、いい返事だ。ヒビキ君はまだ頑張れそうか?」

「はい!」

「じゃあ先へ進もうか」

ワタル達の前にロケット団のしたっぱが奥から何人も現れた。どこからともなく現れるしたっぱ達をカイリューとマリル、イーブイの活躍であっという間に倒していった。

「地下が意外と広いな…。この道は二手に分かれているからここから先は別行動しよう。くれぐれも無理をしないように」

「はいっ」

ワタルと別れた後、ヒビキは倒したしたっぱからパスワードを聞き出した。別の所でバトルをしながら奥へ進むとボスの部屋と思われる場所に着いて、パスワードを入力してから部屋へ入ると黒服の男がいた。

「ぐっふっふっよく来たな……。おや?私が誰かわからんかね?サカキだよ。サカキ様だよ!ぐわぁーはっはーっ!」

「……」

「…あれ?全然似てない?サカキ様に見えない?くっそー。一生懸命練習したのに!」

黒服の男が覆面を外すと紫色の髪の男が現れた。ヒビキはイーブイの反応からしてジルチを誘拐した人ではないと思った。

「俺はロケット団幹部のラムダ!お前はどうせ怪電波発生装置の部屋に忍び込むつもりだろう?だがそうはいかないぜ!何故ならあの部屋は特別なキーワードでロックされているからな!そのキーワードとは"サカキ様万歳!"」

「えっ?」

「ふふふ…あっさりバラしたので驚いただろう?だがキーワードなんか知られても全然平気なのさ。何故ならあのドアは俺の声でキーワードを入れないと開かないようになってるからな!」

「いや、知ってます」

「何っ!?さてはしたっぱから聞き出したな…。だったらここでお前は退場してもらうぜ!」

ロケット団幹部とバトルだと思ってマリルのボールを構えた瞬間、何かが駆けてくる音がしてきた。

「まさかしたっぱも…!?」

したっぱと幹部に挟み討ちを覚悟して後ろを振り向くとウインディがヒビキの前へ飛び出した。

「オレ様が相手だ!ロケット団!!」

ウインディに乗った少年がラムダとヒビキの間に入った。突然現れた彼が敵じゃない事に安心してヒビキは力を入れていた右手を下ろした。

「チッ…誰だ!」

「オレはトキワジムリーダーのグリーンだっ!さっさとジルチの居場所を吐いてもらおうじゃねぇか!!」

「ジムリーダーだと!?ジルチ?…ランスのお気に入りのトレーナーか?アイツ、怪電波発生装置の地下にある実験室に連れて行ってたな…」

「ほぉ…?じゃあその場所に案内しろよ」

「けっ!俺に勝てたらな!」

ラムダはズバットを繰り出し、グリーンはウインディから降りた。

「ウインディ、かえんほうしゃ!!」

ウインディのかえんほうしゃの火力は凄まじく、その一発でズバットを倒した。

「これがトキワジムリーダーの実力…!!」

ヒビキはまだ見ぬ世界を体感して身震いをした。グリーンのポケモンに手も足も出なかったラムダは戦うのを諦めて両手を上げた。

「サカキ様は3年前ロケット団を解散させて姿を消した…。だが、きっとどこかで復活のチャンスを狙っているはず」

「レッドが聞いたらブチ切れそうだ。さて、オレ様が勝ったからジルチのいる場所まで案内してもらおうか」

「ふははは!お前なんかに負けたって痛くも痒くもねーぞ!何しろ俺の声でなけりゃ怪電波発生装置の部屋のドアは開けられないからな!じゃあな!!」

ラムダはポケットから出した煙幕を床に叩きつけて姿を消した。

「くそっ逃げられたか!!」

「ラムダが逃げたから怪電波発生装置のドアが!」

ラムダに逃げられ、ドアを開けるにはどうしたらいいか2人で悩んでいると机の下にいたヤミラミが出てきた。

『サカキサマ バンザイ!サカキサマ バンザイ!』

「……」

『サカキサマ バンザイ!』

「…こいつ、ラムダって奴の声にそっくりじゃねぇか」

「怪電波発生装置のドア開けれるかもしれませんね!」

「よし、ウインディ捕まえろ」

ウインディがパスワードを連呼するヤミラミを足で押さえつけた後、逃げ出さないよう口にくわえた。

『サカキサマ アーッ! バンザーイ!!』

ヒビキはうるさいからって丸焼きにして飲み込まないか心配になった。

「ウインディに乗れよ。その怪電波発生装置の部屋って所まで行くぜ!」

「ありがとうございます!俺、ヒビキです。この子はジルチさんのイーブイです」

ヒビキがグリーンの後ろに乗って軽く自己紹介をした。ジルチのイーブイと聞いてグリーンは振り返った。

「ジルチの?あいつ、シャワーズに進化させてなかったか?」

「エンジュでマサキって人に貰ったそうです。こだわり深くってまだ進化する気がないようで…」

『ブイ!』

「へぇ…」

グリーンはイーブイの頭を撫でて、結構育てられていて何に進化しても化けるに違いないと感じた。

「ポケモンもいろいろあるさ。そういえば、ワタルさんを見なかったか?赤髪の黒いマントを着た人なんだけど」

「少し前に別れたっきりなんで、今はどこにいるかまでわかりません…」

「そっか。地下だからポケギアが圏外で繋がらねぇ。仕方ないから合流せずに目的地へ向かうか!」

「はい!」

グリーンも仲間に加わり、彼らは怪電波発生装置の部屋を目指した。
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