イーブイはジルチの帽子をくわえていかりの湖を目指していた。
『……!』
自分にもっと力があればジルチをあの男から守れたはずなのに!それができなかった事の悔しさが募るばかりでだんだんと視界がボヤけてきた。ヒビキは少しの間、湖の近くでバトルをするって言ってたからまだいるはず。そう思いながらゲートへ向かった。
―いかりの湖
ワタルはマツバの助言にチョウジタウンを訪れていた。ジムリーダーのヤナギから最近、湖の様子がおかしいと報告を受けて駆けつけてみれば怪しい電波が飛んでるのを確認した。それと同時に現れたという赤いギャラドスを見にいかりの湖にやって来た。
「あの赤いギャラドス。どう考えて見ても様子が普通じゃなかった…。やはり誰かの仕業で無理矢理進化をさせられてしまったのか……。」
双眼鏡をしまい、怪しい電波の発生元の予想はついているから周辺を調べてから向かおうと思った。噂を聞きつけてやって来たトレーナーがちらほらと見かけて釣り人同士がその話題で持ちきりだった。
「君も噂を聞きつけてやって来たのかい?」
湖の近くでマリルと一緒におにぎりを食べている少年に聞いた。
「そうです。友達があのギャラドスの様子がおかしいって言ってたから俺も気になってまた様子を見に来ました。」
「本当かい?君の名前は?あと友達って誰だい?」
「俺はヒビキです。その友達はジルチさんって人でポケモンの研究を少ししてるんですよ。」
「!!」
まさかジルチがチョウジタウンにいるとは思わなくてワタルは顔をしかめた。
「そう、君はヒビキ君というのか。俺はワタル。君と同じトレーナーさ。ここの噂を聞きつけ真相を調べていたんだが−」
ヒビキと話しているとゲートから茶色のポケモンがこちらに向かって走ってくるのが見えた。
「む…?あれはイーブイか。」
「あれ?あのイーブイは確か…?」
何かをくわえたイーブイがもの凄い勢いでヒビキに向かっていた。スピードを落とす気配はなく、マリルは危険を察知して慌ててヒビキの隣から離れた。
『ブイィ!!!』
「うぐっ!?」
そして、走ってきたイーブイがヒビキの横っ腹に体当たりをした。
「いっつぅ〜…。やっぱりジルチさんのイーブイだ!どうして帽子を持ってるの?」
イーブイが帽子を渡すと、必死に何か伝えようとしていたからマリルが話を聞いてヒビキにわかりやすく伝えた。
「ジルチさんが悪い奴に連れていかれた!?」
「何だって!?」
その事にヒビキよりもワタルの方が驚いていた。いかりの湖の怪奇現象の調査から誘拐事件へと一変した。
「それでジルチさんが帽子を持たせて俺の所に行くよう言ったの?」
『ブィ…』
「何ていう事だ。ジルチが拐われただと!恐らく拐ったのはロケット団。そして、この怪しい電波を出してるのもロケット団でほぼ間違いないだろう。そうなると非常にまずい事態だ。」
ワタルはポケットからポケギアを取り出していつもより早口で喋り始めた。
「グリーン、緊急事態だ。ジルチがロケット団に拐われた!すぐにチョウジタウンの怪しいお土産屋に来てくれ!!レッドにも伝えてくれっ俺は先に向かう!」
こうなれば一刻も早くジルチを探し出して救出せねばならない。ロケット団が彼女の持つ能力を使って何かをするのは間違いないからすぐに動ける人手が欲しかった。
「ヒビキ君!よかったらこの2つの事件、俺にちょっと力を貸してくれないか?」
「もちろんです!!」
「そうか、助かるよ!湖のコイキング達はチョウジタウンからの謎の電波で無理矢理進化させられている。そんな気がするんだ。そしてあの怪しいお土産屋……。」
「ヒビキ君!俺は一足先にチョウジタウンへ向かってるよ!カイリュー!!」
『ギャフー!』
ワタルはカイリューに乗ってチョウジタウンにある怪しいお土産屋に向かった。
「俺達もすぐに向かおう!」
ヒビキ達も走ってチョウジタウンへ向かった。事情を知っている彼はジルチがロケット団に負けるはずがないし、イーブイだけ逃したのは何か理由があると思った。
―チョウジタウン・怪しいお土産屋
イーブイがヒビキと合流して事情を伝えてからずっと元気がなかった。
「イーブイ。ジルチさんを必ず助け出すから心配しないで?」
『ブィ…』
その場でジルチを守れなかったのを悔やんでるんだろうと思ったヒビキは、最近できたという怪しいお土産屋へ入るとワタルがいた。
「あ、ワタルさ−」
「カイリューはかいこうせん。」
入店して早々、カイリューのはかいこうせんが店の壁に穴を開けた 。壁の近くいた怪しい店員は、はかいこうせんの爆風で吹っ飛ばされていた。
「遅かったね、ヒビキ君!やはりここからおかしな電波が流されてる。階段は……ここだっ!」
ワタルはメガネの音を押し退けて大きな仏壇を蹴ると地下へと続く階段があった。
「うわぁ、容赦ない…。」
「ヒビキ君!手分けして中を探ろう!俺から先に行くよ!」
ワタルはカイリューと一緒に頭を屈んで階段を下りていった。
「俺らも行こう!」
『ブィ!』
階段へ下りるとすでにワタルの姿はなく、通路にあるポケモン像は侵入者を感知するセンサーが付いてるから通る度にしたっぱが次々と現れてくる。
ロケット団が繰り出すポケモンのほとんどがイーブイが倒しており、流石に連戦してるから息を切らして疲れていた。
「ここはマリルと俺に任せてよ。」
傷薬で手当てをされたイーブイは首を横に振った。
「イーブイに何かあったらジルチさんが心配するよ。」
『……』
イーブイは口を一文字にして尻尾を軽く振ると先に階段を下りていった。
「何だかジルチさんにそっくりだなぁ。」
手持ちポケモンはトレーナーに似るってウツギ博士が言ってたっけと思いながら階段を降りた。
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