31.海の神様
 水上で移動するのは初めてだから最初は楽しかったけど、徐々に体力が削られて腕が疲れてきた。イーブイは変わらない景色に飽きてボールに入ってしまった。

「海を渡るのにこんな苦労するなんて…。」

シャワーズもさすがに疲れてたからボールに戻した。それから1人でオールで漕いでいたけどずっと青い海しか見えなかった。日が暮れる前に着きたいし海の上で一夜過ごすのは怖すぎる。

「…筏を引っ張りながら空飛ぼ。」

どこ見渡しても青い海で人の気配がないから能力使っても問題ない…はず。筏の縄を持って海面に浸からない高さで飛びながら渦巻き島を目指した。

「…ん?あれが渦巻き島…4つのうちどれがルギアがいる島だろ?」

しばらく飛行していると渦潮に囲まれた島が見えてきた。筏が流されないよう渦潮を避けて4つの島に近づいてみた瞬間ー

『ギャアァース!!』

「っ!!今の鳴き声って?!」

ポケモンの鳴き声が聞こえて辺りを見渡したけど何もいなかった。耳を済ませると波の音に混じって何か聞こえてくる。

「北東の島から何か聞こえる…?」

ルギアの鳴き声だったかどうかまではわからないけど北東の島の浜に筏を置いて洞窟に入ってみた。

「暗い…。ランプ、ランプ…あった。」

旅をしてるうちに洞窟に入る事が多くなったからコガネ百貨店でランプやロープ、携帯食料を一式買い揃えた。ランプに火を灯して、ライボルトと一緒に洞窟を探索し始めた。
野生のポケモンと戦いながら奥まで進んで行くと途中で道が歩きやすくなっていた。

「ここだけ妙に道が綺麗になってる…。誰かここに来たのかな。」

道通りに坂を下っていくと、さらに奥に入る道があって中に入ると大きな空間があった。

「洞窟の中にこんな大きな滝があるなんて…!」

洞窟の中は滝に囲まれて不思議と明るく、神秘的な所だなと思っていた。

『……。こんなところに子供が来るとは…迷子か?』

「…迷子ではない、かな。」

『ほぉ?』

水の流れる音に混じって聞こえてきた声に返事をすると、滝から何かが飛び出してきて水飛沫が上がった。

『迷子ではないなら何の用だ?』

「……ッ!」

ハッキリとした声が聞こえて見上げれば、ルギアは水面に浮かびながら私を見下ろし、ただらなぬプレッシャーを放つせいで身体が動かなくなった。

『ん?お前からホウオウの気配がする…それに水と縁がありそうだな?』

「ホウオウから聖なる炎の加護を授かったから…。」

『聖なる炎の加護…ホウオウに認められた者か。』

「う、うん…水に関しては私が水の都の一族だからだと思う。」

『水の都?あぁ!スイクンがよく足を運んでいた遠方の都か。しかし、都は滅んでしまったと聞いたが?血縁の者が生き残ってたのか?』

なんとか事情を説明して、ルギアのプレッシャーが消えたから身体が動くようになったけど次は質問攻めをされた。

「私が産まれる前に滅んでしまったから生き残りがいるかわからないし、お母さんはこの間亡くなっちゃったから…家族はお父さんしかいない。」

幼い頃に別れたっきりで、今生きているかどうかすらわからない。一緒に過ごしたライボルトもうろ覚えになっているかもしれない。

『そうか。つい最近スイクンが巫女様の孫に会えたと喜んでいた。アイツはあの都を気に入っててよく都の話をしてくれた。その都に1度訪れてみてはどうでしょうと言われたが、数年後に滅んだから結構気にしていた。そういえば、ここに来るよう仕向けたのはスイクンか?』

「ううん。ホウオウが海の神と呼ばれるルギアに会ってみるのもいいでしょうって言われた。」

『なるほど。それは水の都の一族であるお前に水の加護を授けろって意味だな。ちょっと待っていろ。』

ルギアは身を翻して滝の中へ戻っていった。
スイクンが水の都を気に入ってて、ルギアにその話をしていた事に驚いた。あと私と会えた事がそんなに喜んでたなんて知らなかった。

『待たせたな。それを持っていろ。』

滝から出てきたルギアは口にくわえていた物を投げてきた。

「おっとっと…これは鈴?」

青い紐がついた半透明の鈴を渡された。

『私の力が込められた鈴だ。お守りのようなもんだと思ってくれ。』

「ありがとう、ルギア!あ、そろそろタンバに向かうね。」

私は鈴を腰のベルトに付けて歩く度に心休まる音色が響いた。

『行くのか。そうだ、名前を聞いてなかったな。』

「私、ジルチ!スイクンは私の事を巫女って呼んでる。」

『スイクンらしいな。』

「私は巫女と呼ばれてもその実感がないけどね。」

いまだに巫女と言われてもピンとこないし、後継ぎだとしても話を聞いてる限りじゃお母さんではなく祖母の代で途絶えてる。その辺りはお父さんに会って話を聞く以外わからない。

『タンバへ向かうのはいいが嵐が来るから早めに動いた方がいい。』

「わかった!教えてくれてありがとう!!またねっ」

『…スイクンが言ってた通り、元気な娘だな。たまには海底から出てみるか。』

走り去っていったジルチを見て微笑んだルギアは滝の中から水上へ繋がる道へと潜った。

 渦巻き島から出ると天気が怪しい感じがして、ルギアの言う通り嵐が来るかもしれない。

「急いでタンバに向かわなきゃ!!一夜過ごすどころか海の藻屑になっちゃう!」

飛んでもよかったけど、タンバ方面へ行けば人に出会うかもしれないからシャワーズを出して筏を海へ浮かばせた。

「シャワーズ、全速力で行こう!」

『キュル!!!』

シャワーズは全速力で泳ぎ、私は筋肉痛覚悟の全力でオールを動かして無事に夕方くらいにタンバシティに着いた。

「シャワーズ…ありがとう、お疲れ様…!」

腕をぷるぷると震えながらボールを取ってシャワーズを戻して筏は近くにいた漁師さんに預けた。

「く、薬屋は…。」

ふらふらになりながらタンバシティの浜を歩いていると看板が見えた。
[創業500年 薬の相談待ってます]

「ここがミカンさんが言ってた凄い薬屋…かな?」

周りの建物より少し古い家の中へ入ると眼鏡を掛けたお爺ちゃんがいた。

「いらっしゃい。お嬢ちゃん、薬を買いに来たんかい?」

「はい、アサギの灯台のデンリュウが体調を崩して…ここに凄い薬があると聞いたので来ました。」

「わかった。そのデンリュウの具合はどんな感じやった?」

「確か身体がぐったりしてて息が絶え絶えでした。」

「うん、それなら………この薬やな。」

お爺ちゃんが引き出しの中から薬を取り出した。

「この秘伝の薬をデンリュウに渡しや。代金はえぇよ。」

「え?いいんですか?」

「えぇよ。アサギの灯台はタンバの者はみんなお世話になってるんやからな。」

「ありがとうございます!」

秘伝の薬を鞄の中に入れた。これでデンリュウの具合がよくなるはず。

「嬢ちゃん疲れた顔してるけど大丈夫か?かなり苦いけど疲れが吹っ飛ぶ漢方薬出そっか?」

「い、いえ!大丈夫です。寝たら治ると思いますので!」

薬は苦手じゃないけど、かなり苦いのは遠慮したいなと思いつつお爺ちゃんにお礼を行って薬屋を出た。

「ふぅ…疲れたぁ。」

ようやく薬を手に入れて一息ついた途端、疲労感がどっと押し寄せてきたから今日はポケセンで泊まる事にした。明日タンバジムに挑んでからアサギに戻ろうと考えながら早めに就寝した。
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