30.潮風の香りと灯台の病人
 エンジュでの用事を終えて私はその日のうちにアサギシティへ向かう事にした。

「ジルチちゃんお元気で。」

「はい。マツバさんにいろんな事教えてもらったので楽しかったです。」

「海を渡る時は気をつけるようにな。…ジルチ、手を見せてみろ。」

「ん?」

ハヤトさんに両手首掴まれたので手のひらを見せた。

「火傷が…治ってる?」

「あの時、火傷をしてたの気づいてましたか…。」

ライコウの雷を受け止めた時の火傷はホウオウの聖なる炎の加護を授かった時に治った。治療効果があるだなんて何とも不思議な炎だ。

「俺が聞いた時にとっさに隠したからな。…いいか?無茶はするな。」

「は、はい…。」

ハヤトさんの声色がやや低かったのと目が怖かったから"ハヤトさんの前では"本当に無茶はしないでおこうと思った。

「そうだよジルチちゃん。無茶して怪我をしたらハヤト兄ちゃんが心配しちゃうからね。」

「誰が兄ちゃんだ!!」

「あれ?ハヤトはジルチちゃんの事を妹と−」

「それ以上言うな!!」

ハヤトさんはマツバさんに掴みかかって口を塞いだ。

「あははっ!」

2人のやり取りが面白くてつい笑ってしまった。

「…それじゃあジルチ。またいつか会おう。」

「ジルチひゃん。ルギアにょいる島は41番水道りゃから。」

ハヤトさんはマツバさんのほっぺをつまみながら見送ってくれた。彼のほっぺは意外と柔らかそうに伸びてて少し赤くなっていた。

「はい!ハヤトさんもそれくらいにしてあげてくださいねっマツバさんのほっぺが伸びちゃいますよー!」

私はイーブイを出し、帽子を深くかぶり直してから38番道路へ向かって走った。

「アサギシティへひとっ走りするよ!イーブイ!」

『ブイ!』

38番道路の林道を抜け、39番道路の牧場のある高原を全力疾走した。そよ風が吹いて走っていて爽快だった。

「イーブイ!アサギシティがっ見えてきた!!」

『ぶーい!』

潮風が香る港町、アサギシティに着いた。
アサギシティに着いてすぐジム戦に挑もうと思い、アサギジムへ行くと入り口に赤髪の少年…ソウルがいた。最後に会ったのはヒワダタウンだった気がする。

「…またお前かよ。」

「またとは失礼な。」

またバトルを挑まれるかと思い、ライボルトのボールを掴んだ。

「何その気になってんだ?オレはお前みたいな弱い奴は相手にしない。」

「前みたいにバトルを挑まないんだ?私に連敗してるソウルに比べたら弱くないと思うけど?」

「うるせぇ!…弱いと言えばここのジムリーダーもいないぜ。弱ったポケモンの世話をしに灯台へ行ってるんだとよ。」

「ジムリーダーが灯台に、ね。」

海の方角にある白い灯台を見た。弱ったポケモンが何故ポケセンじゃなく、灯台にいるのか気になった。

「馬鹿馬鹿しい。弱ったポケモンなんかほっときゃいいのさ。戦えないポケモンに何の価値もないからな。」

「…ロケット団と同じでポケモンを道具として見ている。気に入らない…ポケモンの価値を戦う事だけで決めつけないで!」

お互いに睨み合ったまま動かなかった。

「……フン!お前、灯台で修行してみたらどうだ?少しは一人前のトレーナーらしくなれるかもしれないぜ。」

「いい修行場所教えてくれてありがとう。そのセリフ、そのまま返すよ。」

ソウルは舌打ちをして私の横を通りすぎていった。相変わらず会えば弱いだの言ってきて馬鹿にしてくる。1回もバトルに勝ってないくせに生意気な…と思いつつ、ジムリーダーがいる灯台へ向かった。

『ブィー!』

しばらく黙って歩いてるとイーブイがさっきの事を気にしているようだった。

「ん?あぁ大丈夫だよ。そういえばイーブイはあの赤髪とは初対面だったね。あんな奴には負けないように頑張らなきゃねー!」

『ブイ!』

「ジムリーダーが気にするほどこのアサギの灯台に必要なポケモンなんだと思う。だから灯台にいるトレーナーを倒しながら頂上行って話を聞きに行こう!何かできる事があるなら助けたいからね。」

まずは2階にいるトレーナーからだ!と意気込んだ。
灯台にいる船乗りの話を聞くとデンリュウの力を使って海を明るく照らしているそうだ。そのデンリュウの体調を崩したとなれば港は大変だろうなと考えていた。
途中、梯子で上に進めなくなったけど4階の窓から3階に落ちてから上がっていくと頂上の広場についた。

「あ、ども。」

「こ、こんにちは…。」

ジムリーダーと思われる女の子の隣にぐったりと倒れているデンリュウがいた。見た感じでは風邪だと思うけど少し様子が違う。

「……この子いつも海を照らしてくれてたの。…でもいきなりぐったりして息も絶え絶え。……海の向こうタンバにはすごい薬屋さんがあるそうですけど……。あたしアカリちゃんの側を離れるわけには行かないし……。」

女の子は涙目になりながら話してくれた。デンリュウの名前はアカリちゃんらしい。

「……あのう、お願いです。あたしの代わりに薬を貰ってきていただきませんか?」

アカリちゃんを助けなければ港は大変だし、ジムリーダーさんもジムに戻れない…考えるまでもない、答えは1つ。

「いいですよ。私はジルチ、ジム巡りしながらジョウトのポケモンや歴史について研究をしています。」

「あたしはミカン…アサギジムのジムリーダーです。ジルチさんはトレーナーさんでしたのね。こちらの入り口は開けておきますので……。」

ミカンさんは広場の扉を開けてくれた。何だか不法侵入した感じで申し訳なくなった。

「では、タンバシティに行ってきますね。」

「はい…よろしくお願いします!」

私はアサギの灯台を出て海を渡る為にシャワーズを出した。港で事情を話すと船乗りのおっちゃんから使っていない筏を貸してくれた。

「海で鞄が水浸しになるのは困るから船乗りさんから筏を借りてきた!漕ぐの交代交代で大丈夫?」

『キュル!』

「急がなきゃ行けないけど…渦巻き島、行ってみよっか。タンバシティの途中にあるみたいだしルギアに会って何か聞けたら収穫ありだからね。」

シャワーズは筏と繋いでる縄を持って海に飛び込んだ後、私とイーブイは筏に乗って41番水道の渦巻き島を目指した。
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