29.聖なる炎の加護
 今日はスズの塔に行くけどその前に見ておきたい光景があったから早朝に起きた。軽く準備運動をして周りに人がいないのを確認してから屋敷の屋根まで飛んだ。

「んーエンジュはちょっと肌寒いなぁ…。ワカバタウンやキキョウシティより北の方にあるからかな?」

まだ日が昇っていない景色を見ながら屋根を歩いていると何かに躓いてこけそうになった。

「んんん?何かに躓いたけど瓦かな−」

『ゲゲッ』

「うわっ!?」

何に躓いたのか確認する為に振り向いたら目の前にゲンガーがいて驚いた。

「やぁ。」

「えぇっ!?」

後ろを振り向いたら真後ろにマツバさんがいてまた驚いてしまった。あまりにも心臓に悪すぎたから変に冷や汗をかいた。

「マツバさん、おはようございます…。」

「うん、おはよう。朝早いね。」

「エンジュの日の出を見たくて早朝に起きました。まさか屋根の上で驚かされるなんて思いもしませんでしたが。」

「あはは。驚かせちゃってごめんね?こんな早朝に屋根に登るジルチちゃんを見たからつい気になったんだ。」

「…?(周りに人がいなかったはずじゃ…)」

ちゃんと確認したはずなのに。と思ったけど、マツバさんなら千里眼で見たのかもしれないと自己解決させた。そして部屋着なのか紫色の着物を着て、いつものマフラーを巻いてるのをまじまじと見ていたら頷かれた。

「なるほど、キキョウの日の出を見たんだね。屋敷から日の出を見るならもうちょっとこっちに来た方がいいよ。」

マツバさんが手を差し伸べてくれたからその手を掴むと少しひんやりとしていた。手を引かれて屋根を歩いて行くとハヤトさんが屋根の上に座っていた。

「あれ?ハヤトさん?おはようございます?」

「おはよう。やっぱり屋根の上にいたんだな。」

「はい。感想を伝えようと思ってましたがその必要はないですね。」

「あぁ。エンジュはキキョウより寒いから空を飛ばずに屋根の上で見よう。ジルチは寒くないか?」

「ちょっと肌寒いですね。」

「これ羽織っておきなよ。風邪をひいた大変だ。」

「ありがとうございます。前に住んでた地方は暖かい気候だったので油断しました。」

「こっちは寒い時は寒いからね。これも巻いといた方がいいかも。」

「ありがとうございます。」

ハヤトさんから上着を、マツバさんからマフラーを貸してもらった。2人がさっきまで着てたから少し暖かい。

「エンジュはね、山と塔の間から日の出が見れるんだ。ほら、見えてきた。」

「おぉ…!」

マツバさんが指差した先を見るとちょうど日の出が見えてきた。高い山と塔の間から光が射し込んでゆっくりとエンジュの街並みを照らしていく。

「歴史ある街を照らすから神々しく感じますね。」

「そうだな。」

「エンジュで見る日の出もいい感じだろ?」

「そうですね。でも、私はキキョウで見た日の出が好きです。」

エンジュの日の出は神々しくて美しいのは美しいけど、上空で見た日の出の方が私の好みだった。やっぱり屋根の上で見る景色と空を飛んで見る景色は違う。

「そうなんだね。…ハヤト、何勝ち誇った顔をしてるんだい?」

「別にいいじゃないか。」

「…?」

「さて、少し早いけど朝食にしよう。ジルチちゃん、何か食べたいものはあるかい?」

「そうですね…エンジュの名物が食べたいですね。」

「いいよ。それじゃあ降りようか。」

「ジルチ、足元に気をつけろよ。」

「仮に屋根から落ちても飛べる自信はありますよ。」

「そういう問題じゃない。」

ハヤトさんに軽く小突かれたけど痛くはなかった。
エンジュの美しい日の出を見て、マツバさんの作った美味しい朝ご飯を食べた。


 ―スズの塔・頂上
エンジュシティを一望できる高さで眺めがよく、私達はスイクンが現れるのを待った。

「焼けた塔もこれくらいの高さはあったのですか?」

「文献にはそう書いてあるね。」

焼けた塔とスズの塔の関係性をマツバさんと話しているといきなり北風が吹いた。

『お待たせしました。』

『こんなひ弱そうな子供にホウオウ様の聖なる炎の加護を授けるのか。』

『スイクン、本気か?』

スイクン、ライコウ、エンテイの三聖獣が現れたけど、人にいい印象がない様子だった。資料に人々の裏切りが様々な悲劇と事故を招いたかららしい…。

『本気です。ライコウ、口を慎みなさい。正式な後継はされてませんが彼女は水の巫女ですよ。』

スイクンの話を無視してライコウは私の前に飛び降りた。目の前で対峙するとただならぬ威圧感がある。

『おい!お前勝負しろっ!!我が雷を受け止める事が出来るなら認めてやる!!』

初対面で喧嘩腰とはどっかの誰かに似ていると思いながら私は構えた。

「ライコウがそう言うなら受けてたつ!」

私の返答を聞くとライコウの周りが電撃が走り、ライボルトより威力があるのは間違いないのがわかった。

「ちょっとジルチちゃん!?」「ジルチ!!」

『ライコウ、いい加減に−』

『我が雷、食らうがいい!!』

「っ!!」

私は生半可なひかりのかべじゃすぐに割れると思ったから全力を出して雷を受け止めた。流石伝説のポケモンの雷の威力は凄まじいものだった。

『何!?ひかりのかべだと!』

「……全力を出してなかったら危なかった。」

ひび割れたひかりのかべを消して、深呼吸をしてから手のひらを見ると少し火傷をして赤くなっていた。

「ジルチ大丈夫か!?」

「はい。ハヤトさん達こそ大丈夫ですか?」

「俺達は平気だが…。」

ハヤトさんが心配しそうだから両手を後ろに隠した。

『我が雷を受け止めたか…。その実力、認めてやろう。』

『ライコウの雷を避けるかポケモンを出すと思ったら己の身で受け止めるとは恐れ入った。』

「それはどうも…。避けたらこのスズの塔も焼けた塔になるよ。」

ライコウとエンテイに一応(?)実力を認められたから結果オーライと思った。ふと、空を見ると光輝く何かがスズの塔に向かってきていた。

『ホウオウ様のご到着です。』

三聖獣は頭を下げるとホウオウは優雅に降りてきた。エンジュにある伝承通り、ホウオウは虹色とも呼ばれる美しい翼と尾羽でその姿は神々しかった。

「伝説のポケモン、ホウオウ…。」

『スイクンから話を伺っております。水の都の巫女の後継者、ジルチ。貴女の旅路に聖なる炎の加護を授けましょう。』

ホウオウが美しい翼を広げて軽く羽ばたかせると、私の周りに炎の渦が舞った。

「!?」

その炎は不思議と熱くなく暖かいもので、何周か舞うと虹色の粉になって消えた。

『水の都の一族なら海の神と言われるルギアに会ってみるのもいいでしょう。彼は渦巻き島の深層に住んでいます。貴女の旅路に幸福の光あれ。…それとマツバ殿、エンジュの平和を保っている事に感謝してます。貴方の修行は無駄ではない事を私が保証致します。』

「勿体なきお言葉です…!」

ルギアとエンジュの事を手短に話してホウオウはスズの塔から飛び去った。

『巫女。都の封印を解き、儀式を行うのであればすぐに駆けつけます。』

「わかった。」

『失礼します。』

三聖獣も解散して辺りは静かになり、空を見上げるとホウオウが飛び去った方向に綺麗な虹がかかっていた。

「…何だかあっという間でしたね。」

「ホウオウと三聖獣に出会うだなんてそうそうない話だ。忘れられない1日だった。」

「ホウオウに誉められた…もっと修行に励まないとね。」

「あ、マツバさん嬉しそう。」

マツバさんは両手に拳を作ってどこか達成感のある顔をしていた。
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