28.焼けた塔に吹く北風
 今日は焼けた塔、明日はスズの塔へ行くのでそれまでマツバさんの屋敷に泊めさせてもらう事になった。焼けた塔は昔のままで、天井は焼け落ちて床は所々焼け焦げて穴が開いていた。

「足場には気をつけてね。」

「はい。」

穴を避けながら下に降りる梯子へ向かうと白いマントに紫の服を着た男の人がいて、明らかに挙動不審な動きをしていた。

「む?マツバではないか!」

「ミナキ君、今日もスイクン探しかい?」

「その通り!今日は焼けた塔周辺を調べているのだが美しいスイクンの姿を見ないのだ!」

「スイクンはアサギシティの方角に行ったんじゃないかな。」

「そうなのか!?ならば急いでアサギに向かわねばな!またなマツバ!!」

その人は空いた穴を上手く避けながら走って焼けた塔を出ていった。

「…知り合いですか?」

「うん。ミナキ君と言ってスイクンに憧れてる友人だ。今からスイクンに会いに行くなんて言ったらミナキ君が暴走しそうだから嘘をついた。」

「いいんですか…?」

「今はジルチちゃんの用が優先だからね。ミナキ君には悪い事をしたとは思っているよ。」

悪い事をしたと言うより慣れた対応をしたという感じがしつつも、梯子の前に来たら先にハヤトさんが前に出た。

「俺が先に降りて確認するからその後にジルチ達も降りてくれ。」

「わかりました。」

ハヤトさんが下へ降りてしばらくすると「大丈夫だ。」と聞こえたので私達も下に降りた。雷で上の階の床が所々抜けてるので暗くはなかったけど足場が上より悪かった。そして奥に行くと何かがいる気配がした。

「何か…いる?」

『…以前お会いした時より強くなられたみたいですね。巫女。』

「!?」

アルフの遺跡で聞いた声がして奥から現れたのは美しい角を持つスイクンだった。

「本当にスイクンだとは…。それに人の言葉を話せるのは驚いた。」

ハヤトさんとマツバさんは私の隣に来てスイクンを見た。

『その気になれば貴方達に伝えれるだけですよ。では、巫女。』

スイクンは私の前に来て目を細めた。

『約束通りお話ししましょう。貴女の一族、水の民を襲ったあの日の水の都を。』

「うん。」

スイクンは昔話を語るかのように話し始めた。

『水の都では1年に1度。街の水を清め、都に住むポケモンと民に繁栄と祝福を願う儀式を行っており、私も参加していました。その年も巫女の舞と唄を奏で、水の都の護神ラティオスがこころのしずくの力を解放し、最後に私が水の清めを行うはずでした。』

「……。」

『しかし、巫女の舞の途中に悪き者達が力を解放中のラティオスと巫女の娘を拐い、都は恐怖と混乱に陥りました。そして儀式を中断した事により、災いが都を襲いました。当時の巫女と私とラティアス達は災いを止めるべく持てる力を全て使いましたが、止める事はできず都は波に飲まれて沈みました。巫女は力を使い果たし、民達は波によって命を落としました。』

「じゃあ水の都にはもう水の民がいない…。」

つまり親族がお父さん以外いないとわかった。よくよく考えればホウエンに住んでいた時から街から離れた森に住んでいて、いつもお母さんとお父さんがいたから何の疑問も抱かなかった。

『そうです。私と生き残ったラティアスの仲間達と共に無事に帰ってくると信じて護神のラティオスと巫女の娘を待ちました。幾年が経ち、彼らは傷を負いながら帰ってきました。彼は都は災いによって崩壊したのを知り、外部からの侵入を防ぐ為にこころのしずくの力を使って都を封印をしました。その後、巫女の娘と共に水の都から姿を消しました。貴女が見た光景の通り、それが水の都で起こった悲劇です。私が話せる事はそれくらいです。』

「…お父さんの手紙には一族の事は書いてあったけど都の事を詳しく書いてなかった…。話してくれてありがとう、スイクン。」

『はい。』

「そういえば一族は水を操る事ができるみたいだけど私はそんな事できないよ?」

『貴女の場合は父親の血を濃く受け継がれたからでしょう。巫女の力より護神の力の方が大きいかもしれませんね。』

「なるほど…。」

『貴女の旅にホウオウ様の聖なる炎の加護を授けたいので明日、スズの塔へ来てください。お二方も同席しても構いませんので、また明日お待ちしてます。』

スイクンは上の階へ飛び去って姿を消した。

「君には何かあると思っていたけど…ここまでだとはね。」

「マツバさん…あまり驚かないのですね。現実味のない話だと思わないのですか?」

「いいや?そういった事はどの地方にもあるだろうしこのエンジュにもいろんな言い伝えはある。」

確かに歴史のある街のジムリーダーやってるだけあるかもしれない。

「ハヤトさんも驚かないですね。」

「ジルチに関して驚く事が多すぎて慣れてしまったよ。」

ハヤトさんは私が空飛んだり技打ったりしてるところを見ているから変に慣れてしまった。

「明日はスズの塔ですね。」

「スイクンに同席の許可を得れてよかったな?ホウオウに会えるじゃないか。」

マツバさんはホウオウに憧れているって言ってたのを思い出した。

「ホウオウに会えるのは嬉しいけど僕はジルチちゃんが1番羨ましいよ。」

僕も御加護を授かりたいと言いながら私達は梯子を登って焼けた塔を後にした。
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