目が覚めると見慣れない天井で身体が少し重かった。室内の雰囲気がどことなくハヤトさんの家に似ている気がする。
「……。」
「ジルチ、目が覚めたか!」
「大丈夫かい?僕のゲンガーが…すまない。」
マツバさんとその隣にいるゲンガーは申し訳なさそうな顔をしている。
「……。(そういえばゲンガーにさいみんじゅつかけられて…)」
「ジルチ?」
マツバさんの隣にハヤトさんがいる事に気づいた。
「ハヤト、さん…?はっ!」
私は布団から飛び起きて周りを見渡した。ハヤトさんの家と同じで和風な造りになっていて廊下の向こうに大きな庭があった。
「ここは…!!」
「僕の屋敷。」
「マツバさんの?どうしてですか?!」
「少し長くなるけど、いいかな?」
「いいですけど…。」
「僕の千里眼を知っているよね?」
「はい。」
「少し前からジルチちゃんがここに来る事、ジムに挑みに来るのをわかっていたから定休日にも関わらず営業してたんだ。そして、君がスズの塔でホウオウと三聖獣に出会う。」
「ホウオウ…!?」
「そう、ホウオウだ。真の実力を備えたトレーナーの前に現れる…僕ではなく、君の前にね。それと三聖獣は知ってるよね?」
「ホウオウの力で蘇ったポケモン。エンテイ、ライコウ、スイクンですね。」
「うん。よく知ってるね。ホウオウのみならず三聖獣も現れるなんて君にはそれらを惹きつける何かがあるかもしれないね。それとチョウジタウンで凶兆が見えた。」
「凶兆?」
「良くない事の前触れだ。マツバはその凶兆に君とロケット団が関係していると言った。」
「ロケット団が!?」
「チョウジタウンにはジムがあるけどできれば近寄らない方がいい。」
「……。」
チョウジタウンには7個目のバッチがある。それを避けてしまってはリーグに挑戦する事ができないから凄く悩んだ。
「……と言うわけだ。ゲンガーの件は本当にすまなかった。」
「わかりました。ゲンガーに悪気はなかったのですね。」
『ゲーン…』
「悪気はなかったならいいよ。」
ゲンガーは私に謝ってきたから許してあげたけど…シャワーズは許してくれるかわからない。マツバさんがスズの塔で出会うと言ってたけどあの塔は一般人は入れなかったはず。
「でもスズの塔って関係者以外、中へ入れないのでは…?」
「うん。でも僕がいるから入れるよ。」
「助かります。…マツバさん。アルフの遺跡で誰かに焼けた塔に来なさいと言われて、明日行きたいのですがいいですか?」
「いいけどその誰かって?」
「それが…わからないのです。ただ両親の事を詳しく知ってそうだったので直接会って話を聞こうと思います。」
「そんな得体の知れない人に会いに行くなんて危ないじゃないか!行くなら俺も一緒に行くよ。」
ハヤトさんはチョウジタウンの件で私の事を心配しているみたい。
「ありがとうございます。でも…その人は人じゃなくてポケモンかもしれないです。水に深い関わりがあるポケモン。」
「スイクンだね。」
「三聖獣のスイクンですか?」
「そう、穢れた水を浄化する力を持つ北風の化身。スイクンは水の巫女の後継者であるジルチちゃんに会おうとしてるのだと思う。」
「…私、その話しましたか?」
「……。」
マツバさんはおっと口が滑ったよと口元に手を添える動作をして黙った。
「そういえばジムの案内人にトレーナーカードを見せてないのにどうして私の名前を知ってたのですか?」
「ジルチ、マツバの千里眼だ。」
「うん、そういう事だよ。」
「そういう事ですか…?」
あの日、ポケセンですれ違った時にはすでに私の名前を知っていたから微笑んだ事に納得した。
「さて、ジルチちゃんに話をしたからハヤトの目的のお茶を飲みに行こうか。美味しいところを案内するよ。」
「ありがとう。ジルチも一緒に行こう!エンジュのお茶は美味しいんだ!」
「ありがとうございます!知り合いが和菓子が美味しいと言ってたので気になっていました!」
マサキさんのオススメは羊羮ときんつばって言ってたかなと思い出しつつこれからのお茶会が楽しみになってきた。
「そうだ。折角エンジュに来たのだからジルチちゃんにあれを着てもらおう。」
「あれ?」
「エンジュの事をもっと知って楽しんでもらいたいからね。ハヤトと同じ青か紺、藍色が似合いそうだ。」
ハヤトさんは何かわかっているみたいで笑顔で頷いていた。
「あえて紅系の桃色か紫も悪くないかもしれない。」
「え?」
「僕達じゃ決まらないしあの子達に任せるか。」
「そうだな。」
2人の会話で”あれ”が何なのかわからず、外へ連れ出されて行った。
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