―同日、キキョウシティ
今日のキキョウシティはいい天気でジムは施設の点検で臨時休業だ。居間でお茶を飲もうと思い、台所でお茶缶を開けると茶葉がなくなりかけていた。
「そういえばジルチがもうじき茶葉がなくなるって言ってたな…。今日は休みだしエンジュに行ってお茶缶と和菓子を買おう。マツバも今日はジムの定休日のはずだし、修行をしてなければ一緒にお茶を飲みに誘うか。」
俺は上着を羽織り、ピジョットに乗ってエンジュへ向かった。あれからジルチはどうしてるだろうか。あの子の実力なら今頃エンジュジムを越えてアサギに向かってそうだ。でも、研究熱心なところもあるから焼けた塔に行ってホウオウ伝説について調べてるかもしれない。もし、エンジュで会えたらジルチも一緒に誘おうと思った。
エンジュシティに着いて先にマツバの屋敷へ向かった。門を叩こうとしたらゲンガーがニヤニヤしながらにゅっと出てきた。
「…昔みたいにもう驚かないしゲンガーの頭をうっかり叩かないぞ。マツバはいるか?」
『ゲッゲン!』
ゲンガーは笑顔で頷き、くぐり戸を開けて俺を招き入れた。マツバとは古い付き合いで屋敷にはよく遊びに来ていて、毎回いたずら好きのゲンガーに絡まれるのだ。初めて来た時は…そりゃ驚いたさ。
飛びはねながら移動するゲンガーについていくと、マツバの自室に案内されてゲンガーは部屋をすり抜けていった。
「…やけにゲンガーの機嫌がいいな。すでに誰かを驚かせて満足しているみたいだ。マツバ!俺だ、ハヤトだ。」
いきなり襖を開けるのは悪いと思い、マツバに声をかけた。
「ゲンガーが誰かを招き入れたと思ったらハヤトか。客人が寝てるけど君なら入っても構わないよ。」
「客人?一体誰が…。」
俺は襖を開けて部屋を見ると驚いた。いると思っていなかったジルチがいたからだ。
「…ジルチがどうしてここに?」
「あぁ、さっきジムに挑んできてジルチちゃんが勝ったんだ。千里眼で見た光景が本当なら彼女は明日焼けた塔でスイクンに、明後日スズの塔でホウオウと三聖獣に会う。…それでしばらくここに居てもらおうと思ってね。」
「定休日なのにわざわざ開けたのか?それでどうして彼女は眠ってるんだ?」
「君は質問ばかりだね。今日来るのを知ったのは千里眼で見たから。眠っているのはゲンガーが催眠術で眠らせたからだ。」
なるほど、事の発端はホウオウかと納得したがまだ気になる事があった。
「いや、待て。眠らせる必要あったか?ジルチなら話せばわかるはずなんだが。」
「うん、僕もそうだと思って話そうとしたらゲンガーが先に動いちゃってさ。僕が彼女をエンジュに居てほしいという気持ちを読み取ってしまったんだ。」
「そういう事か…。」
いたずら好きのゲンガーがマツバの為にジルチをエンジュから逃がすまいと思っての行動だった。
「そんな質問ばかりするハヤトに聞きたいのだけど、ジルチちゃんが目が覚めたらまず何すると思う?」
「ん?そりゃジルチなら状況確認を素早くしてから怒るんじゃないか?」
すやすやと眠っているジルチを見て、雷が落ちてきそうだから怒る姿を想像をしたくないと思った。
「うん、そうだよね。」
「とりあえず…ジルチが起きるのを待つよ。」
「そうしてくれると助かるよ。僕1人じゃ相手できないかもしれないからさ。」
その言葉に苦笑しつつ、ゲンガーが持ってきてくれたお茶を飲みながらマツバと雑談をしていた。
「ハヤトはジルチちゃんの事どう思ってる?」
「ごふっ」
唐突な質問にお茶を吹きかけた。一体マツバは何を考えて言ってきたのかわからない。
「…すまない、そういう意味じゃないから。素直な感想で構わない。」
「……ジルチは妹のような感じだな。ここ何ヶ月か一緒に過ごしてたが…彼女は強いけれど、どこか危なげな感じがして…いざという時は助けがいる。そんなところだ。」
「そうか。…チョウジタウンに凶兆が見えた。その原因がロケット団とジルチちゃんだ。」
「!!」
「詳しくはわからないけれど、ジルチちゃんがチョウジタウンに行ってはいけない気がする。何か取り返しのつかない事が…。一応リーグにはチョウジタウンに良くない事が起こるかもしれないとは言ったけどね。」
チョウジタウンは7つ目のバッチ、アイスバッチがあるからジルチは絶対に行くに決まっている。
「ジルチにその事を言うのか?」
「もちろん。ホウオウの事もそうだけど知った方がいい。」
マツバとの会話が落ち着いたところでジルチが寝ている布団が動いた。
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