翌日、エンジュジムに挑みに来た。中に入ると入口周辺とジムトレーナーがいる場所以外は暗くて足元が全く見えなかった。
「え、うわ、暗っ!」
どのジムにもいた案内人がいなくて、ジムトレーナーがいる所に蝋燭が1本あった。そこだけしか足場がわからないからイーブイは私の肩に避難してきた。真ん中辺りで見えない足場に恐る恐る踏み入れると床があって安心した。
「何だ、ちゃんと床があるじゃ−」
数歩まっすぐ歩くと床がなくて、そのまま暗闇の中を落ちていった。
「うわぁぁあっ!?」『ブイィィィイッ!?』
突然浮遊感がなくなって目を開けると暗闇の中ではなく、ジムの入口周辺だった。
「え、え?!」
足場がなくて暗闇の中を落ちたはずじゃ…と思いつつもう1度歩いてみた。さっき落ちた場所を避けて踏み込む前に左右の足場確認をした。
「よし、歩ける…!」
慎重になって歩いてたつもりだけど油断したらまた落ちた。
「……落ちるの怖すぎるっ!!」
ジム内の入口で独り言をぼやいたらジムトレーナー達に笑われた。肩にいるイーブイは半泣きになって腰にあったボールの中へ入ってしまった。
何度も落ちては歩いてを繰り返してやっとジムトレーナーのイタコとバトルをした時には精神的に疲れきっていた。
「ジムリーダーと戦う前には切り替えなきゃこの子達の全力は出せないね…。頑張ろ。」
私は頬を軽く叩いて気持ちを切り替えた。それからは落ちる事もなくジムトレーナーを順調に倒していってジムリーダーの所まで無事にたどり着いた。
「あ…。」
そこには先日ポケセンですれ違った男の人が立っていた。
「…よく来たね。ここまで来るのに苦労してたね。」
「そうですね…。お陰様で精神面が鍛えられた気がします。」
「それはよかった。ジルチちゃん。ここエンジュでは昔からポケモンを神様として祀っているの知ってるかな?真の実力を備えたトレーナーの前に伝説のポケモンは舞い降りる、そう伝えられている……。」
「ホウオウ伝説…。」
「そう、僕はその言い伝えを信じ、産まれた時からここで秘密の修行をしてきた。そのおかげで他の人には見えないものも見えるようになった……。」
「……。(千里眼、か)」
私はマツバさんの話を黙って聞いていた。
「僕に見えるのはこの地に伝説のポケモンを呼び寄せる人物の影…。僕はそれが僕自身だと信じているよ!そしてその為の修行、君にも協力してもらおう!」
「私の目標達成の為にマツバさんに協力してもらいますよ!」
2人同時にボールを投げてバトルを開始した。イーブイはやっとバトルだ!とやる気を出していて、さっきまで半泣きから立ち直ったみたいでよかった。
ゴースとゴースト相手にイーブイは先制攻撃であっという間に倒していって、かみつく、シャドーボール覚えていたイーブイは本当に心強かった。
しかし2匹目のゴーストにのろいをかけられ体力をかなり削られてしまった。
「交代する?」
のろいの効果が残っているのは気がかりだったけどイーブイは問題ない、任せろ!とふわふわの尻尾を振った。
「なかなか鍛えているね。だけど僕はまだまだいけるよ!」
マツバさんはゲンガーを出した。
「頑張るよ!アイアンテール!」
「ゲンガー、ふいうち。」
アイアンテールの構えをしていたイーブイは突然目の前にきたゲンガーにふいうちをされた。
「イーブイのシャドーボールは怖いね。さいみんじゅつで眠っててもらうよ。」
ゲンガーのふいうちから立ち上がったイーブイにさいみんじゅつが襲い、うとうとしだした。
「イーブイ!」
そしてイーブイは眠ってしまった。すやすやと眠っている間でも黒いもやがイーブイの体力を削っていく。このままではのろいで倒れてしまうのが目に見えていた。
「…イーブイ、交代するよ。ありがとう、お疲れ様っ。」
私は眠っているイーブイを戻す事にした。
「賢明な判断だね。」
「……。」
今の戦いでゲンガーはふいうち、さいみんじゅつを使う事はわかった。動きはそこそこ速く、ふいうちからさいみんじゅつでじわじわ削る戦法と残りは攻撃系の技かもしれないと思ってシャワーズを出した。
「シャワーズ、みずのはどう!!」
ゲンガーはみずのはどうを飛んで避けた。
「…いい技だね。シャドーボール!」
「れいとうビーム!」
シャドーボールとれいとうビームがぶつかり、爆発が生じた。
「アクアリング!」
煙の向こうからシャドーボールが飛んでくるのを予想してアクアリングで回復できる状態にした。すると煙の中から黒い玉が2、3個飛び出てきた。
「避けてみずのはどう!」
シャワーズはシャドーボールを軽く避けてみずのはどうで煙を押し消した。煙が消えた先ではオボンの実を美味しそうに食べているゲンガーの姿があった。
「…随分と美味しそうに食べてますね。」
「あぁ、このゲンガーは木の実が大好きなんだ。」
ゲンガーはオボンの実を食べ終わってお腹をぽんぽんと叩いていた。
「お腹いっぱいになったところを悪いけど…シャワーズ、ゲンガーの足元にれいとうビーム!」
まだ食べ足りなさそうな顔をしているゲンガーの足元をれいとうビームで凍らせた。
「動けなくしてダメージを確実に当てる気か…。シャドーボールで近寄らせないようにするんだ。」
マツバさんはこの機に攻める思い、ゲンガーは何発もシャドーボールを打った。
「アクアテールで弾き返して!」
「そうきたか!」
アクアテールの力加減でシャドーボールを打ち消さずに1発ずつ弾き返した。1発目はゲンガーに当たったけどその衝撃で足元の氷も割れて残りは避けられた。
ゲンガーは自分の放ったシャドーボールが跳ね返されて大ダメージを受けた。
「シャワーズ、決めるよ!れいとうビーム!!」
少しよろめいてたゲンガーにれいとうビームを当ててついに倒れた。
「なんという事だ……。」
マツバさんは目を回しているゲンガーをボールに戻してバトルの結果に驚いていた。そしてマツバさんは私に近づいてきた。
「バトルの実力ではそれほど負けていないはず!けれど君にはそれだけではない何かが……。」
「ん?」
「…わかった。このバッジは君のものだよ!」
私はマツバさんからファントムバッジを貰った。
「それから…これも君に譲ろう。技マシン30はシャドーボール。ただ攻撃するだけじゃなく、稀に特防も下げる。イーブイが使ったのは驚いたよ。」
受け取ったバッチと技マシンをそれぞれケースに入れて鞄になおした。
「あの子は前の持ち主のとこにいたブイズ達の技を見て覚えたみたいです。」
「元は別の持ち主だったんだね。それにしても息が合っていい感じだったよ。」
「ありがとうございます!」
「それだけの強さを持つ君なら海を渡っても大丈夫そうだね。ここから西へ行き、さらに南へ下って行くとアサギシティがある。そちらへ行ってごらん……と言いたいところだけど、君に用があるからもう少しエンジュに居てもらいたいな。」
『ゲゲン!』
「っ!?ゲンガー!?」
どこからともなく現れたゲンガーに驚いた。それにこのゲンガーはさっき戦ったゲンガーより強い感じがする。
『ゲン!』
ゲンガーの目が赤く光ったと思えば唐突に眠気が襲ってきた。
「なっ…。」
床に倒れて意識朦朧の中、ゲンガーに警戒をしているシャワーズに指示を出そうと思った。そして何故、私にさいみんじゅつをしたのか疑問を抱いた。
「…みずの、はど…。」
「ゲンガー、シャワーズにもさいみんじゅつ。」
目が閉じる前に見えた光景はゲンガーの方が動きが速く、さいみんじゅつでシャワーズも眠って床に倒れる瞬間だった。
「ごめんね。手荒な真似はしたくなかったけどこうでもしないと、ね。」
マツバはジルチの腰にあるシャワーズのボールを取ってシャワーズをボールに戻した。他の2つのボールがカタカタと揺れているのを見て困った顔をした。
「大丈夫。これ以上ジルチちゃんに危害を加える気はないよ。よい、しょっと…ゴース達、僕達を屋敷まで送ってくれないか?」
マツバはジルチを抱えて深い闇の底に飛び降りた。
その後、ジムの蝋燭の火が消えたのと同時にジムトレーナー達も煙のように姿を消した。
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