あなぬけのひもを柱に縛ったのを聞いて腰に巻いたひもをほどいた。その後すぐにランプを持った2人が降りてきた。
「……。」
石版があった部屋より妙な気配が多くなった気がするしどこからか視線を感じる。
「石版の間の下も他のと一緒のようね…。ここにも同じように床に文字が刻まれているわ。」
クリスさんに言われて足元を見ると少し大きめにアンノーン文字が刻まれていた。
「……”私達、外の ポケモン 像 造る”って書いてますね。像って石版があった部屋にもありましたよね?」
「さらっと読めるのね…。えぇ、あったわ。昔に生きていたポケモンに似せて作られていたわ。」
「一体何の為に作ったんでしょうね……。」
「1500年前の歴史だから何か意味があると思うけどまだわからないわ。ただアンノーンが関わってるかも知れないわ。」
周りを見渡していると何か近づいてくる気配がした。
「何か…来ますっ!」
「来るって何が……って、あの黒い塊は…あれはアンノーンか!?」
「ちょっ…数多すぎない!?」
奥から黒い塊が近づいてくると思えばアンノーンの集団だった。アンノーン達から敵意を感じなくてもあんな大量にいると気味が悪かった。
そしてアンノーンの塊に私達は飲み込まれてしまった。
「うわっ!!」
妙なノイズが聞こえてだんだん意識が遠のいていった。
「……。」
意識が戻って目を開けると見た事がない景色が広がっていた。
「クリスさん?シルバーさん?」
周りをいると思っていた2人がいなくて、持っていた鞄も手持ちが装着されたベルトもなかった。つまり、手ぶらの状態だった。
「困った…ここはどこだろう?」
音も風なく、やや薄暗い街中で人の気配もなく周りを見渡しながら歩いていくと広場らしき場所に出た。噴水の近くまで行くと変な感じがして確認する為に小走りになった。
「…噴水の水が……止まってる?いや、ここ全体の時間が止まってる!!」
走っても走っても動かない世界は変わらず、足音と息づかいだけが響いた。広場から少し離れた場所に人らしきものが見えて近づいてみた。
「…石像みたい。」
本当に時が止まってるからしてその人は動かなくて、表情が何かを見て驚いている様子だった。
「一体何を見て驚いて―」
その人の目線の方角を見ると階段の上で数人とポケモンの姿が見えた。気になって階段を上がると、そこには1匹のポケモン、ラティオスと私と歳が変わらなさそうな女の子が拘束されてフードを被った連中に拐われている光景だった。
「これは…何かが起こった時の状況…?」
状況を見た時にどこかで聞いた事がある気がして祭壇らしき場所に近づいた途端、音声だけが頭の中に一気に流れた。
『シズク!ラティオス!!』
『お母様ぁあっ!!』
『巫女様!!危険です!!』
『シズク御嬢様と護神様が何者かに拐われた!』
『儀式の最中だというのに!』
『こころのしずくがなければこの都は…!!』
『もうおしまいだ!!』
「っ!!頭が…っ!!」
悲鳴が絶えず聞こえて酷い頭痛が襲いかかり、痛みに耐えきれなくてその場に倒れた。
「う、あぁ……っ!!」
あまりの頭痛で意識が途切れそうになった時に透き通るような凛とした声が響いた。
「…っ!」
『今の貴女には情報量が多すぎて頭が混乱をして仕方ありませんね。これは過去の場面を写し出したもの…水の都の悲劇、ですね。』
「どういう、事…。」
女性のような声はどこか懐かしく、聞いていると落ち着いてきた。
『過去には知るべき事と知らぬべき事があります。貴女の場合はのちの水の都の巫女として見ておくべき過去だったかもしれませんね。』
「知るべき…過去。水の都の…巫女…。もしかして、この場面は両親の、事…?」
『如何にも。あの都は私にも縁がある地…。聞きたい事があるならエンジュへ来なさい。』
「一体、誰…?」
『―焼けた塔で待っています。』
声が聞こえなくなったと同時に私は意識を手放した。
暗い底に落ちた感覚で目が覚めるか不安だったけど、ポタッと頬に何かが当たって意識が戻ってきた。
「おーい、ジルチしっかりしろー。」
目を開けると船酔いでダウンしたはずのゴールドさんが水のペットボトルを片手に私の顔を覗いていた。
「ジルチさん大丈夫?」
「……大丈夫、です。」
クリスさん達がその場にいるのに安心して身体を起こしたら少し目眩がした。
「お前らの叫び声が聞こえたと思って来てみりゃアンノーンの集団に絡まれてるし、ジルチは倒れたまんま起きないから焦ったぜ。何があったんだよ?」
「……。」
実際何が起こったのかわからなかった。私は両親の過去を見たけど…クリスさんとシルバーさんは黙ったままだった。
「……。ん、まぁ無事でよかった。研究所へ帰ろうぜ。」
ゴールドさんは先にあなぬけのひもで石版の間へ戻っていった。2人はゴールドさんが上がって言ったのを見てお互いに目を合わせた。
「…お前も過去を見たのか?」
シルバーさんは何か確認するかのように聞いてきた。
「…両親の過去を見ました。誰かに知るべき過去だと言われました。」
「オレは忘れるべきじゃない過去と言われた。」
「私もそうよ。過去を忘れて生きる事はできないって。」
どうやら何かしらの過去を見たようでお互い内容は聞かない事にした。
「妙な体験をしましたね…。戻りましょうか。」
私達はあなぬけのひもで石版の間に戻り、遺跡を出た時に別の視線を感じて振り返ったけど何もいなかった。
船で戻って研究所に着けばまたゴールドさんが船酔いでダウンした。
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