32番道路のゲートを抜けると独特の雰囲気にあちらこちらに遺跡があった。
「ここがアルフの遺跡か…。」
お母さんが以前ここに訪れて遺跡の石版を完成させたと言っていた。とりあえず遺跡の研究所へ寄って他の遺跡について聞こうと思った。
「すみませー」
「ここに訪れたという事は貴女、考古学に興味あるのね!?」
「母がいろいろ研究してたのでここのアンノーン文字と遺跡の石版に興味があります…。」
入っていきなり青髪の女性に両手を掴まれてびっくりした。
「おいおい、クリス。いきなり食いついたら可哀想だろ?その子びっくりしてるじゃんか。」
「ごめんなさい!つい嬉しくって!!」
「いえ…皆さんはここの研究員ですか?」
「クリスはそうだけど俺達はその付き添いのようなもんだ。な、シルバー?」
「付き添い兼ストッパーだ。…オレはこいつらに巻き込まれた被害者だ。」
「ちょっと2人とも酷くない?あ、紹介が遅れたわね。私はクリス。ジョウトの伝説や伝統を調べてるの。あっちにいる帽子を被ってる彼はゴールド、その向かいに座ってるのはシルバーよ。」
2人は会釈をしたので私も軽く会釈をした。彼らの隣でオーダイルとバクフーンが腕相撲をしていた。
「初めまして、私はジルチです。ジム巡りしながらポケモンや地方の伝承など調べる旅をしています。」
自己紹介したけどお互い譲り合わない雰囲気が出ているオーダイルとバクフーンの腕相撲がすごく気になった。
「へー立派じゃん?」
「いいわね!そう言えばジルチさんのお母様も考古学者だったの?」
「まぁそれとなく近いですね。幅広く研究していたので…以前ここに訪れた際に石版を完成させたそうです。」
「カブトの石版を完成させた彼女ってジルチさんのお母様だったのね!あの時は感動したわぁ…。」
「目の前から消えた時は流石に焦ったな…。あの時シルバーがあなぬけのひも持ってて助かったな。」
「どこに行くにも必需品だろ?あと水。まさか石版を完成させたら床が抜ける仕様になっていると思わなかったがな。」
3人の話を聞いてそんな事があったとは…と思った。
「そう言えばその先の床に"私達 一族 言葉 ここに 刻む"ってアンノーン文字で刻まれてたのですよね?」
「そうよ!それも文字を一通り見て短時間で解読したのよ!?彼女がいればこの遺跡の解析に時間はかからない!と確信した途端、帰っちゃったの!!」
次は両肩をがっつり掴まれたのと同時に2匹の腕相撲の決着がついた。唸り声からしてバクフーンが勝ったみたい。
「…母から遺跡の研究を受け継いで、ここに来たからよかったら少し手伝いますよ?あ、これ母が遺したアルフの遺跡の資料です。私なりに解読したものもあります。」
私は鞄に入れていたアルフの遺跡の資料をクリスさんに渡した。
「ありがとう!!……これはすごいわ!」
資料を目を通してクリスさんは絶賛していた。その様子をゴールドさんが頬杖をしながら見ていた。
「…そう言えばジルチ。さっき"母が遺した"って言わなかった?まるでこの世にはいない言い方だぜ?」
「……母は先日亡くなりました。」
私の発言で3人は目を見開いた。
「そうだったのね…。」
「……。」
「その…ごめん。気を悪くしたか?」
「いえ、そんな事ないですよ。それに…皆さんが母と関わっててその話を聞けて嬉しかったです。」
少し気まずそうな雰囲気が出てしまった。何か切り替えそうな話題はないかと考えている時、シルバーさんが立ち上がった。
「…なみのりですぐ行ける遺跡に行くか?」
「おっシルバーが動くなんて珍しいじゃん。」
「うるせぇ。ゴールド、倉庫から船を出すのを手伝え。」
「はいはい。んじゃ、クリスとジルチは外で待ってな。」
2人と2匹は早々に外へ出ていった。外で痴話喧嘩っぽいのが聞こえたけど気にしない事にした。
「…私達も外へ行きましょ!」
「はい!!」
クリスさんと私も外へ出てて、研究所から南の方角に2人と2匹が船を運びながら歩いている姿が見えた。
湖に船を浮かばせてオーダイルが縄で船を引っ張って泳いでくれた。沖から船で少し渡った所にもう1つの遺跡が見えたのはいいけれど…。
「あかん、無理、酔った…。」
船から降りた後、ゴールドさんが顔を真っ青にして地面に座り込んでいた。バクフーンは慣れた手つきでゴールドさんの背中をさすっていた。
「フン、情けない奴め。」
「ジルチ、ゴールドを置いて先に行きましょ。」
「え、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。」
本当に大丈夫なのかと思ってゴールドさんを見ると手を振っていた。…どうやら行っていいらしい。
ゴールドさんを置いて遺跡へ入ると、中はある程度整備されてて周りをしっかり見渡せるほど明るかった。
「んー…。(なんだろう…妙な気配がする)」
部屋の真ん中に行くと半分近く未完成の石版があった。
「私、調べるのは好きだけど石版を組み合わせるのが苦手で…この状態のままなの。ジルチさん、石版完成させれそう?」
「…やってみます!」
石版の前に立つとシルバーさんがあなぬけのひもを持ってきた。
「あなぬけのひも、腰に巻いておけ。親子揃って何も持たずに落ちられても困るからな。」
「ありがとうございます。」
あなぬけのひもを受け取り、腰に巻いて余ったひもをシルバーさんに持ってもらった。半分組み合わされた石版を見てると見覚えがある形だった。研究所近くの遺跡の石版がカブトだったから化石ポケモンに関係があるはず。大きな翼がある化石ポケモン…そうだ。
「この石版…プテラだ。」
正体がわかれば簡単。その姿になるよう組み合わせればいい。黙々と石版を組み合わせていくとプテラの姿が現れた。
「よし、完成しー」
「た」を言う前に足場が崩れて消えた。突然の浮遊感に血の気が引いていった。
「うわぁぁぁあっ!!?」
言うまでもなくそのまま落ちていったけど、シルバーさんがひもを掴んでいたので地面にぶつからずに済んで助かった。
「あなぬけのひも結んでてよかったね?シルバー。」
「全くその通りだ。」
上を見上げると呆れた顔をするシルバーさんと石版が完成して喜ぶクリスさんが見えた。
「落ち方が親子と一緒かよ。石版が完成させたら床が抜けるって言っただろ。」
「あはは……すみません…。」
「頑丈そうな柱に縛ってやるから待ってろ。」
「私達もすぐに降りるねー。」
宙ぶらりんの状態で薄暗い周りを見ていると不気味さがあるから早く2人とも降りてこないかなと思った。
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