あの日の事件がきっかけでジルチが家に泊まるようになって大分経った。
彼女の助けもあってジムの修理は順調に進んでいた。ジルチは炊事や修行の手伝いをしてくれるし、褒めれば嬉しそうに笑う。共に過ごしているうちに妹のような感じがしてきた。両親が亡くなって1人で暮らしていた生活が賑やかになったからかもしれない。
俺は早朝から少し身体を動かしてからポケモンと共に空を飛ぶのを日課にしている。早朝の空気は新鮮で気分が爽快感に満たされ、キキョウシティの上空から見る日の出はとても美しいからだ。
友人のマツバは「エンジュも悪くないから早朝にこっちまで飛んできたらどうだ?」と言われたが流石に遠いから丁重に断った。
そんなある日、朝御飯を食べてる時にジルチが質問をしてきた。
「そういえばハヤトさん。早朝にピジョットと空を飛んでますよね。見回りか何かですか?」
「それも含めだがキキョウシティの上空から見る景色がいいんだ。それに空を飛びながら見る日の出は最高だよ。」
「ほぉ…。」
ジルチが俺の早朝の日課を知っているように、俺はジルチが早起きして軽く走ったり、庭にある木々に飛び移ったりとアクティブな事をしているのは知っていた。多分、木に登っている時に俺がピジョットと飛んでいくのを見たのだろう。
「ジルチも来るか?」
「はい!」
「じゃあ翌日、キキョウシティの上空を飛ぼうか。」
「楽しみにしてますね!」
翌日の早朝の日課にジルチが参加する事になった。ジルチは鳥ポケモンを持っていないから俺の手持ち…ヨルノズクを貸そうと思った。
そして約束をした翌日の早朝になった。自室で身体を伸ばしてからやや薄暗い庭に出るとジルチは準備運動をしていた。
「おはよう、ジルチ。」
「おはようございます。ハヤトさん!今日はいい風が吹いてますね。」
ジルチの言う通りで心地いい風が吹いていた。上空だともう少し強くなりそうだが飛ぶには問題ない。
「そうだな。じゃあ行こうか。いくぞ!ピジョット、ヨルノズク!」
ボールから2匹を出して俺はピジョットに、ジルチはヨルノズクに乗った。
「おぉ…っふかふか…!ヨルノズク、よろしく。」
ジルチはヨルノズクの首元を撫でた。その様子を見てて気づいた事があった。彼女はどのポケモンと打ち解けるのが早いという事だ。
初めて俺の手持ちを見せた時にジルチはドンカラスを撫でていた。ドンカラスは少々おっかないところがあるが初対面のジルチに自慢の胸毛を触る事を許したのは正直驚いた。
「飛べ!」
俺の合図で一斉に飛んだ。
「おぉ!いい眺めですね!!」
「感動するのはまだ早いよ。これからさ!」
そう言った途端、太陽が出てきてやや薄暗いキキョウシティを明るくしていった。今日も綺麗な日の出だ。
「………!!」
後ろにいるジルチを見ると目を見開いて感動をしていた。
「わぁ…凄い……!綺麗!」
「凄いだろ?友人はエンジュも悪くないって言ってるけど俺はキキョウシティの日の出が好きだな。」
「エンジュに行ったら1度見てみますね。」
「あぁ、その時の感想をまた教えてくれ。」
「もちろんです!」
俺達はしばらく上空から見る景色を堪能してから地上に降りた。ジルチがエンジュの日の出を見ても、キキョウの日の出のが綺麗だと言ってくれたらいいなと思いながら居間に戻った。
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