外伝.リーグの緊急会議
 ーセキエイ高原 チャンピオンリーグ集会場
3ヶ月に1度と年末年始ぐらいしか集まらない集会場に緊急招集がかかって、カントージョウトのジムリーダー全員が集まっていた。

「……。」

全員集まったのを確認したワタルさんが会議を始めた。

「ジムリーダー諸君。遠い所から集まってくれて感謝する。今日集まってもらった理由は3年ほど前に解散したロケット団についてだ。先日、キキョウジムに挑戦しに来た少女を狙ってロケット団が奇襲をした。少し前からジョウトでロケット団の目撃情報があって警戒をしていたが…思っていたより早くロケット団が動き出した。」

ロケット団がジムを奇襲をしたと聞いてジョウトのジムリーダーは少し動揺していて、カントーのジムリーダーはまたかという反応だった。

「それでロケット団が狙っているその少女は何者ですか?」

イブキが質問をするとワタルさんは少し目を伏せて話しにくそうにしていた。

「その少女は……俺の友人の娘だ。ロケット団の狙いはその子が持っていると思われる母親の研究のデータだろう。彼女は立派な研究員だったが先日、ワカバタウンの研究所でロケット団に襲われ…亡くなった。」

「…そうですか。」

イブキはワタルさんの話し方からして何かあるのを察してそれ以上は追求をしなかった。俺はジルチの母親がロケット団のせいで亡くなったのを知って衝撃を受けた。そしてロケット団がついに人を殺めたという事実が恐ろしかった。

「ワタルさん。まさかその友人って……。」

グリーンが口パクでワタルさんに何かを言うとワタルさんは無言で頷いた。何を言ったか気になってグリーンへ視線を移すと…彼の顔が青ざめていた。

「…くそっ」

「……。」

どうやらグリーンもジルチと母親の事を知っているようだ。

「今はキキョウシティでハヤトが彼女を保護をしている。そうだったな?」

「はい。現段階ではまだキキョウシティにロケット団が潜んでいると思い、周囲の警戒をしています。」

「そうか。ジムの修理で忙しいとは思うがよろしく頼む。キキョウシティ周辺の安全がわかれば彼女を自由にしても構わない。こちらもロケット団の調査をしてジョウトの本拠地を探す。」

「わかりました。」

ふと、視線を感じて斜め向かいに座るグリーンと目が合った。青ざめた顔に変わりないが何か必死に聞きたそうにしているのが伝わってきた。

「…ロケット団が次に出る行動はわからないがサカキが不在なのは確かだ。恐らく幹部としたっぱ達だけで活動している。何かわかり次第連絡するが、ジムリーダーはすぐ動ける状態で警戒をしてもらいたい。以上だ。」

ワタルさんは席を立ち上がると、俺とグリーンに手招きをしたから一緒に集会場を出た。少し歩いて人気がない場所で立ち止まった。

「ハヤト、ジルチの様子はどうだ?あの子は大丈夫そうか?」

「はい。見た目は大丈夫そうに振る舞っていますが…時々思い詰めてる様子はありました。」

「そうか…。彼の約束通りすぐ保護しに行きたいところだがシズクとの約束もあるからな……。」

「ハヤトさん!!ジルチはオレの幼馴染みなんだ!あいつは平気で無茶な事をすると思います!!もしロケット団を見つけたら真っ先に突っ込むかもしれません…!」

ワタルさんがあれこれ悩んでいるのを聞いてるといきなりグリーンに服を掴まれ必死に訴えてきた。確かに平気で無茶な事をしそうな子だ……。

「グリーン。キキョウシティにいる間は俺がジルチを守るから心配しないでくれ。それに彼女は強いからロケット団に遅れを取らないと思う。」

グリーンは少しほっとした顔をして掴んでいた服を離した。

「さっきも言った通りキキョウシティの安全がわかればジルチの旅を続けても構わない。何があっても彼女は前を向いて進むはずだ。それが母親であるシズクとの約束だからな。だが、父親の彼との約束を蔑ろにするつもりはない。緊急事態となれば俺が強制的に保護する。」

「その緊急事態…とは?」

ロケット団に負けて捕まった時か?と思っていたがワタルさんは真剣な顔をして言った。

「ジルチがロケット団に捕まって何らかの方法で能力を暴走させられた時だ。やむを得ないがこちらも全力で彼女を止める為に戦わないといけない。最悪その事態になったらグリーン、君にも手伝ってもらう。レッドの連絡先はわかるか?」

「一応この間の食料調達しに行った時にポケギア持たせましたがシロガネ山は電波が悪く、緊急時に通じるかはどうかわかりません…。」

「そうか。最悪な事態にならないよう未然に防がねばな。」

「ワタルさんっ俺も手伝わせてくれませんか!」

ジルチの能力が未知数であっても彼女を止めるなら俺も止めたい。しかし伝説のトレーナーと呼ばれる彼を呼ぶとなれば相当警戒しているのもわかる。高い確率で断られるだろうと思っていた。

「人手多くて困らないが君はジョウトの1つ目のジムを守っているんだ。そんな君が不在となったら多くのトレーナーや町の人が困るだろう。気持ちはありがたいが君は君の守るべき場所を守ってくれ。」

最後にすまないと言われ、予想通り断れたが一理ある。ここは大人しく引き下がる事にした。

「…正直、情けない話だが俺のカイリューと戦ったとしても勝てる自信がないんだ。何故なら彼女は、ホウエン地方に生息する珍しいポケモンと特殊な人間の間に産まれた子だからな。君らの話を聞いてる限りじゃ両親の才能を受け継いでいるようだ。」

「…!?(今、何て言った…っ?!)」「!!?」

カイリューでも勝てるか怪しいのと、ジルチがポケモンと人の間に産まれた子という衝撃的な発言に隣にいたグリーンも口を開けていた。

「この話は君ら2人にしか話していないから他言無用だ。リーグの中で俺だけしか知らない内容だからな。それとレッドはサカキから聞いていたからこの事で1度話したな…。正直、信じにくい話だろうけど思い当たる節はあるだろ?」

ワタルさんの言う通り思い当たる節はあったから俺は無言で頷いた。あの飛行能力は何なのか疑問を抱いていたがこれで理由がはっきりとわかった。

「ガキの頃…あの能力の事をあいつの母さん曰く、神様からの授かり物だと言っていた…。ジルチはその事を知っているんですか?」

「シズクが亡くなった後、父親の手紙を読んで知ったはずだ。ジルチはそれを受け入れた上で旅に出てるだろう。」

「そっか…。」

「……。」

「ともかく、2人ともよろしく頼む。時間を取らせてすまなかった。」

ワタルさんはマントを翻してその場を立ち去った。ジルチの事を聞けてよかった反面、これから彼女とどう接するべきか悩んだ。普通に接すればいい事だがあまりにも複雑な事情を知ってしまった。

「ハヤトさん。オレからもよろしくお願いします。それと…あいつのシャワーズ元気にしてますか?」

グリーンは頭を深く下げた後、シャワーズの事を聞いてきた。ジルチの手持ちを知っているからシャワーズは長く連れ添っているポケモンなんだとわかった。

「あぁ、バトルをしたけどかなり手強かったよ。シャワーズの事を知ってるのか?」

「はい!オレ達がマサラタウンを旅立つ時にオレがジルチにイーブイをあげて、レッドが水の石を渡したんです。やっぱ旅立ったらシャワーズに進化させたかー。くーっ!早くバトルしてぇ…!!」

トキワシティのジムリーダーに就任してジルチがカントーのジム巡りで訪れるのを楽しみにしているのだろう。会話からしてジルチはグリーンと伝説のトレーナー、レッドとは幼馴染みという関係がわかった。
ジルチが言ってた昔にバトルをしていた友人とは彼らの事だろう。若き天才トレーナーと呼ばれた2人と相手していたからバトルが上手いわけだ。
1人で納得しているとグリーンは悔しそうな顔をしていた。

「オレ、ガキの頃からジルチに負け越しているからな……。そろそろリベンジしたいぜ。」

最年少でチャンピオンに輝き、ジムリーダーが不在になっていたトキワジムのジムリーダーに就任する偉業を遂げた彼は、幼い頃のジルチに敵わなかったという事実を知った。

「昔からジルチはバトルの才能があったのか?」

「才能というよりオレ達3人は負けず嫌いで何度も勝ったり負けたりの繰り返しでほぼ毎日バトルしてました。ジルチはオレ達と戦うたびに戦術が変わったりしてて…1番よく使ってたのは周囲の地形を活かした戦術でしたね。」

「地形を?」

「森なら身を隠したり、木を蹴って真上から攻撃しかけたりですね。」

「ジルチならやりそうな戦術だな…。」

「そんな日々がずっと続くと思ってましたが、オレ達が旅に出る時期にジルチはジョウトへ引っ越しする事になって、その時…約束をしたんですよ。」

「約束?」

「"リーグでまた会おう、再会したらバトルしよう"って。気づいたら3年も経ってて、オレが再会する場所がリーグじゃなくてトキワジムになりそうです。…レッドの場合シロガネ山ですね。」

懐かしむかのようにグリーンはジルチの事を話してくれて何故か少し羨ましいところがあった。

「そういう約束ができる幼馴染みっていいよな。」

「いいでしょ?でも、今一緒に居れるハヤトさんが羨ましいですよ。」

昔話を少し聞いてグリーンと別れる際に握手をした。外に出てピジョットに乗る前にジルチへ連絡を入れた。

「もしもし?今からキキョウに戻るよ。」

[わかりました!気をつけて帰ってきてください!]

と言ってすぐに切れてしまった。バトルをしている音が聞こえてきたから練習場で手持ちを鍛えているのだろう。

「そうだ。ジルチに手土産買っていこう。ピジョット、キキョウに戻る前にコガネへ寄り道するぞ。」

ピジョットは頷いてから羽ばたいた。和菓子もいいがたまには洋菓子にするかと考えながらコガネシティへ飛んだ。

 コガネシティに着いて早速コガネ百貨店へ足を運んだ。色とりどりのお菓子を見ていて今日はさっくりとしたものを口にしたい気分だった。

「すみません。これ2袋。」

「毎度おーきにー!」

コガネらしく元気な店員から商品を受け取った。昔に食べた時に結構気に入ってて、ほんのり甘味があるサクサクとしたお菓子だ。

「そう言えばジムにある傷薬の在庫がなくなりかかっていたな……。」

回復道具が切らしそうになっていたから上の階に行って日用品も買い足した。その階に雑貨が置いてあるエリアがあって興味本意に見て回る事にした。数々の雑貨を見ていると目に止まった物があった。

「……。」

それはウイングバッチに似た白銀の翼の形をした髪飾りだった。

「あの子、赤いリボンで1つに束ねていたな…。」

俺の呟きが聞こえたからして店員さんがやって来た。

「こちらの髪飾り素敵でしょ?カロス地方の作家さんの作品なんですけど、この髪飾りは1点しかないのです!」

「確かにいい髪飾りだ。」

空を舞う事ができる彼女にはぴったりだろうと思い、翼の髪飾りを購入した。
買い物を済まして夕方頃にキキョウシティの家に着いた。居間にいなかったから練習場の方へ向かうと、ジルチはまだ修行をしていた。

「結構長くやってるな…。」

激しい音のする練習場の扉を開けると、そこには手持ちの3匹とジルチが技をぶつけ合って攻防戦をしている姿があった。

「……。」

背中に生えた半透明の鋭い翼、綺麗な金色の瞳。手に込めた電撃はライボルトに吸い寄せられていった。
しばらく様子を見ているとジルチが俺の存在に気づいた。

「あっ!ハヤトさんっおかえりなさい!」

「ただいま。」

すっと床に降りて元の姿になったジルチが駆け寄ってきてきた。

「もしかして…少し見てました?」

タオルで汗を拭きながら気まずそうに聞いてきた。

「あぁ、凄かったから少し見ていた。…まずかったかな?」

「んー…まぁ流石にポケモンと互角に戦い合うトレーナーなんてそうそういないでしょ?」

「空手家ならやってると思うな。確かにまともに10万ボルトとかかえんぐるまが当たったら痛いだけじゃ済まないからね…。」

たまにじゃれ合ってポケモンの技が当たってる人はいるけど、ポケモンが手加減をしているかトレーナー本人が慣れている事が多い。野生のポケモンに攻撃された人は軽症か普通に病院行きになっている。

「言っておきますが、いくら私でもまともに当たったら痛いですよ?ひかりのかべとリフレクターで軽減させたりしてますよ?」

ほらほら!と2種類の壁を作り出して訴えてきた。一体彼女の能力はどこまでできるのか気になってしまった。

「わかってるよ。晩御飯用意するから先にお風呂入るか?」

「はいっお借りします!皆も汗を流そっか。お風呂上がったら晩御飯の用意お手伝いしますね。」

ジルチの後ろで3匹が飛び跳ねていた。走って浴場へ向かったジルチ達を見届けて、さっきまで激しくバトルしていたのに元気だなと思った。
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