ラクライとマグマラシの攻防戦を指示をしている時に横から黒服の人達が近づいてるのに気づいた。
「…?」
最初はこの町に住んでる人かウツギ博士に用があるのかなと思って気にもしなかったけど、明らかに私達の方に向かってきてる事に気づいた時だった。
「いけ、イワーク」
「ストライク!やっちまいな!」
その人達がボールからイワークとストライクを出して私達に攻撃をしかけてきた。
「ラクライ、マグマラシ!避けて!!」
ストライクの斬撃を2匹はかわし、イワークの尻尾を私はシャワーズを抱えて避けた。
「ちっ!かわされたか!」
1人の男が軽々と攻撃をかわした私達に舌打ちをした。
「いきなり何するの!危ないじゃない!! 」
私は攻撃してきた2人の男達に怒った。トレーナー同士のバトルに横入りしたり、トレーナーに目がけて攻撃するのはご法度だからだ。
「仕方ないだろ?お前を捕まえろって言われてんだから。」
「えっ!私を捕まえるってどういうこと!?」
「それ以上は言えないから大人しく俺達に捕まるんだな!イワーク、いやなおとだっ」
イワークからいやなおとが広範囲に発せられ、私は耳を塞ぎ、ラクライ達は苦しくて動けなくなっていた。
「くっ…!マグマラシ…、ひのこ…!」
「させねぇよ!ストライク、マグマラシを先に潰せ!」
私はマグマラシに指示を出したけど、いやなおとによってマグマラシの反応が遅れた。
『!』
ひのこはストライクによってかき消されて、そのままマグマラシを切りつけられてしまった。
「そんなっマグマラシ!!」
「おっと、行かせないぜ。」
いやなおとが止まってマグマラシの元に駆け寄ろうとした瞬間、後ろから機械が飛んできて身体を拘束された。
「えっ!?」
いきなり拘束されて私はバランスを崩し、その場に倒れてしまった。動けなくてもがく私を見た男達はケラケラと笑って負傷して地面に伏せているマグマラシにイワークでとどめを刺そうとしていた。
「ラクライ!この機械壊せそう!?シャワーズはマグマラシの援護して!!」
ラクライは電撃で機械を壊そうとしたけど傷も付かずびくともしなかった。シャワーズはイワークにみずでっぽうを放ち応戦していた。
「ポケモンの電気ごときで潰れるような機械じゃねぇよ!ポケモンを拘束するための機械だからな!!」
「っ!?何故ポケモンの拘束用を私に…!?」
「そんなの事、自分がよくわかってるんじゃねえか?ったく、3匹のポケモンを潰すのは思ってたより骨が折れるぜ…。先に指示を出すお前を黙らせるか。やれ、ストライク!気絶させる程度でやっちまいな。」
「えぇ!?」
ストライクが私を目がけて攻撃をしようと鎌を構えた。ラクライがストライクに応戦しようと私の前に立ったけど、鎌でラクライを払い飛ばした。
「ラクライ!!」
「じゃあな。しばらく黙っててもらうぜ!」
能力を発動させたくても機械が何らか作動して発動できなかった。
「…!(このままじゃやられる!)」
怖くて目を瞑ったその時、お母さんの叫ぶ声が聞こえた気がした。
「………?」
ストライクの鎌が降り下ろされたと思っていたけど全く痛みがなかった。恐る恐る目を開けると…目の前にストライクの鎌で斬られたお母さんが立っていて、足元には大量の血が流れ落ちていた。
「う、そ…お母さんっ!?」
「ジルチ…大丈夫…?怪我、してない?」
お母さんは痛みに耐えながら倒れている私の前にしゃがんだ。
「ごめん、ね、ジルチ…。こうなる前に…あなたに言わ、なきゃいけない事が、あったの……。」
「お母さんっ!今はそんな事より怪我を!傷口を抑えなきゃ血がっ!!このままじゃ死んじゃう!!」
「お母さんの、事は…いいから。私の部屋…にある、机の下の引き出しに…父さんからの手紙、あるから読んで……。」
お母さんは倒れたままの私を起こして涙で濡れた頬に触れた。明らかに手の体温が低くなってて小さく震えていた。
「ごめんなさい、ジルチ。」
もう一度謝ったあと、お母さんがストライクの攻撃を庇った事で油断していた男達が叫び出した。
「くそっ!邪魔しやがって!!」
「お前何やってんだ!親子を捕らえるのに特に能力を持っていない母親を重症にしてどうする!こうなったら娘だけでも……!」
「来るな」
「「!!!」」
男達が近づいてきた途端、お母さんはとてつもない殺気を2人と2匹に向けた。私に向けられているわけじゃないのに背筋が凍りつく感覚に襲われた。
「邪魔、しないでくれるかしら…?」
男達とそのポケモンはその場から動けなくなり、声も出せなかった。その様子を確認してから私に目を合わせた。その目は深い悲しみに満ちていた。
「ジルチが全てを知って、これからどうするかは任せるわ…。私はレッド君との約束を、旅をして欲しいけど…。」
「お母さん…?」
「それと怒り…憎しみだけで動いちゃ、ダメよ?周りが見えなくなって…身を滅ぼすわ……。」
お母さんは一息ついてすごく悲しい顔をした。
「ジルチ、今までありがとう。今は悲しいかもしれないけど…前を向いて、どんな事があっても立ち向かって……ジルチなら…大、丈夫と……。」
私の頬に触れていた手が落ちて、お母さんの身体が横に倒れた。
「お母さんっ!?お母さん!!起きてよ!!」
いくら呼びかけてもお母さんは目を閉じたまま返事をしなかった。
「シズクさんが飛び出していったけど一体何があったんだい!?」
「どうしたんですか!」
「ジルチさんの叫び声が…。」
この騒動で研究所からウツギ博士が飛び出してヒビキ君、コトネちゃんも近所から駆けつけてきた。3人が私の側に来ると、お母さんが血まみれで倒れているのを見て言葉を失った。
「シズクさんっ!しっかりするんだ!!」
ウツギ博士が倒れているお母さんの身体を抱えて声をかけたけど…やっぱり返事はなかった。
「ウツギ博士…お母さんは……お母さんは…!」
「……。」
ウツギ博士は無言で首を横に振った。
「そんな…。」
私はそれ以上何も言えなかった。ヒビキ君達は肩を震わせて顔が真っ青になった。
「チッ…町の連中が来やがった!」
「娘だけ連れていくぞ!イワーク、娘の周りにいる連中を蹴散らせ!」
お母さんの殺気から解放された男達とポケモンは慌ただしく動き出した。お母さんをこんな目に遭わせておきながらまだ私を狙っている。このままじゃウツギ博士、ヒビキ君、コトネちゃんを巻き込んでしまう。
「お母さんは…怒り、憎しみで動いちゃダメと言っていたけど…お前らだけは絶対に許さない!!3人に手を出させない!!」
激しい怒りで身体の底から溢れだす力を解放させると、拘束をしていた機械は音をたてて壊れた。
「絶対に、守ってみせる!!」
私は涙を袖で拭いて金色の瞳に、背中に鋭い翼を生やした姿になった。人前では絶対見せないとお母さんと約束していたけど皆を守る為なら仕方ないと思う。
「ジルチちゃん、君は一体…。」
「…あとでお話しします。」
「わかった。」
「ジルチさんの背中に…。」「翼が生えてる…!」
ウツギ博士は一言だけ言って今はそれ以上聞かなかった。2人は私の背中に翼が生えている事にすごく驚いていた。
「機械が!」
男達は機械を破壊されて動揺していた。少し離れていたシャワーズとマグマラシ、ラクライが私の元に来てくれた。
「私が力不足で…3匹ともごめんね。」
そんな事はない、と3匹は首を振った。ラクライは動かなくなったお母さんを見て悲しみのある遠吠えをした瞬間、ラクライの身体が白く光輝いた。
「ラクライ!もしかして…!」
ラクライの身体は一回り大きくなってライボルトに進化した。
『ワーゥ!!』
「ライボルトに進化した…!」
突然の進化に驚いていると男達はさらに騒ぎ出した。
「なっ…ポケモンが進化しやがった…!」
「構うものか!いけ!ストライク。」
ストライクがこちら向かって斬り込んでこようとした。
「ライボルト。リベンジするよ!10万ボルト!」
ライボルトはストライクに向かって10万ボルトを放った。
「イワーク、またいやなおとで怯ませろ!!」
「させるものか!シャワーズ、アクアテール!マグマラシもシャワーズに続いてかえんぐるま!」
いやなおとを出す前に2匹に指示を出してイワークに総攻撃をした。2匹の攻撃が当たったイワークは倒れ、ストライクも10万ボルトが効いて倒れた。
「くそっ」「ずらかるぞ!」
男達は2匹をボールに戻して慌てて逃げ出した。
「逃がさない!!ライボルト!力を貸して!」
ライボルトからバチバチと電気が集まり空に雷雲を作り出した。
「私の…怒りの雷をくらえぇっ!!!」
私は腕を上げて走って逃げている男達の足元に最大火力の雷を落とした。
「ひぃぃ!?」
足元に雷が落ちて地面が焦げたのを見て男達は腰を抜かした。
「ウツギ博士!早く警察を呼んでください!」
「わかった!!」
ウツギ博士はお母さんを地面にそっと降ろしてポケットに入れてたポケギアで警察を呼んだ。
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