旅立ちの当日。ジルチはオーキド博士に呼ばれて研究所に来た。中ではレッドとグリーンがいて、その手にはポケモン図鑑があった。
「ジルチ!来たか!」
「おはよ。」『ピッカ!』
「2人も図鑑もらったんだね!レッドくんの肩にいるピカチュウってあの時の子?」
「そうだよ。ぼくの旅についてきてくれるみたい。」
「じゃあレッドくんはヒトカゲとピカチュウの2匹で旅をするんだね!」
ジルチがピカチュウのほっぺを触りながら話していると、グリーンがポケットからボールを取り出した。
「オレはこいつも仲間になったんだぜ!」
グリーンはボールを投げると中からマサキから譲ってもらったイーブイが出てきた。
『ブイ!』
「わぁっ!イーブイ!!かわいいー!」
「じいさんの知り合いにイーブイ好きがいて、旅立ちの記念に譲ってもらったんだぜ。」
「よかったね。グリーンくん!」
「おう!それで……ジルチもイーブイ欲しいと思ってもう1匹譲ってもらったんだ。ジョウトの旅に連れていってくれないか?」
グリーンは机に置いてたボールをジルチに手渡した。まさか自分の為にイーブイを譲ってもらったとは思わなくて何度もボールとグリーンを交互に見た。
「え…いいの?」
「いいって!まぁ出してみろよ?」
「うん!」
受け取ったボールを投げるとイーブイが出てきて、少し眠そうにしていて欠伸をした。
「初めましてイーブイ!わたしはジルチ。よろしくね。」
『ブーィ!』
ジルチは早速イーブイを抱えて首元のもふもふを堪能していた。
「ありがとうっグリーンくん!大切に育てるね!」
「いいってことよ!」
喜ぶジルチを見てグリーンは嬉しそうに笑った。そんなグリーンは心の中でレッドに対して「どーよ?」と思っていた。隣でグリーンが満足そうなのを見てレッドはジルチの前に出た。
「次はぼくの番!ぼくからはこれをジルチに贈るよ。」
レッドはリュックから赤色のリボンに結ばれた長方形の箱を取り出した。
「これは…?」
「開けてみて?」
ジルチはリボンを解いて箱を開けると中には透き通った色の水の石が入っていた。
「これって水の石だよね?」
「うん。グリーンがジルチにイーブイを渡すのを知ってたから、ぼくはシャワーズに進化する水の石にした。」
「レッドくんもありがとう…!いつ使おうかな!!」
イーブイをシャワーズに進化させたいけど、もふもふを堪能…いや、少し育ててから進化させようか悩んでいた。
「ジルチとイーブイの好きな時でいいんじゃないかな?」
「うん、そうする!」
「ったく、レッドにバレてたなんて何かムカつくぜ。」
「グリーンのやることなんてお見通しさ。」
「さすがレッドくんだね!」
腕の中でまったりしているイーブイを撫でた後ボールに戻した。ジョウトに着いたらラクライにも紹介しようと思いながらイーブイのボールと水の石が入った箱を鞄に入れた。
「わしからは…前に渡したポケモン図鑑とこのバッチケースをあげよう。」
「バッチケース…?」
オーキド博士から水色のバッチケースを受け取り、開けてみるとカントーとジョウトのバッチが収めれるようになっていた。
「君の事だからジョウトを制覇したらすぐカントーも制覇しに来ると思ってな。」
「ありがとうございます!こんなにたくさん受け取っていいの?わたし何も用意できてないよ…?」
「気にするなよ!ジルチ!代わりにまたバトルしてくれたらいいからさ!」
「うん。ジルチは気づいてないかもしれないけど、ぼくらだっていろんなものもらってるんだから。」
「わしは元気に冒険して、たまに図鑑を見せてくれるだけで充分じゃ。わしらの感謝の気持ちをそのまま受け取ってくれんかの?」
3人に一気に言われてジルチは遠慮せずにそのまま受け取る事にした。
「このお礼はいつか形にして返すから待っててね!」
必ず恩返しをする為にまずはジム戦かな!と意気込んだ。
「そろそろ行くかの。」
「そうだな!レッドより先にバッチを集めねえとな!」
「ぼくだって負ける気はないよ。」
「わたしだってジョウトのバッチを集めるよ!」
お互いに負けないと言い合いながらジルチ達は研究所を出て1番道路の前に来た。
「……。」
この1歩で2人に旅立ちと別れを告げるーそう思うとジルチは泣きそうになったけどなんとか堪えた。
「それじゃあジルチ。いってくる。」
「いってくるぜ!」
「いってらっしゃい。レッドくん、グリーンくん。」
2人が前へ進みだそうとした瞬間、同時にジルチの手を引っ張って3人一緒に1番道路へ踏み出した。
「っ!?」
当然、ジルチは何が起きたかわからなくて驚いた。今立っている場所は紛れもなく1番道路。隣にいる2人も1番道路に立っている。
「やっぱ3人一緒に1番道路へ入らないとなぁ?レッド!」
「もちろん。上手く一緒に踏み出せたね。グリーン!」
ジルチと一緒に1番道路へ踏み出すのは2人が前から決めていた事でこっそりと作戦を考えていた。
「それにジルチ。オレたちのこと呼び捨てでいいんだぜ?」
「え、でも。」
「いいから呼び捨て。」
2人に言われてジルチは強く頷いた。
「レッド!グリーン!旅への初めの1歩…一緒だね……っ!!ありがとう!!」
ジルチは一緒に踏み出せた事が凄く嬉しかったけど、2人の事を呼び捨てで言ったのは少し照れくさかった。
「うん。でもここで一旦お別れだけど元気でね。」
「レッドも元気でね。」
「まだ泣くんじゃねーぞ?泣くのは再会のバトルでオレに負けたときだ!」
「えっそれはやだなんだけど!!」
「何でだよ!?」
こうして3人は笑い合って旅立ちと別れを告げた。
「……。」
2人の背中を見届けているとレッドが戻って来て、小指を出したからつられてジルチも小指を出した。
「…?」
「チャンピオンリーグで待ってる。」
レッドは小指を少し絡めてグリーンの後を追いかけて行った。
「うん…!待ってて!わたしもすぐに追いかけるから!」
ジルチは冒険が始まったばかりで、辿り着く先でどんな風になっているか楽しみになってきた。希望と夢を心に秘めて家に戻ると引越しの準備が完了していた。
「おかえり、ジルチ。レッド君達ともう大丈夫なの?」
「うん!一緒に踏み出したから大丈夫!わたし、引越したあと落ち着いたらジム戦に挑むの!あ、ちゃんと研究の手伝いするよ?」
母親と合流してこれからの事を一気に話した。少し興奮気味に話すジルチを見て微笑んだ。
「手伝いはたまにでいいわよ?その闘志が満ちた目を見ればわかるわ。バトルがしたくて仕方ないんでしょ?さ、トラックに乗ってジョウトのワカバタウンへ行きましょ!」
「船に乗ってジョウトへ行くんだっけ?」
「そうよ。クチバ港発の船に乗るから着くのは明日の昼ぐらいと思うわ。」
母親はポケットに入れていた紙を見て言った。
「研究所の2階にある部屋2つ貸してくれるそうだからウツギ博士に感謝しなきゃね。あと部屋にある本を自由に読んでいいんだって!」
「本当!?ウツギ博士にお礼言わなきゃ!」
引越しの旅路もジョウトの話題で退屈はしなかった。その途中でジルチがグリーンからイーブイもらって、レッドから水の石をもらった事を話していると、母親は彼女の手首に目線がいった。
「手首に巻いてあるリボンどうしたの?」
「ん?これはレッドからもらった箱に結んでたリボンを手首に巻いてみたの。」
ジルチは赤色のリボンが気に入って、これを付けてたらレッドが近くにいる感じがしたから手首に巻いていた。
「なら、髪に結んだら?ジルチの髪は母さんと一緒で明るい青色だから赤のリボン似合うと思うわ。」
「そうする!」
ジルチは髪を1つにまとめて赤いリボンで結んだ。
「どうかな?」
「うん、似合ってるわ。」
母親の反応に満足げに頷いてこのリボンを大切に身に付けておこうと決めた。
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