旅立ちの日の前日。ジルチは家に居ても荷造りを終えて部屋には何もないから外に出て、マサラタウンの景色を見てまわっていた。皆と木登り、かくれんぼ、バトル、いろんな事をした。いつも遊んでいた場所でマサラタウンでの思い出に浸っていると後ろから声をかけられた。
「ジルチ。」
「レッドくん…どうしたの?」
ジルチの顔をジッと見ているレッドは少し目をそらした後、真剣な表情になった。
「今日の夕方。オーキド博士の庭にある大きな木の下で待ってるから来て。ジルチに話したいことがある。」
「うん?わかった。」
「待ってるから!」
言い終わるとレッドは早々に立ち去ってしまった。
「話したいことってなんだろう…わたしも話したいことあるけど…。」
ジルチは切り株に座って考えてるうちに時間が過ぎていった。 空にポッポの群れが棲みかに戻るのを見て約束の時間くらいかなと思い、座っていた切り株から立ち上がった。
「会ってみないとわからない!行かなきゃ!」
ジルチはレッドが待つ約束の場所へ走っていった。
オーキド博士の庭に着いた頃には空は茜色に染まろうとしていた。庭で一番大きい木の近くまで行くとレッドは木にもたれて待っていた。
「ごめん、待たせた?」
「そんなことないよ。」
レッドは深く被った帽子を被り直して、もたれていた木から離れた。
「それで…話したいことって何?」
「……。」
ジルチは話したい事が何なのか気になって早速本題に入った。すると、レッドは近づいてジルチの手を握った。
「?」
どうしたんだろと思って手元からレッドへと視線を上げると今まで見た事がないくらい真剣な顔をしていてジルチは目が離せなくなった。
「ジルチ。ぼくがジムのバッチ8こ集めてリーグに挑戦して、チャンピオンになったらー」
そよ風が吹いて草木の揺れる音がいつもより大きく聞こえた。
「ぼくと付き合って。」
「!!」
ジルチはまさか告白されるだなんて思いもしなかったから凄く驚いてしばらく反応出来なかった。
「ジルチ?」
「レレ、レ、レッドくんっその言葉、本当…?」
ジルチは動揺してつい聞き返してしまった。その慌てようを見たレッドは微笑んだ。
「本当。ジルチのこと好きだから。」
"好き"と言われて顔に熱を帯びていくのを感じた。
「…っ(今絶対顔が真っ赤になってる!ピカチュウのほっぺより赤くなってる!!)」
顔を隠したいけど手はレッドに握られている上、視線をそらす事ぐらいしかできなかったけど告白の返事をしそうとした。
「レッドくん。あの、実は……私もレッドくんのことが、好き。大好きだから、その…。」
「ジルチ、ありがとう!」
レッドの感謝の言葉を聞いた途端、ジルチはぎゅっと抱きしめられた。肌の温もりが身体中に伝わってきてジルチは鼓動が早くなるのを感じた。
「…(そういえば……)」
お互い同じくらいの身長だと思っていたけど、いつの間にかレッドの方が高くなっているのに気づいた。告白の返事は恥ずかしさで思ってた通りに言葉が出なかったけどレッドに伝わったのが嬉しかった。
しばらくの間、抱きしめ合って野原に2つ重なった影が夕陽で伸びていた。
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