シズクは徹夜をしてしまったが頼まれた事はきっちりとやっていたので、いつも通りの時間に研究所へ行った。
「皆さん、おはようございます。ポケモンの卵について調べたものと他の資料をまとめました。」
「あ!ありがとうございます。シズクさん!」
入口近くにいた眼鏡の研究員がシズクから資料を受け取った。
「やぁ!シズクさん。今日も研究の続きかい?」
「そのつもりです。オーキド博士、昨夜考えたのですがジョウト地方へ行ってポケモンの卵について研究してる方に直接話をお伺いしようと思います。」
「そうか〜。まだ発見したばかりでカントーじゃわからない事が多いから研究は難しいのぉ…。そうじゃ、ウツギ君に連絡をしたところ、君と一緒に研究するのを楽しみにしているからいつ来てもいいように資料まとめておくと言ってたぞ。」
「ありがとうございます。今ある資料をまとめたらジョウトへ行く準備をします。実はジルチにカントーを離れる事をなかなか言い出せなくて…。」
昨晩悩んでいた事をオーキド博士に打ち明けた。
「確かに孫達とよくポケモンと一緒に遊んでいるから離ればなれになるのは酷かもしれない…。じゃが、もうじきジルチちゃんも彼らもポケモンと共に旅に出る頃じゃろう?話せばきっとわかってくれるはずじゃ。」
シズクはこの時、娘が立派なトレーナーを目指して旅に出る事を忘れている自分に気づいた。父親の一件もあり、研究ばかりで娘とは日常的な会話をしていてもこれからの事を聞いていなかった。
「…オーキド博士。私は大切な事を忘れていたかもしれませんね。今夜ジルチと話し合ってみます。」
「うむ、その意気じゃ。例えスタート地点が違っていてもたどり着く場所は一緒のはず。その時までポケモンと共に成長するじゃろう。わしも昔トレーナーじゃったからわかる。」
「そうですね。話を聞いてくださってありがとうございます。」
シズクの思い詰めた表情が和らいだのを見てオーキド博士は安心した。それからシズクは気持ちを切り替えて研究を進めた。
日が暮れて空が茜色に染まる頃にシズクは研究所を出た。
「んーっある程度資料まとめたし、これからの課題も決まったし、今晩は言うって決めたから帰ったらご飯の支度をしよっと。」
背伸びしながら家の方角へ歩いてる途中、レッドとグリーンと一緒に歩いてるジルチを見かけた。
「本当に仲がいいわねぇ。いいライバルになりそう。」
そんな3人を見ているとジルチが母親の存在に気づいて2人に手を振った後、こちらに向かって走ってきた。
「お母さん!ただいま!!」
「おかえり、ジルチ。土まみれになってるけど…どうしたの?」
ジルチのワンピースが所々、土で汚れていた。
「かくれんぼしてるときに汚れちゃった!」
「かくれんぼでそんな汚れるかしら?」
「木の上とか草の中に隠れたりするから汚れるよ?」
「…帰ったら先にお風呂入るのよ?」
シズクはそのうち水の中とか土の中に隠れたりするんじゃないかと思った。
「うん!お母さん、今日2人ともポッポをゲットしたんだって!」
「ポッポいいわね。ラクライの調子はどう?」
「ばっちり!」
ジルチはニコニコしながら指でVの字を作った。
「そろそろレッドくんにリベンジかしら?グリーンくんとはどうなの?」
「んー5回バトルしてて…そのうち3回勝ってる!」
「ジルチが勝ち越してるのね。」
「そうだよ!グリーンくんが次は負けない!って言ってたから頑張らなきゃ。」
ジルチは夕日に向かってぐっと拳を作った。
「お母さん…わたしね、レッドくんたちと一緒の日に旅に出るって決めたの。」
「!」
「一緒に旅をする仲間を集めて…一緒にジムを行ってバッチ集めて、それからチャンピオンリーグに行くの。もしかしたらお互いどっちが先にチャンピオンになるか競争し合うかも。」
シズクはジルチの話を黙って聞いていた。
本当に目指す目標ができてまっすぐ貫く意志を感じた。しかし、1つ問題があるとしたら一緒に旅に出てもジルチだけ違う地方へ行ってしまう事だった。
「…いい目標が出来てよかった。母さんジルチがこれからどうするのか聞いてなかったから不安だったのよ?」
「でもラクライと友達になったときから旅に出る事は考えてたよ?」
「え、そうだったのっ?」
シズクはホウエンにいた頃から旅の事を考えてた事に驚いた。
「だって世界は広いんでしょ?いろんな事を体験したいし、お母さんみたいにポケモンの事や昔の事をもっと知りたいもん!」
「そうね、世界はとても広いわ。各地方にはまだわかっていないポケモンや文明があったり伝承もある。母さんはそれを知りたいわ。」
シズクは茜色の空を見上げて大空に手を伸ばした。
「ジルチ。旅に出て世界を見てきて、たくさんの事を経験して学ぶのよ?それがいつかジルチの力になるから。」
「うん!ありがとう、お母さん。」
ジルチは母が旅の応援してくれる事が嬉しくなって笑顔になった。
「それと…帰ったらその事で大事な話があるから聞いてくれるかしら?」
ふと、母の表情が真剣なものになってジルチは黙って頷いた。
_14/74