11.母の悩み
_ジルチはラクライと歩きながら今日の出来事を思い返していた。
 
「今日はお母さんにバトルの話をしよっとっ」

帰ったら今日のバトルについて話そうと思いながら家に向かっていたところ、オーキド博士の研究所から大量の資料を抱えたジルチの母親が歩いていた。

「あら、ジルチ。今帰ってきたの?」

「あ!お母さん、そうだよ! 今日レッドくんたちとバトルしたんだ!」

「そうなの!バトルどうだった?」

「わたしもラクライも楽しかったよ!レッドくんに負けちゃったけどね…。」

「あらあら。勉強したり、バトルして育てなきゃね。」

「そうする!たくさんきずくすり用意しなくちゃ!」

「家の救急箱にたくさんあるからって夢中になりすぎて使いすぎないようにね?」

「き、気をつけるよ…。」

「そうそう、今日の晩御飯はカレーよ。帰ったら一緒に食べましょ!」

「やったぁ!大好きなカレーだぁ!!」

ジルチは上機嫌でラクライと母親と一緒に家へ帰った。
帰宅して晩御飯を食べながら母にバトルの立ち回りを聞いていた。

「相性の悪いポケモンでも覚えている技次第じゃ逆転できるけどそれは相手も同じで油断しちゃダメよ?」

「わかった!」

「お父さんだったら努力値とか細かい事を言いそうだけど…お母さんはそこまでバトルしないから難しいわね。」

「お父さんはこだわりすぎー。そういえばお父さんはまだホウエン地方でお仕事してるの?」

「えぇ…最近連絡がないけどホウエンから出てないと思うわ。」

ジルチの父親は一緒にカントー地方に引っ越さず、1人でホウエンに残って仕事をしている。月に何回か手紙を送るくらいであまり連絡が取れていない。

「そういえばお父さんから貰ったお守り、ずっと身につけてる?」

「うん、ちゃんとつけてるよ!ほら。」

ジルチは首から服の中に入れていたお守りを母に見せた。波模様の透かし彫りのされた薄い円形で中央に青い水晶がはめ込まれていた。

「お父さんがずっと身につけてなさいって言ってたからお風呂の時以外つけてるよ!」

「そう、よかった。水の護神様の加護があるから大切にしなさいね?」

「うん!」

「お母さんは研究の続きをするから食べ終わった食器は流し台に入れるのよ?」

「はーい!」

「ごちそうさま。遅くまで起きてたらダメよ?」

「お母さんみたいに夜ふかしはしないよ!」

「ふふふ、母さんはお仕事だから仕方ないのよっ」

ジルチの母は研究に使っている部屋へ入って、机の上にあった手紙を読みながら小さく呟いた。

「………。あなた…私も頑張るから危ない事は避けなさいよ…。」

その手紙は今日父親から届いたものだった。

[あの研究所にあった資料は全て燃やした。
研究所も使えないものにしたが、研究員が外部に情報を持ち出しているかもしれない。
あと、奴らがまだ僕らを血眼になって探しているから気をつけるんだ。他の資料に対ポケモン捕獲を強化した物やポケモンの心を閉ざし、戦闘兵器にする技術を開発していた。
僕はまだ調べる事があるから各地を飛び回っているけど大丈夫だ。
いつも心配をかけてすまない。ジルチの事は頼んだ。ーサフィラス]

父親の生存は確認取れているが危ない事ばかりしていて心配だった。もちろんこの事はジルチには秘密にしていた。いずれ話さなくてはいけないと思っていても、まだ子供のジルチには衝撃がありすぎる。
しかし"仕事でホウエンに滞在している"という嘘をついている事に後ろめたさを感じていた。

「…さて、オーキド博士に頼まれた研究をしなきゃね。でもカントーじゃ少し情報や知識が足りないわ…。ポケモンの卵に関してはジョウトで研究した方がいいのかしら……。」

ポケモンの卵について研究を頼まれているがジョウト地方で発見されたばかりであまり情報がない。
1番最初に発見したジョウトに行って確かめたいところだが、友達もできて毎日楽しそうに過ごしているジルチにいきなりジョウトへ引っ越す提案を出すのは難しい。かといって母親1人ジョウトに行ってジルチをカントーで1人させるのは不安で仕方ない。

「困ったわね…でも、決めなくちゃどのみち進めないわ。オーキド博士には私達を匿ってくれた恩があるから。」

今ある研究資料を紙に書きながらジルチに近いうちジョウト地方へ引越す事を言う決心をした。

 ポッポー ポッポー
朝陽がカーテンの隙間から射し込んでポッポ達の鳴き声が聞こえてきた。

「…え、もう朝!?」

昨夜ジルチにジョウトへ引越す事を言うのはいいが、どう言い出せばいいか悩んでいるうちに夜が明けていた。
ガチャと扉が開く音がして母親は慌てて振り向いた。

「!?」

「お母さーん!まだ寝てるのー?」

ジルチがまだ寝てると思っていた母を起こしにきた。

「い、いえまだ寝て…今起きたところよ!?」

目の下くまが出来ている状態で見苦しい嘘をついた。

「そうなの?朝ごはん、作ったよ!冷める前に食べよっ」

「あ、ありがとう。」

今朝はジルチが作ってくれた目玉焼きトーストを食べながら母はどのタイミングで言うか考えていた。

「……。(朝から言うのもなんだし夜に言うしかないわね…)」

「お母さん難しい顔してるけど、研究が進まないの?」

「えぇ……ちょっとオーキド博士に頼まれたポケモンの卵の研究が進まなくて困ってるの。」

大体合ってるが今悩んでいる事とは違う事を言った。

「この前研究所に遊びに言ったときに、ジョウトで発見されたばかりだってオーキド博士が言ってた!お母さん大変だねー。」

「そうなのよぉー……。」

母親は落胆する仕草をした。研究と引越しで板挟みにされているけど自分がしっかりしないといけないと思った。

「そうそう!今日レッドたちポケモンを捕まえに1番道路の近くに行くんだって!」

ジルチは気を遣って話題を変えた。

「でもわたしはラクライとバトルの特訓する!」

「ジルチは仲間を増やさなくていいの?」

「うん!ラクライを育ててからにする。」

「レッドくんに負けたのが悔しかったのね。」

この間のバトルからずっとラクライと一緒に野生のポケモンとバトルして鍛えていてあの日以来、覚える技も増えて戦い方が変わった。

「あれからラクライの動きが速くなったんだよ!」

「今度お母さんにラクライの戦ってるとこ見てみたいわ。」

「いいよ!今度レッドたちとまたバトルするから見に来てっ」

「楽しみにしてるわ。」

「うんっごちそうさま!じゃあ行ってきます!」

ジルチは朝食を食べ終わって足元に置いてた鞄を持って家を飛び出した。

「私もごちそうさま。気をつけていってくるのよー!」

元気に外へ走っていったジルチを見送った後、いくつか資料を持ってオーキド博士の研究所へ向かった。
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