水の都の巫女 | ナノ


23

 ーセキエイ高原、チャンピオンリーグ、集会場ー

3ヶ月に1度と年末年始ぐらいしか集まらない集会場に緊急招集がかかって、カントージョウトのジムリーダー全員が集まっていた。
全員集まったのを確認したワタルさんが会議の話を始めた。

「みんな遠いところから集まってくれて感謝する。今日集まってもらった理由は3年ほど前に解散したロケット団についてだ。先日、キキョウジムにある少女を狙ってロケット団が奇襲をした。少し前からジョウトでロケット団の目撃情報があって警戒をしていたが…思っていたより早くロケット団が動き出した」

ロケット団がジムを奇襲をしたと聞いてジョウトの組は動揺していた。カントーのジムリーダーは「またか」という反応だった。

「それでロケット団が狙っているその少女は何者ですか?」

イブキが質問をするとワタルさんは少し目を伏せて話しにくそうにしていた。

「その少女は……俺の友人の娘だ。ロケット団の狙いは娘が持っていると思われる母親の研究のデータだろう。彼女は立派な研究員だったが……先日、ロケット団に襲われ…亡くなった」

「…そうですか」

イブキはワタルさんの話し方からして何かあるのを察してそれ以上は追求をしなかった。俺はジルチの母親がロケット団のせいで亡くなったのを知って衝撃を受けた。そしてロケット団がついに人を殺めたという事実が恐ろしかった。
さすがにカントー組も動揺した。

「ワタルさん、まさかその友人って……」

グリーンが口パクでワタルさんに何かを言うとワタルさんは無言で頷いた。何を言ったか気になってグリーンへ視線を移すと …顔が青ざめていた。
どうやらグリーンもジルチと母親の事を知っているようだ。

「今はキキョウシティのハヤトが彼女を保護をしている。そうだったな?」

「はい。現段階ではまだキキョウシティにロケット団が潜んでいると思い、周囲の警戒をしています」

「そうか。ジムの修理で忙しいとは思うがよろしく頼む。キキョウシティの安全がわかれば彼女を自由にしても構わない。こちらもロケット団の調査をしてジョウトの本拠地を探す」

「わかりました」

ふと、視線を感じて斜め向かいに座るグリーンと目があった。青ざめた顔に変わりないが何か必死になっているのが伝わってきた。

「……ロケット団が次に出る行動はわからないがサカキが不在なのは確かだ。恐らく幹部としたっぱたちだけで活動している。何かわかり次第連絡するが、ジムリーダーはすぐ動ける状態で警戒をしてもらいたい。以上だ」

ワタルさんは席を立ち上がると、俺とグリーンに手招きをしたから一緒に集会場を出た。少し歩いて人気がない場所で立ち止まった。

「ハヤト、ジルチの様子はどうだ?あの子は大丈夫そうか?」

「はい、見た目は大丈夫そうに振る舞っていますが…時々思い詰めてる様子はありました」

「そうか…彼の約束通りすぐ保護しに行きたいところだがシズクとの約束もあるからな……」

「ハヤトさん!!ジルチはオレの幼馴染みなんだ!あいつは平気で無茶な事をすると思います!!もしロケット団を見つけたら真っ先に突っ込むかもしれません…!」

ワタルさんがあれこれ悩んでいるのを聞いてるといきなりグリーンに服を掴まれ必死に訴えてきた。確かに平気で無茶な事をしそうな子だ……。

「グリーン、キキョウシティにいる間ジルチを守るから心配しないでくれ。それに彼女は強い、ロケット団に遅れを取らないと思う」

グリーンは少しほっとした顔をして服を離した。

「さっきも言った通りキキョウシティの安全がわかればジルチの旅を続けても構わない。何があっても彼女は前を向いて進むはずだ、それが母親であるシズクとの約束だからな。だが父親の彼との約束を蔑ろにするつもりはない。緊急となれば俺が強制的に保護する」

「その緊急…とは?」

ロケット団に負けて捕まった時か?と思っていたがワタルさんは真剣な顔をして言った。

「ジルチがロケット団に捕まって何らかの方法で能力を暴走させられた時だ。やむを得ないがこちらも全力で止めるために戦わないといけなくなる。最悪その事態になったらグリーン、君にも手伝ってもらう。レッドの連絡先はわかるか?」

「一応…この間の食料調達しに行ったときにポケギア持たせましたがシロガネ山は電波が悪く、緊急時に通じるかはどうかわかりません…」

「そうか。最悪な事態にならないよう未然に防がねばな」

「…ワタルさん、俺も手伝わせてくれませんか!」

もしジルチを止めるなら俺も止めたい。彼女の能力が未知数であってもだ。
しかし伝説のトレーナーと呼ばれる彼を呼ぶとなれば相当警戒しているのもわかる、高い確率で断られるだろうと思っていた。

「人手多くて困らないが君はジョウトの1つ目のジムを守っているんだ。そんな君が不在となったら多くのトレーナーや町の人が困るだろう。気持ちはありがたいが君は君の守るべき場所を守ってくれ」

すまないと言われ、予想通り断れたが一理ある。
ここは大人しく引き下がる事にした。

「…正直、情けない話だが俺のカイリューと戦ったとしても勝てる自信がないんだ。何故なら彼女は、ホウエン地方に生息する珍しいポケモンと特殊な人間の間に産まれた子だからな。君らの話を聞いてる限りじゃ両親の才能を受け継いでいるようだ」

今、何て言った…?グリーンもワタルさんの話を聞いて口を開けていた。
ワタルさんのカイリューで勝てるか怪しいのとジルチがポケモンと人の間に産まれた子…だと?

「この話は君ら2人にしか話していないから他言無用だ。リーグの中でもっとも極秘にされている内容だからな。それとレッドに1度話したな。正直、信じにくい話だろうけど思い当たる節はあるだろ?」

ワタルさんの言う通り思い当たる節はあったから俺は無言で頷いた。

「ガキの頃…ジルチはその能力の事をあいつの母さん曰く、神様からの授かり物だと言っていた…その事はジルチは知っているんですか?」

「シズクが亡くなったあと父親の手紙を読んで知ったはずだ」

グリーンは「そっか…」と呟いて黙った。

「ともかく、2人ともよろしく頼む。時間を取らせてすまなかった」

ワタルさんはマントを翻してその場を立ち去った。

「ハヤトさん、オレからもよろしくお願いします。それと…あいつのシャワーズ、元気にしてますか?」

グリーンは頭を深く下げたあとシャワーズの事を聞いてきた。

「あぁ、バトルをしたけど手強かったよ。シャワーズの事を知ってるのか?」

「はい!オレ達が旅立つ時に、オレがジルチにイーブイをあげてレッドが水の石を渡したんです。やっぱ旅立ったらシャワーズに進化させたかー。くーっ早くバトルしてぇ…!!」

トキワシティのジムリーダーに就任してジルチがカントーのジム巡りで訪れるのを楽しみにしているのだろう。話からしてジルチはグリーンと伝説のレッドとは幼馴染みという関係がわかった。
ジルチが言ってた昔バトルをしていた友人とは彼らの事だろう。若き天才トレーナーと呼ばれた2人と相手していたんだ、通りでバトルが上手いわけだ。
1人で納得しているとグリーンは悔しそうな顔をしていた。

「オレ、ガキの頃からジルチに負け越しているからな……そろそろリベンジしたいぜ」

最年少でチャンピオンに輝いて、ジムリーダーが不在になっていたトキワジムのジムリーダーに就任する偉業を遂げた彼は幼い頃のジルチに敵わなかったという事実を知った。

「ジルチは負けず嫌いで俺たち3人は勝ったり負けたりの繰り返しでほぼ毎日バトルしてました。オレ達が旅に出る日にジルチはジョウトへ引っ越しする事になって、その時…約束をしたんですよ」

「"リーグでまた会おう、再会したらバトルしよう"って。気づいたら3年も経ってて、オレが再会する場所がリーグじゃなくてトキワジムになりそうです。…レッドの場合シロガネ山ですね」

懐かしむかのようにグリーンはジルチの事を話してくれた。少し羨ましいところがあったがグリーンが「今、一緒に居れるハヤトさんが羨ましいです」と言われた。


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