水の都の巫女 | ナノ


09

 ストライクの鎌が降り下ろされたと思っていたけど痛みがなかった。
恐る恐る目を開けると目の前にストライクの鎌で斬られたお母さんが立っていて、足元には大量の血が落ちていた。

「う、そ…お母さんっ!?」

「ジルチ…大丈夫…?怪我、してない?」

お母さんは痛みに耐えながら私の前にしゃがんだ。

「ごめん、ね、ジルチ…。こうなる前に…あなたに言わ、なきゃいけない事が、あったの……」

「お母さんっ!今はそんな事より怪我を!傷口を抑えなきゃ血がっ!!このままじゃ死んじゃう!!」

「お母さんの、事は…いいから。私の部屋…にある、机の下の引き出しに…父さんからの手紙、あるから読んで……」

お母さんは倒れたままの私を起こして涙で濡れた頬に触れた。

「ごめんなさい、ジルチ」

もう一度謝ったあと、お母さんがストライクの攻撃を庇った事で油断していた男達が叫び出した。

「くそっ!邪魔しやがって!!」

「お前何やってんだ!親子を捕らえるのに特に能力を持っていない母親を重症にしてどうする!こうなったら娘だけでも……」

男達が近づいてきた途端、お母さんはとてつもない殺気を2人と2匹に向けた。
私に向けられているわけじゃないのに背筋が凍りつく感覚に襲われた。

「邪魔、しないでくれるかしら…?」

男達はその場を動けなくなり、声も出せなかった。その様子を見たあと私に目を合わせた。

「ジルチが全てを知って、これからどうするかは任せるわ…私はレッド君との約束を、旅して欲しいけど…」

「お母さん…?」

「それと怒り…憎しみだけで動いちゃ、ダメよ?周りが見えなくなって…身を滅ぼすわ……」

お母さんは一息ついて悲しい顔をした。

「ジルチ、今までありがとう。今は悲しいかもしれないけど…前を向いて、どんな事があっても立ち向かって……ジルチなら…大、丈夫と……」

私の頬に触れていた手が落ちて、お母さんの身体が横に倒れた。

「お母さんっ!?お母さん!!起きてよ!!」

いくら呼びかけてもお母さんは目を閉じたまま返事をしなかった。

「シズクくんが飛び出していったけど一体何があったんだい!?」

研究所からウツギ博士が飛び出してきた。

「どうしたんですか!」

「ジルチさんの叫び声が…」

ヒビキ君、コトネちゃんもこの騒動で駆けつけてきた。
3人が私の側に駆けつけて、お母さんが血まみれで倒れているのを見て言葉を失った。

「シズクくん!しっかりするんだ!!」

ウツギ博士がお母さんの身体を抱えて声をかけたけど…返事はなかった。

「ウツギ博士…お母さんは……お母さんは…!」

「…………」

ウツギ博士は無言で首を横に振った。

「そんな…」

私はそれ以上何も言えなかった。ヒビキ君達は肩を震わせて顔が真っ青になった。

「チッ…町の連中が来やがった!」

「娘だけ連れていくぞ!イワーク、娘の周りにいる連中を蹴散らせ!」

お母さんの殺気から解放された男達は動き出した。
お母さんをこんな目に遭わせて…その上まだ私を狙っている。このままじゃウツギ博士、ヒビキ君、コトネちゃんを巻き込んでしまう。

「お母さんは…怒り、憎しみで動いちゃダメと言っていたけど…お前らだけは絶対に許さない!!3人に手を出させない!!」

身体の中から溢れだす力を解放させ、拘束をしていた機械はミシミシと音をたてて壊れた。

「絶対に、守ってみせる!!」

涙を浮かべた金色の瞳に、背中に薄くて鋭い翼を生やした姿になった。

「ジルチちゃん、君は一体…」

「…あとでお話しします」

ウツギ博士は「わかった」と言ってそれ以上は聞かなかった。
ヒビキ君たちは「翼が生えてる…!」と驚いていた。

「機械が!」

男達は機械を破壊されて動揺していた。
少し離れていたシャワーズとマグマラシ、ラクライが私の元に来てくれた。

「私が力不足で…3匹ともごめんね」

そんな事はない、と3匹は首を振った。ラクライはお母さんを見て凄く悲しい顔をしたあと遠吠えをした。その瞬間、ラクライの身体が白く光輝いた。

「ラクライ!もしかして…!」

ラクライの身体は一回り大きくなってライボルトに進化した。

『ワーゥ!!』

「ライボルトに進化した…!」

突然の進化に驚いていると男達は騒ぎ出した。

「なっ…ポケモンが進化しやがった…!」

「構うものか!いけ!ストライク」

ストライクがこちら向かって斬り込んでこようとした。

「ライボルト、リベンジするよ!10万ボルト!」

ライボルトはストライクに向かって10万ボルトを放った。

「イワーク、またいやなおとで怯ませろ!!」

「させるものか!」

「シャワーズ、アクアテール!マグマラシもシャワーズに続いてかえんぐるま!」

いやなおとを出す前に2匹に指示を出してイワークに攻撃をした。2匹の攻撃が当たったイワークは倒れ、ストライクも10万ボルトが効いて倒れた。

「くそっ」「ずらかるぞ!」

男達は2匹をボールに戻して逃げ出した。

「逃がすか!!ライボルト!力を貸して!」

ライボルトからバチバチと電気が集まり空に雷雲を作り出した。

「私の…怒りの雷をくらえぇっ!!!」

私は腕を上げて走って逃げている男達の足元に最大火力の雷を落とした。

「ひぃぃ!?」

足元に雷が落ちて地面が焦げたのを見て男達は腰を抜かした。

「ウツギ博士!警察を呼んでください!」

「わかった!!」

ウツギ博士はお母さんを地面にそっと降ろしてポケットに入れてたポケギアで警察を呼んだ。



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