水の都の巫女 | ナノ


12

 大空の飛行を終えて、風が花を集める町と呼ばれるフキヨセシティに到着した。レッドが自転車を押しながら歩いていると、ポケセンからトウコさんが出てきた。

「あ!ジルチさん!これからジムに挑むの?」

「ううん。私はジムバッジを集めてないよ」

「そうなの?あっもうチャンピオン経験してるからイッシュのリーグに挑む必要はないもんね!アタシはこれから挑もうと思ったけど、ジムリーダーがタワーオブヘブンに行ってるから挑めないのよね。だから戻ってくるまでの間、電気石の洞穴でポケモンをゲットしてくるわ!」

「頑張ってね!」

「はーい!!」

トウコさんは元気よく返事して走っていった。帽子から出たポニーテールが左右に揺れてるのを見てたらリオルが私の手を引っ張った。

『ジルチ。タワーオブヘブンって?』

「タワーオブヘブンはっと……」

ポケナビでタワーオブヘブンの情報を見て"魂を浄化させるという大きな鐘がある高い塔"と書いてあった。

「お墓…かな?」

「シオンタウンと同じ感じだと思う」

「確か今はラジオ局になってるけど、昔にポケモンタワーというお墓があった町だよね?魂を浄化させる塔……。後で行ってみていい?」

「いいよ。気になることが?」

「うん。ずっとお母さんの御墓参りしてなかったから、この機にその鐘を鳴らしてみようかなって」

「いいと思う。プラズマ団を壊滅させて落ち着いたら1度ジョウトへ帰って挨拶しよう」

「そうだね!」

ホウエンに行ったっきりジョウトへ戻ってなかったから、イッシュからホウエンへ戻った時に一旦ワカバタウンへ帰ろうと思った。ポケナビをポケットに入れるとリオルは肩に飛び乗って空に手を伸ばした。

『見て見て!ホエルオーみたいな、おっきいのが飛んでる!』

「わぁ、大きい…!!」

リオルが指した方角を見ると、フキヨセジムの近くにある滑走路から貨物機が離陸したところだった。

「あれは貨物機だ」

『かもつき?』

「貨物機は荷物を運ぶ飛行機だよ。この町の中に滑走路があるって」

『へぇ〜!!』

リオルの目は観覧車を見た時と同じくらいキラキラと輝いていた。シンオウとホウエンで見なかったものを見て、感動と期待のような感じの感情が肩越しから伝わってきた。

「フキヨセに来たし、ついでに滑走路を見てから次の町へ行こっ」

「次の貨物機が離陸するところが見れたらいいね」

『うん!』

貨物機を間近で見れたらリオルが喜ぶかなと思いながら、フキヨセジムの前にある滑走路へ向かうと思わぬ人物に出会った。

「N!!」

「……わかり合う為と言い、トレーナーは勝負で争いポケモンを傷つけ合う。ボクだけなのかな。それがとても苦しいのは」

「それはNがポケモンの言葉がわかるからじゃないかな。わかるからこそポケモンの痛みがわかるんだと思う」

「まあいい……キミのポケモンと話しをさせてもらうよ」

「え…?」

前からそうだけど、会話が一方通行な感じがして話が唐突に始まったり終わったりする。彼が私の話を理解してるかどうか怪しい。

「……ボクは産まれた頃よりポケモンと暮らし育ったからね。ヒトと話すよりも楽なんだ」

「どうして?」

「だって、ポケモンは絶対に嘘をつかない」

「………」

Nが近づいてきたからレッドが警戒して私の前に出たけど、彼は気にせず私の肩にいるリオルに目線を合わせた。

「リオルだね……。ジルチはどんなトレーナーか教えてよ?」

『まだタマゴのころ、いっぱいお話ししてくれた優しい人だよ?タマゴから生まれたぼくに広い世界を見せてくれた!少し前は、カッコいいお父さんと、明るいお姉さん。強くて優しいレッドと一緒に暮らしてたよ!』

「……そうか。ジルチはレッドと父親と姉と一緒に暮らしてたんだ。あと、リオルはタマゴから育ててもらってる……と。それにしてもこのリオル。何故だかキミを信じている……。いいね……!」

「当然でしょ?」『とーぜんだよ!』

「全ての人とポケモンがキミ達のように向き合うなら、人に利用されるだけのポケモンを解き放たずにポケモン達と人の行く末を見守ることができるのに」

Nは私達から離れて大空を見上げたけど、彼の瞳にこの透き通った青空は映っていなかった。

「ゲーチスはプラズマ団を使い、特別な石を探している。その名もライトストーンとダークストーン……。伝説のポケモンはその肉体が滅ぶと、ストーンとなって眠りながら英雄の誕生を待つ……」

イッシュ神話に登場するレシラムとゼクロムのことだと思った。

「そのストーンから伝説のドラゴンポケモンを蘇らせ、トモダチになり、ボクが英雄であることを世界に認めさせ、従わせる……」

「そんなことの為に伝説のポケモンを利用しないで!!!!」

「……ボクの夢は争うことなく、世界を変えること。力で世界を変えようとすれば、逆らう人も出るだろう。その時、傷つくのは愚かなトレーナーに利用されてしまう無関係のポケモン達だから」

「……っ」

「そう……ポケモンは人に使われるような小さな存在じゃないんだよ!その結果……キミ達のようにお互い向き合っているポケモンとトレーナーを引き裂くことになるのは少し胸が痛むけどね」

彼は私達を見て少し悲しげな表情を見せて去っていった。

「だったら……プラズマ団の王じゃなくても、いいじゃない…!!」

「ジルチ…」

「悔しい……悔しいよ。話せばわかり合えるはずなのに全然伝わらないなんて…」

「僕らで彼とプラズマ団を止める。人とポケモンは互いを理解し合って、一緒に生きていけるのを証明するんだ」

「……うん!!」

『ぼくもがんばるから!』

「ありがとう、リオル」

そう、ポケモン達と力を合わせて立ち向かわないとゲーチスの思い通りになってしまう。プラズマ団より先にライトストーンとダークストーンを探すべきかもしれないけど、そのストーンの手かがりが全くない。

「そうなると、神話にまつわる場所に行った方がいいかな…」

「セッカシティにリュウラセンの塔ってなかった?ほら、ワタルが用意してくれた資料に青いラインが引かれてた町」

「うん!!タワーオブヘブンの次はセッカシティに行こう!」

次の目的地が決まってジムの前にある滑走路へ着くと、荷物を載せている最中で貨物機がすぐ近くにあった。

『わー!おっきい!!』

「スゴいね!」

『ぼく、見たことのないものがいっぱい見れてうれしい!』

「リオルが喜んでくれてよかったっ」

『次はマスターオブヘブンだよね?!高い塔って空の柱より高いのかなー?』

「んー空の柱は雲の上までだったからそれより低いかもね」

「じゃあ、早速向かおうか」

「『うん!』」

 7番道路は丈の長い草むらが生い茂った道で、自転車に乗って移動するのは困難だった。その草むら避ける為に設置された平均台のような1本道があるけど、自転車を押しながら渡るのは危険そうだった。

「タワーオブヘブンまでリザードンに運んでもらう?」

「幅がタイヤよりあるから大丈夫だ」

「え?ちょっと、レッド?まさか…この細い道を自転車で渡るつもり?」

「渡るつもり。このくらいカントーの道と比べたら余裕だ」

レッドは帽子のつばを後ろ向きにしてから自転車に乗って、そのまま平均台の道を走っていった。曲がる時どうするのかと思って後をついて行ったら、前輪を上げて後輪だけでジャンプしていた。それで方向転換してバランスを保ったまま漕いでいた。

『レッド、スゴいね!細い道をスイスイといって、ジャンプして曲がったよ!!」

「カントーの旅で何があったんだろ…」

自転車の話は聞いたことがなかったと思いながらリオルを先頭に私達も細い道を渡っていくと、頂上が雲の上までありそうな高い塔が見えた。

「ここがタワーオブヘブン…」

「結構高いね。シオンタウンにあったポケモンタワーはもっと低かった」

看板の横に自転車を置いて中に入ったら先に螺旋状の階段が目に入った。私達が周りを見渡していたら近くにいた女性が静かに話しかけてきた。

「てっぺんにある鐘……。鳴らすと眠っている魂が喜ぶと言われているわ」

「眠っている魂が…。鳴らしたらお母さん喜んでくれるかな?」

「えぇ。ポケモンだけじゃなく、人もきっと……」

「ジルチが遠い地方に来てるのにビックリするかも」

「そうだね!」

長い螺旋階段を上っている途中で、ピカチュウと一緒に先頭で上っていたリオルが振り返った。

『ねぇ、ジルチのおかあさんってどんな人だったの?』

「私のお母さん?」

そういえば、私のお母さんのことを知ってるのはライボルト、シャワーズ、バクフーンの3匹だけ。旅立った後から仲間になった4匹はお母さんのことは知らないけど、旅立つ前に亡くなったのをホウエンで過ごしてる時に軽く話した。

「私のお母さんは、優しくて…好きなことに没頭すると時間を忘れちゃう人。私が地方に伝わる逸話とか伝説に興味を持つようになったのはお母さんの影響だよ。……ロケット団が襲ってきて、身動きが取れなくなった私をストライクの攻撃から助ける為に、自分の身を盾にして……亡くなっちゃった」

「………」

たまに夢で思い出すあの時の光景−不気味に光る鎌とお母さんの足元に広がる血、自分の無力さが一気に押し寄せられた。もう…あんな思いをしたくないし、誰かにさせたくないと思った。

『…うっ、うわぁぁぁんっ』

「えっ!?リオルどうしたの!?」

『だって、かなしいもんっ!くやしいもんっ!』

「もしかしたら、ジルチの気持ちがリオルに伝わったのかも」

「あ……。心の中に抑えてた悲しさと悔しさが伝わっちゃったんだね……」

「僕も…ジルチのお母さんが亡くなったのを知ったのは、先にチョウジタウンへ向かってるグリーンからの電話で聞いた。その時、僕はリオルと同じ気持ちだった……」

ボロボロと涙を溢すリオルにレッドは頭を撫でて、隣にいたピカチュウはリオルの手を握った。
グリーンからその話を聞いたレッドはロケット団を壊滅させたのに3年後に復活して、私達が危険な目に遭ったのを知ったからリオルと気持ちだった。

「だから僕は、ジルチを手放したりしない。悪い奴らから守るって決めた。リオルも一緒に守ろう!」

『うん…!』

レッドの言葉にリオルは涙を拭いて力強く頷いた。励ましてくれたピカチュウにお礼を言って、レッドに右手を差し出した。

「うん。いい目をしてる」

レッドも右手を差し出して、お互いの拳を軽く当てると笑顔を見せた。気を取り直して再び階段を上がっていくと青空が見えてきた。

「長い階段を上がったって思ってたけど、こんなにも高かったんだ…!!」

『でも、空の柱の方が高いね!』

階段を上りきれば周りに雲海が広がっていて、鐘の音が天国へ届きそうな感じがした。頂上の中心にある鐘がある広場へ行くと、フキヨセで見かけたパイロットと似た服装を着た人がいた。

「こんにちは、トレーナーさん!」

「こんにちは!いい景色ですね」

「この周辺はタワーオブヘブン以外高い建物がないから景色を一望できるよ。そうだわ!折角来たんだし、あの鐘を鳴らしたらどう?」

「鳴らします!その為にここへ来ましたから」

「このタワーオブヘブンの鐘はポケモンの魂を鎮めるの。しかも、鳴らす人の心根が音色に反映される……」

「……よし」

紐を勢いよく引っ張ると鐘の音色が辺りに鳴り響いた。空にいるお母さんや水の民の人達に届きますように、と願いを込めた。

「いい音色……。あなたは優しくて強い人……。そんな音色……」

『ぼくもそう思う!』

「挨拶がまだだったね!アタシはフキヨセポケモンジム、ジムリーダーのフウロです。使うのは飛行タイプのポケモン。準備が整ったらジムに来てくださいね!大歓迎しますから!」

フウロさんはジムへ向かっていったのを見届けた瞬間、いきなり強い風が吹いてきた。

"−アノ人間達ヲ 許サナイ ……!!"

「……えっ?」

慌てて後ろへ振り返ったけど、まだ微かに揺れている鐘しかなかった。

「どうしたの?」

「今、声が……」

「声?風の吹く音しか聞こえないよ?」

『ぼくも風の声しか聞こえないよー?』

「………。気のせい、かな……」

雲の上だから風はあるけど、その声は確かに"私の真後ろ"から聞こえた。背筋に薄気味悪い感覚があって鳥肌が立ったから二の腕を摩った。

「寒い?」

「んー……近くにゴーストタイプのポケモンがいるからかな…」

「そうだね。ここからリザードンに乗って、自転車を回収してからセッカシティへ行こう」

「うん!」

リザードンの背中に乗ってタワーオブヘブンの看板に置いた自転車を回収して、そのままセッカシティへ向かった。


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