水の都の巫女 | ナノ


10

 ライモンシティを出て、5番道路にある赤色の跳ね橋を自転車で駆け抜けていると風がすごく気持ち良かった。

「んーっいい風!」

両手を広げて心地いい風を浴びたいと思って、レッドの肩に入れてる力を抜いたら名前を呼ばれた。

「いくらバランスが良くても、空を飛べても、落ちる前にサイコキネシスで浮けても危ないから手を離さないで」

「う…うん。ちゃんと、両手はレッドの肩を掴んでる……よ」

抜いた力を元に戻して引っかけている足元に集中した。

『ジルチが腕を上に動かしたら肩に乗ってるぼくが落ちそうになる…』

「ごめん…!気をつけるから!!」

「そういう事だから自転車乗ってる時は手放さない」

「はぁい」

別名リザードン・ブリッジをひたすらまっすぐ漕いでホドモエシティに着いた。

「船の帆と渦巻く水。イッシュ地方の玄関と呼ばれる港町だ。クチバシティみたいな場所だね」

「そうだね。あとアサギシティと似てるかな?貿易港だから各地方の品物を取り扱ってるホドモエマーケットっていうお店があるんだって!」

「傷薬とか道具を補充するついでに見ていこう。この橋を渡った先にあるみたいだ」

「うん!」

特に変わった様子はないと思いながら町にあった橋を渡っていると、博物館であったトレーナー達と帽子の被った渋そうなおじさんが言い争っていた。

「フン!お前らがカミツレの話してたトレーナーか。ワシがこの町のジムリーダー、ヤーコンだ!歓迎なんかしないぞ」

「何でよ!ジムに挑戦するトレーナーが来たのだから歓迎しなさいよ!」

「何しろ橋を下ろしたせいで捕らえていたプラズマ団が町中に逃げてしまったからな」

「アタシ達のせいって言いたいの!?」

「……メンドーだな。橋を下ろしてくれて感謝してますけど、それとは無関係ですよね?」

「何とでも言え」

ごもっともな言葉に彼は開き直った態度を見せた。

「何だか険悪な雰囲気だ」

『おじさん、すっごく不機嫌っ』

「プラズマ団の事で揉めてそうだから助けれる事なら協力しよう」

「そうだね」

跳ね橋を下ろす下ろさない以前に、ライモンで捕らえ損じた私にも非があると思った。レッドは自転車を止めてその場から彼らの様子を伺った。

「大事なのはお前達が来た……そして、プラズマ団が町中に逃げていったという事だ。自分でも強引だと思うがお前らもプラズマ団を探せ。凄腕のトレーナーなんだろ?」

「もっちろんよ!凄腕のトレーナーなんだからプラズマ団なんてすぐ取っ捕まえるわ!」

「そうだな……。プラズマ団を見つけ出したらジムで挑戦を受けてやるぞ!人生は give & take!」

ヤーコンさんはそう言って彼らの前から立ち去っていった。

「わかりました。言われなくてもプラズマ団は探しますよ。メンドーな連中を倒しつつ強くなれるからね……。トウコ!僕は先に行く」

彼もヤーコンさんが去った方向へ走っていった。話しかけるなら今のタイミングだと思って自転車から降りた。

「ねぇ、トウコさん!そのプラズマ団を探し出すの協力させて!」

「あ!ジルチさん!!アイツら探すの苦労するから助かる〜っ!それに見つけ出さなきゃジムにも挑戦できないなんて!」

「大変だね……」

「アタシは一旦ポケセンに行ってからジムの方角を探してみるわ!じゃあねっ」

トウコさんはポケセンの方角へ走っていった。彼女が町の北側を探すなら私達は南側を探そうと思ってポケナビのタウンマップを開けた。

「ジルチ。この町で隠れやすそうな場所は南側にある民家や船だと思うけど奥の冷凍コンテナはどうだろう?ロケット団なら民家や船に隠れてた事はあった」

「んー……」

レッドと一緒にポケナビのタウンマップを見て考えた。プラズマ団は意外と目立つ格好してるのに堂々としてる。敢えて民家や船に隠れず、マーケットの中に潜んでいる可能性もある。

「とりあえずマーケットに行って、プラズマ団が見つからなかったら冷凍コンテナの方へ行ってみよう!」

「わかった」

もしもに備える為に私達は先にホドモエマーケットへ向かった。

「おぉ…」「すごい品数…」

『見て!キレイなお花!』

季節ものも何でも揃っていると見たけどこれほどとは思わなかった。

「漢方薬とかお香がある」

「…漢方薬はいいかな。苦いのは嫌だし」

フレンドリィショップでは見ない物がいっぱいあって、フロアを回っていると見覚えのあるラベルが貼った瓶を見つけた。

「あ!モーモーミルク!!」

「いらっしゃい!このモーモーミルクはアサギシティの牧場から産地直送したものだ!」

『ジルチがミオで言ってたモーモーミルクってこれ!?』

モーモーミルクと聞いてリオルの目が輝いた。

「そうそう!ジョウトに帰ったら飲もうと思ってたけど、ここで手に入るなんて…!!」

「何本か買っていこう!」

「それなら12本入りを買うのがお得だ!1本500円だが、12本で6,000円!」

「それ、お得じゃないですよね…?」

「おっと、バレちまった」

「買ってすぐ飲むから僕らと皆の分を買っていこう。おじさん、14本で」

「6,000円だ」

「お得になった!?」

「はっはっはっ!サービスってのはこういうもんよ!!」

「あ、ありがとうございます……?」

お互い3,000円ずつ出してモーモーミルク14本入った箱を受け取った。

「僕が持つよ」

『ぼくも!』

「リオルはまだ身体が小さいからダメだよ。重たくない?大丈夫?」

「これくらいの重さは平気さ!」

軽々と箱を持ち上げてマーケットの端にある休憩広場で手持ちを出した。

『おいしー!』

「風呂上がりに飲むと効果抜群って書いてあるね」

「それね、キンキンに冷やした瓶で飲むとすっごく喉に爽快感があって最高だよ!」

他のポケモン達も懐かしい味、これが噂のモーモーミルクか、スゴく美味しいと言ってたから良かった。

「普通の傷薬はここには売ってなかったから次の町でフレンドリィショップへ行こう」

「そうだね。一息着いたし、ここにはプラズマ団はいないみたいだから冷凍コンテナを探そう!」

空になった瓶はリサイクルボックスに入れて私達は南側にある冷凍コンテナへ向かった。

「ここが冷凍コンテナ…?結構数があるね」

「ん?君達、冷凍コンテナに用があるのか?」

「はい。ちょっと人を探してまして」

「なら、そこの金網の隙間から冷凍コンテナに行けるべ」

「ありがとうございますっ」

自転車を置いて、人が1人通れそうな隙間を抜けて奥の方から防寒着を来た人が出てきたからあそこが冷凍コンテナと思った。

「……。何人かいるけどプラズマ団かどうかまではわからない」

「中に入って探そう。いなかったら残念だけど」

「そうだね」

中へ入ろうとしたらさっきトウコさんと一緒にいた少年がやって来た。

「君達は……確か博物館で会ったトレーナーですよね?何故こんな所に……」

「実はトウコさんと一緒にプラズマ団を探してて…」

「まさか、この中にプラズマ団いないですよね……?」

「ホドモエマーケットにいなかったので候補としてはここがあるかと」

「……寒いのは苦手なのに調べないといけないのですか。ちょっとメンドーだな」

「仕方ないよ。私達も協力するからそこまで長居しないで済むと思うよ」

「協力ありがとうございます」

「寒いのは慣れておいて損はないよ?」

「レッド、シロガネ山基準はダメだよ!」

そんな事を言いながら私も寒いのは得意じゃないと思いながら冷凍コンテナの扉を開けた。

「……1つ聞いてもいいですか」

「何?」

「トレーナーにとって強い以外に大事なことってありますか?」

「あるよ?でも、その答えは私達が言っていい答えじゃないと思う」

「君が旅をしてるならその答えは旅の中にあるさ」

「………」

チェレン君は私達の返答に理解し難い表情を見せた。それに少し違うけどソウルに似た疑問だったから何かヒントらしいのを言うべきか悩んだ。

「私達はその答えを知ってるからチャンピオンになれたよ。じゃ、また後でね!」

「え!?チャンピオンって!?」

"チャンピオン"と聞いて慌てる彼を置いて私達は先にコンテナの奥へと走っていった。

「あれってジルチなりのヒント?」

「んーそのつもりだったけど…ちょっと違ったかも」

「チャンピオンに必要なのはトレーナーとして多くの経験を学ぶ事。その内容はトレーナーの数だけあるけど同じものもある」

「そうだね。彼は旅をしていっぱい経験したらわかるよね」

「うん」

一部床が凍ってる場所があって、滑りはしなかったものの、シロガネ山と比べたら……いい勝負してる寒さ。バクフーンを出していいかなと考えていたらレッドが帽子を被せてきた。

「?」

「上着だと見てたら寒くなるって言うから帽子にしてみた。頭だけでも暖かかったらマシだと思う」

「ありがとう!」

『それでもジルチは寒そう』

「うん…」

帽子で少しマシになったと思うけどやっぱり寒いのは寒い。二の腕を擦っていたけど、隣にいるレッドは半袖で平気な顔をしていた。

「シロガネ山を出てジルチの寒さ耐性がなくなってるから早くプラズマ団を見つけよう」

「う、うん……」

長年鍛えた耐性とその場の適応力だけの耐性じゃあ差があると身にしみた。
コンテナの上を見渡しても作業員がいるだけでプラズマ団らしき姿はなかった。ここも収穫がなかったら流石に嫌だなと思って波導でコンテナ内を感じてたら1つだけ複数人いるのがわかった。

「レッド。あそこの奥のコンテナに何人かいるよ」

「作業員じゃなくて?」

「作業員と違って集団で全く動かないから変だと思う」

「プラズマ団の可能性が高い。行ってみよう!」

駆け足でそのコンテナへ向かうと後からチェレン君が追いかけてきた。

「……?中に誰かいるのですか?」

「うん。まだ確認はしてないけど大勢いる」

「じゃ、行きましょうか」

3人で中へ入ると8人のプラズマ団員に囲まれた七賢人らしき人物が見えた。

「「!!」」

「お前達、もっと私をくるめ。寒くて敵わんぞ……」

何だか馬鹿げた事をしてると少しため息をついてしまった。

「……やれやれ。本当に隠れていたとは。寒いならメンドーだけど外まで案内するよ?」

案内はするけどヤーコンさん行きだけどね、と思った。

「今、預かっているのは王の友達であるポケモン。こんな所で傷つける訳にはいかぬ。お前達、こやつらを蹴散らせ」

「わかりました。七賢人様!という訳でオレ達が相手だ!」

「半分ずつ片づけましょう!」

「いいよ!」「任せて!」

一気に4人のプラズマ団員を相手しようと思って私はバクフーンのボール、レッドはリザードンのボールを投げた。

『ぼくも戦う!』

「お願いね、リオル!」

「ピカチュウも加勢だ!全員かかってきなよ」

「なにくそー!それなりに強いんだぞー!!」

ムキになった4人はそれぞれポケモンを出して一斉に襲いかかってきた。

「リオル!ブレイズキック!!」

「10まんボルトだ!」

ミルホッグとズルッグは10まんボルトを浴びて痺れているところをリオルのブレイズキックが見事に入った。
残るはレパルダスとヤブクロン、チェレン君が相手をしている団員のポケモンのみ。

「バクフーン!」「リザードン!」

「「ブラストバーン!!」」

冷凍コンテナが心配になったけど、2匹は力加減したのか範囲を狭めてくれた。業火に巻き込まれてチェレン君が相手をしてた団員のポケモンも戦闘不能になっていた。

「……人と一緒に働くポケモン達、楽しそうに見えるがきっと苦しんでいるのだ!そうに違いない!」

「勝手に決めつけないで!!ここにいる作業員達とそのポケモン達は苦しんでいない!!」

『そーだ!そーだ!』

私は波導で彼らの気持ちが何となくわかる。だからプラズマ団の言ってる事が無理矢理な口実過ぎて嫌だった。
言い争いが始まりかけたその時、作業員を何人か連れてヤーコンさんが現れた。

「おお!こんな寒い所に隠れていたとはな!お前達、このポケモン泥棒を連れていけ!」

「ラジャー!!」

手際よく次々と縄にくくりつけて連れ出されていくプラズマ団を見届けた。

「ちょっとやるな。さて、約束だ!オレ様のジムに挑戦しに来い!」

本当に見つけるとはやるなと思っているヤーコンさんはその場を去っていった。

「これでジムに挑戦できるね」

「そうですね。やれやれ……。プラズマ団の理想……それはポケモンと人が離ればなれになる事……。それってこの世界からポケモンがいなくなる事と同じじゃないか……。全く、メンドーな連中ですね」

「……そうだね」

「寒いから外に出ます」

「ジム戦頑張ってね」

「もちろんです」

チェレン君も早足で出ていったから私達もすぐに外へ出ていった。プラズマ団探しに冷凍コンテナに入るのはもう懲り懲りだと思った……。



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