09
リーグへ来て阻止するにしても何故、Nはその事をわざわざ言ったのか理解に苦しんでいた。
「プラズマ団にとって厄介なトレーナーをいち早く潰しておきたいはずなのに…どうして……っ」
あれでは計画を阻止される危険性が高まる失言なのに…あの時、彼の眼差しを見て本気で立ち向かおうとしているのがわかった。
「………」
そして、その覚悟を見せられて私は彼の後を追う事ができなかった。
「あーっもう!どう考えてもNのやり方がわかんないっ!何か表向きに動いてるプラズマ団のやり方じゃなくて、彼自身のやり方を単独でしてるっ」
考えても埒が明かないからとりあえず、レッドに見つけたプラズマ団をライボルトが追いかけてるのを伝える事にした。
「もしもし?」
[もしもし、どうしたの?]
「プラズマ団を見つけて、ライボルトが追ってるんだけど……」
[ジルチ?観覧車の所にいるよね?すぐ行く]
「………」
Nに出くわした事を話そうと思ったけど、電話越しで聞こえた私の声に何か気づいたのか切られてしまった。
『ジルチ……大丈夫?』
「ちょっと動揺してる」
『あの人、波導使いなのかな?ジルチの考えてる事わかってたよ』
「……多分、違うんじゃ…ないかな」
波導とはまた違う、もっと私と近い何かを感じた。と、いっても彼はポケモンの言葉がハッキリわかって、千里眼的な力を持つだけで人の心までは―
「……(まさか…)」
一瞬"ある可能性"が頭によぎったけど、絶対それだけは的中しないでほしいと思った。
その後、レッドはすぐ自転車に乗って駆けつけてくれた。
「苦いきのみを食べた顔してるけど何かあった?」
「…うん。実は観覧車のエリアでNと会って、一緒に観覧車乗ったんだけど…彼がプラズマ団の王様だって言われた」
「何かされなかった…?!」
「大丈夫。彼とは遊園地にいたしたっぱを逃がす時間稼ぎのバトルをしただけ」
「そう…。ところで、ライボルトは?」
「えっと…」
追いかけたライボルトの行方を探っていたら、ライモンジムの近くで困った波導を放つライボルトを見つけた。
「あ、あれ?ライボルト…?」
「どうしたの?」
「……ライモンジムの前で誰かに抱きつかれて困ってる……?」
「???」
流石に状況がよくわからなくて私と同じ訳のわからない顔をした。
「とりあえず乗って?」
「う、うん」
自転車に乗ってライボルトの元へ駆けつけると、見知らぬ女性がライボルトに抱きついていた。
「素敵……この惚れ惚れしちゃうたてがみに、鍛え上げた筋肉……っ」
『クゥ……』
「……」「……」
「この足の筋肉は刺激を与えて強化したものじゃなくて過酷な環境で鍛えたもの…!あぁ、素敵っ」
どう声をかけてライボルトを救おうか考えていると、ピカチュウが弱めの電撃を女性に当てた。
「キャッ!!あ、そのポケモン…!!」
突然の痺れに驚くもレッドの肩にいるピカチュウを見て声を上げた。
『ピ?』
「ピカチュウ!!イッシュ地方で見ない電気ポケモンを2匹見かけれるなんて奇跡!!ほっぺをスリスリしていいかしら!?」
「痺れていいなら構わないけど、ジルチのライボルトを返してほしい」
「このライボルト、あなたの?」
「はい…」
ようやく女性の抱擁に解放されたライボルトは礼を言うと私の足元で伏せた。
『プラズマ団を追いかけてジムの前を通ったら恐ろしい速さで飛びつかれた』
「恐ろしい速さって…」
『結果を言えば奴らを捕まえ損ねた。ゴメン』
「いいよ、ライボルト。プラズマ団に関して収穫はあったから次の街へ行こう」
『うん』
足の速いライボルトを捕まえたこの女性も"イッシュ地方で見ない電気ポケモン"という刺激で筋肉を強化したのかもしれない。
「あなた達、見たところ別の地方から来たトレーナーよね?」
「そうですよ?」
「どこから?」
「僕はカントー地方から」
「私はホウエン地方からです」
「遠い地方から来たのに、このライモンジムに挑まないの?」
「今はジムバッジを集めるつもりはないのでジムには挑みません」
そう、今は集める気はない。Nはバッジを集め、リーグで阻止するよう言ってきたけど、それまでにプラズマ団の拠点を見つけて壊滅させるまでの事。
「そうなの……。私はカミツレ。モデル業をやってて、ここのジムリーダーよ」
「「ジムリーダー…!?」」
モデルと聞いて納得はしたけど、さっきまでライボルトに抱き、ピカチュウの電撃を浴びても平気な顔をしていた人がジムリーダーとは思わなかった。
「意外に見えたかしら?こう見えてライモンでは有名もん」
「「……」」
「でも、私はそのライボルトの筋肉に触れて感じたわ。……この子の持ち主は手強いトレーナー、とね。だからこの場でいいからそのライボルトとピカチュウとバトルしてくれない?」
ジムリーダーからバトルを申し込まれたのなら断る理由はない。私は好戦的なオーラを出すレッドとピカチュウを見て頷いた。
「ライボルト、準備いい?」
『ワフッ』
「ピカチュウもいいよね」
『ピィカ』
「いい目をするわね。さっきジム戦に来た子も良かったけど、それ以上のものを感じる…!愛しのポケモン達で、あなた達をクラクラさせちゃうわ!ゼブライカ、エモンガ!」
美しさを感じさせる投げ方をして出てきたのはゼブライカとエモンガというポケモンだった。
「でんこうせっか!」
2匹はもの凄い速さでライボルトとピカチュウとの距離を縮めた。
「10万ボルト!」
少し掠めただけで地面がえぐれるほどの電撃が2匹を襲うも、ゼブライカに吸い寄せられていった。
「あ、避雷針でライボルトの10万ボルト吸われちゃった」
「凄まじい威力ね…!エモンガ、つばめがえし!ゼブライカはスパーク!」
「エモンガにでんこうせっか!」
素早い動きに翻弄されないようピカチュウは動きを見て、エモンガに負けないくらいの速さで向かった。一方、ゼブライカのスパークはライボルトに吸い寄せられていった。
「お互い避雷針を持ってたなんてっ」
「戦う技が減りますね。ライボルト、かえんほうしゃ!」
「ニトロチャージ!」
ゼブライカがライボルトに負けない速さで攻撃してきたり、エモンガとピカチュウのでんこうせっかの激しさが増した。
そして、限られた技同士の戦いは私達の勝利で終わった。特性の避雷針は便利だけど、パートナーのポケモンが電気タイプだと申し訳なく思う。
「惚れ惚れしちゃうファイトスタイルに私のお願いを聞いてくれたお礼と…ライボルトが追ってたプラズマ団を逃した詫びにライモンバッジを渡します」
「あ、ありがとうございます…?2人分もいいのですか?」
「いいわよ。あなた達の電気技にすっごくクラクラしちゃったから。それじゃあね」
満足して鼻歌を歌いながらカミツレさんはライモンジムへ帰っていった。
貰ったジムバッジをバックにしまってライボルトをボールに戻した。
「こんな感じでジムバッジを貰ってよかったかな?」
「くれないよりかはマシだよ」
「あ……そうだね。次の街へ行こっか」
「うん!また後ろに乗るね」
次はいきなり飛び降りないで、と話しながら私達は次の街へ向かった。
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