水の都の巫女 | ナノ


08

 砂嵐が舞う4番道路を抜けて、ライモンシティに繋がるゲートで服や靴に入った砂を落としていた。

「吹雪は慣れてるけど砂嵐はちょっと……」

「口の中がじゃりじゃりする…」

久々に天候で苦労した気がする。ライモンシティがどんな街かポケナビの情報を見てたらレッドは首を傾げた。

「4番道路のリゾートデザートにある古代の城行かなくていいの?」

「資料見た時から気になってるけど、今はいいかなー…」

かつて栄華を誇るもいつしか砂に埋もれた大昔の遺跡。その周囲に奇妙な石像があるらしく、プラズマ団の件が落ち着いたら調べに行こうと考えていた。

「全てが終わってからだね」

「うん…!」

ゲートから出たらコガネシティに似て賑やかな街だった。

『ジルチ!丸くておっきな建物がある!』

「わぁ…!」

「あれは観覧車だね。テーマパークが建ち並ぶ活気溢れた娯楽都市……ジム以外にバトル施設あるんだ」

「気になる?」

「もちろん!」

バトルサブウェイという列車に乗りながらバトルするという施設。説明を見ても面白そうだから行ってみたいと思った。

「でも今は行かない」

「何で?」

「ジルチがリゾートデザート行かなかった理由と一緒!」

さ、行こう!とレッドは私の手を引いて階段を上がるとすぐそこにプラズマ団のしたっぱがいた。

「じいさん!あんたが育て屋ってのは知っているんだ!何たってオレ達プラズマ団だからさ!」

「オレ達、人のポケモン奪ってんだよ。育て屋といったらいろんなポケモン預かってんだろ。それをオレらに寄越せよ!」

「なんという無茶を!」

またプラズマ団が意味不明な事を言ってると思ってたら、おじいさんが辺り見回して私達と目が合った。

「!」

「あ、目が合った」

おじいさんは慌ててこっちへ来ると私達の服を掴んだ。

「おお!強そうなトレーナーさん達、助けておくれ!」

「いいですよ!」

「邪魔するならお前のポケモンを奪うぜ!」

「邪魔はするけど」「奪わせない!」

プラズマ団がバトルをしかけてきたからピカチュウとリオルが前に出て、あっという間に倒した。

「プラーズマー!」「うひゃあ!!」

「ジルチ、したっぱから本拠地の場所聞き出そうよ」

「そうだね」

「!!」

レッドと目が合った瞬間、プラズマ団は後ずさりをし始めた。

「何だコイツ!!一先ず逃げるとするか!」

「遊園地でやり過ごそう!」

「あ!待て!」

プラズマ団が逃げ出して追いかけようとしたらおじいさんに捕まった。

「ありがとうよ!こいつは気持ちじゃ。遠慮せずに貰ってくれ!新品の自転車でライモンシティを観光する予定だったが……結局乗らずじまいでな」

「は、はぁ…」

「わしは3番道路で育て屋をやっておるんじゃ!育ててほしいポケモンがいれば、遠慮せずに預けておくれ!……ふう、観光に来てエライ目に遭ったもんじゃ!」

育て屋のおじいさんはレッドに自転車を渡して去っていった。確かに観光へ来たのにプラズマ団に絡まれて悲惨だったと思う。

「とりあえず自転車に乗って遊園地の方へ行こう!後ろに乗って」

「え、大丈夫?」

「後輪のちょっと出てる所に足乗せれる?」

「ここ?」

「うん。乗ったら僕の肩に掴まって!」

土踏まずの内側がギリギリ乗せれそうな部分に足を乗せて肩に掴まると、レッドはタイミングを計って自転車を漕ぎ出した。

「!!」『わぉ!』

漕ぎ始めは身体を引っ張られる感じがしたけど、空を飛ぶのとまた違う風が吹いて心地好かった。初めて自転車に乗ったから少し怖かったけど、レッドはそこまでスピードを出さずに遊園地へ向かった。

「人が増えてきたから降りよう。スピード落とすから―」

「え?」

ラティアスから降りる感覚で自転車を先に降りてしまった。着地は失敗しなかったけどレッドはすぐにブレーキをかけて振り返った。

「……いきなり降りるのは危ない」

「ご、ごめん!」

自転車を押しながら遊園地内を捜索してたけどプラズマ団の姿は見当たらなかった。

「奴らが逃げた遊園地エリアに来たのはいいけど人多いね…。波導じゃ探せれない…」

「地道に探していくしかないね」

「うん」

「育て屋のおじいさんから貰った自転車どうする?」

「せっかくだしイッシュにいる間使おう」

「そうだね」

捜索を続けていると、リオルがずっと上の方を見ているのに気づいた。

『……』

リオルの視線の方へ見上げると、ライモンに着いた時に見えた観覧車だった。初めて見る物だから興味津々で観覧車から視線を反らす事がなかった。

「……」

「ジルチ、リオルと一緒に観覧車乗ってみたら?」

「え?」『!』

「観覧車の上から遊園地エリアを見渡したらプラズマ団見つけれるかもしれないし……一石二鳥でしょ?」

レッドもリオルが観覧車に興味津々な事に気づいていた。

「ありがとう、レッド」

「落ち着いたら次は僕と一緒に乗ろう!じゃ」

レッドは自転車に乗って人混みの中をすり抜けていった。乗り慣れてる感じがするからカントーを旅してた時に乗ってたのかなと思った。

『ね、ジルチ!』

「うん!観覧車乗ろっか!」

『やった!!』

観覧車のあるエリアへ向かうと見に覚えのある姿が見えた。

「!」

「あなたは…!」

「……プラズマ団を探しているんだろう?彼らは遊園地の奥に逃げていったよ。ついてきたまえ」

「えっちょっと!?」

Nに手を引かれて観覧車乗り場の近くに来た。観覧車は目の前にあるのを理由に離れようとしたけど、それを読んでいたのか一向に手を離してくれない。

「……いないね。観覧車に乗って探す事にしよう。ボクは観覧車が大好きなんだ。あの円運動……力学、美しい数式の集まり……」

「……」

一方的に話しかけてきた上にそのままNと一緒に観覧車へ乗る事になってしまった。結果的に観覧車に乗れたからリオルは喜んでいるけど、私は目の前に座っているNに警戒した。
観覧車は空へと近づいてライモンを一望できるくらいの高さになった途端、黙ったままのNが話し出した。

「……最初に言っておくよ。ボクがプラズマ団の王様」

「なっ!!?」

―油断した。そう思った瞬間には波導で作った剣を彼の前に突き立てていた。

『ジルチ!!冷静になって!』

「……っ」

「ゲーチスに頼まれ、一緒にポケモンを救うんだよ。この世界にどれほどのポケモンがいるのだろうか……」

「星の数だけ人がいると言うのと同じようにポケモンもいます!Nが本当にポケモンを救いたい気持ちがあってもあの男は!ゲーチスは違う!!」

お母さんとお父さんを拐って故郷を滅ぼした張本人が人に縛られているポケモンを救いたいだなんて白々しいにも程がある。

「……キミの故郷が?」

「!!」

私が言った訳じゃないのにNの口から"故郷"という単語が出て心がざわついた。千里眼とかエスパーとかそんな感じじゃない、このまま一緒にいたら危ないと思って地上に近づいた観覧車から飛び出した。

「N様!」「ご無事ですか!」

「そんな…!プラズマ団っ!!」

降りたら降りたで目の前にはプラズマ団のしたっぱがいた。いつ連絡を取ったのか、そんな素振りはなかったのにと思いながら後ろにいるNを睨んだ。

「…!!!」

「大丈夫。ポケモンを救う為に集まった人も……ボクが守るよ。ボクが戦う間にキミ達はここから逃げたまえ」

Nの言葉を聞いたしたっぱ達は頷いてその場から逃げ出した。

「逃がすものかっ!ライボルト、追いかけて!!」

ここで逃がしたら厄介だからライボルトを出して追いかけさせた。Nは逃げた団員を追いかけるライボルトの姿を見ていたけど、興味をなくしたのか私の方に振り返った。

「……さて、ジルチ。ボクの考えわかるかい?」

「目の前でその光景を目の当たりにした事があるから人に傷つけられるポケモンを助けたい気持ちはわかります。でも!人とポケモンを無理矢理切り離すのは間違ってます!」

「そうかい……それは残念だ。さて……ボクに見えた未来。ここではキミに勝てないが逃げるプラズマ団の為、相手してもらうよ」

「時間稼ぎって事か…ッ」

Nの繰り出すポケモンは前と同じで近くに生息するポケモンだった。特に育てたという訳でもなく、たまたま会って行動を共にしてる…そんな感じがした。それでも戦う彼らは嫌がらずに頑張っている。

「リオル、まだ戦える?」

『うんっ』

時間稼ぎのバトルだけど、勝てば嬉しいから次々と戦闘不能にしていくリオルは張り切っている。

「キミのポケモンは何だか嬉しそううだね」

「どんな理由でもバトルはバトル。勝てば嬉しいのは変わらないですよ」

シンボラーが繰り出されてリオルは一切手を抜かず、初めて見るポケモンを観察しながら技を選んでいる。

「負けるにしても見えていた未来と違う?キミは?」

「……」

Nがどういう未来を見ていたのかは知らないけれど、エアカッターをかわしたリオルはブレイズキックでシンボラーを地面に落とした。

「結果は一緒だった……。だが、キミは……何者だ?」

「私は、ポケモントレーナーのジルチ!私達はプラズマ団に負けないっ」

「……キミは強い。だが、ボクには変えるべき未来がある。その為に……!」

「!!」

Nは私に近づいて腕を掴んだ。

「ボクはチャンピオンを越える。誰にも負けない存在となり、全てのトレーナーにポケモンを解放させる!」

「チャンピオンになったとしてもそんな事はさせません!ジョウト地方の元チャンピオンとして、トレーナーとしてプラズマ団の野望を阻止します!!」

「キミがポケモンと一緒にいたい……!そう望むなら各地のジムバッジを集め、ポケモンリーグに向かえ!そこでボクを止めてみせるんだ」

「リーグ…?どうして…?!」

Nは掴んでいた手を離して私から離れた。

「それほどの強い気持ちでなければボクは止められないよ」

「……」

Nは強い眼差しで見てから私の前から去っていった。
彼がチャンピオンを目指して自身の望みを叶えるつもりなら…ジムバッジを集めてリーグ戦で阻止する方法が1番なのかもしれない。


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